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 私は全国各地を巡った。とはいえ女が一人で旅をするのは非常に危険である。護衛は父親に頼んだ。父は元々勇者パーティーの一員だったほどの豪傑だが、痔を理由にパーティーを追放されたという苦い過去を持っている。

「お前はクビだ!」

「何故だ勇者! 俺は今までこのパーティーに貢献してきただろう!」

「何故クビかって? 決まっているだろう。お前が痔だからだ!」


 ……というやり取りがあったのかどうかは定かではないけれど、父さんは喜んで私の旅に付いてきてくれた。


 父さんは時々、思い出したように「健康と友情は、一度失ったら中々取り戻せないものだ」と言った。私もそう思う。


 私は治癒と痔に関する文献を求めて歩き回り、路銀を得るため町々で人々を治した。私は卒業するまでにみっちり修行を積んでいたし、病気の知識も人一倍あったので、多くの病気を治すことが出来た。



 私は既存の治癒魔法に頼るだけでなく、新しい薬草を取り入れたり、精霊魔法に挑戦してみたりした。

 ちなみに実験台は父さんである。

 しかしこれは上手くいかなかった。精霊からは「おっさんのケツなんて見るのも嫌だ」と拒否され、薬草を塗ってはお尻からキノコやタケノコが生えたりした。



 そして試行錯誤を続ける中、辺境の町でついに、ある石碑を見つけたのだ。





 カギは【ソフトタッチ】というスキルだった。この世界にはスキルという概念があり、スキルを習得するためには経験値が必要になる。

 例えば火属性のファイアボールという初歩的な攻撃魔法は100ポイント必要、もっと難易度の高いフレイムウォールなら2000ポイント必要、という感じで、得たいスキルの難易度によって必要な経験値は異なる。



 ソフトタッチとは、優しく撫でるように触るという、おおよそ何のために存在しているか分からないスキルで、しかもスキル習得には10億ポイントという、途方もない経験値が必要だった。


 治癒魔法使いにとっての経験値習得の機会は、人々を治す行為だった。

 でも一回当たり、得られるのはせいぜい10ポイントで、どんなに多くても100ポイント程度。どう考えても費用対効果が釣り合っていないので、誰も習得しようとはしなかった。



 けれど、私がその辺境の町で見た石碑には確かにこう記されていた。『聖女ユピテル・ホルスがこの地でソフトタッチを習得。それを治癒魔法に応用し、自身の痔を治したことをここに記録する』と。


 痔の治療記念に石碑を立てるなんて、きっと聖女ユピテルは痔が治ったことがよっぽど嬉しかったのね。お陰で私の道は開けた。

 痔を治すためにはまずスキル・ソフトタッチを習得する必要がある。

 そのためには途方もない人数を治癒しなければならない。治して、治して、治しまくるのだ。


 私は早速その日から作業を開始した。時は一刻を争う。途方もない作業量が必要だった。

 もう全員からお金を取っている場合ではない。お金は有る人からだけもらうことにした。貧困層からお金を取らなくても、旅には十分すぎるお布施が集まる。



 何しろ10億ポイント必要なのだ。むしろ治癒に払うお金のない貧困家庭ほど病気に苦しんでいる。彼らを治せばそれなりに美味しい経験値が得られる。お金が得られなくても、病気を治せればwin-winなのだ。

 私はスラム街を優先的に周り、病める人々を片っ端から治療していった。



 通常の聖女ならば魔力切れを起こすだろう。けれど私は魔力のスタミナが人より高いらしく、一日中治療に専念することが出来た。


 こうして私は一つの町を治癒し終わると次。治癒し終わると次の町へとどんどん進んでいった。

 気付けば国外に出ていることもしょっちゅうだった。


 シーリー王国と敵対関係にウルハランドに入った時などは、最初私はかなり警戒されたし、投獄されそうになったこともある。けれど治癒を愚直に行っていくと、徐々に信頼されるようになった。

 どうやら私の「多くの人の治療を行いたい(痔を治すために)」という信念が伝わったようだ。痔は国境を超えるのである。




 国を超えてまで治療をしても、経験値は全く足りなかった。必要な量の10分の1さえ集まっていなかった。



 そうやって試行錯誤しているうち、私は偶然、治療よりもっと効率の良い方法を見つけた。それは人に教える「伝授」という作業である。


 例えば私が、とある町の患者を全て治せたとしよう。けれど患者が居なくなるのはその時点までで、次の日からはまた新たな病気の患者が生まれる。

 現地の聖女や治癒魔法使いなどに治療できる技術があれば良いのだが、治癒魔法の未発達な地域や、何なら治癒魔法使いの一人も居ない地域だってあった。


 そんな時、私は魔力の素養のある一般人を選び、治癒魔法を伝授することにしたのだ。本来、治療魔法を習得するには高額な金銭が必要になる。どの聖女養成校で学ぶにしても、庶民の家なら三軒建つくらいのお金が必要だ。

 それに聖女の魔法は神秘の技術であり、決して外で教えてはならないと言われている。選ばれた人間のみが使える、神の技術なのだと。


 私はそうは思わない。実際に学園で学び、習得してみた感じ、他の魔法と難易度はそう変わらない。結局、治療魔法の技術を独占したい教会が、技術の流出を恐れて、そのように言っているのだろうと私は結論を下した。



 と、いうことで私は治癒魔法の技術の伝授を開始した。これに関しては痔は無関係だ。私にも聖女としての自負があり、多くの人を助けたいという思いがある。けれど私の身体は一つ。それなら新たな聖女候補を「育成」するしかないのだ。


 治癒魔法の技術を伝えることは、簡単では無かった。まず私たちが3年で習得してきた内容全てを、1週間や2週間で出来るようには絶対にならない。それでも、初歩の初歩の治癒魔法が使えるだけで、全くその地域の状況は異なってくるのだ。



「伝授」の凄さに気付いたのは、治癒魔法の技術を教えた後、さりげなく獲得した経験値を確認した時だった。

 私は思わず飛び上がってしまった。

 獲得している経験値量が跳ねあがっていた。その量、何と普通の治癒の約100倍。

 私は興奮していた。痔を治す技術「ソフトタッチ」を発見したことの次に興奮した。


 これを続けて行けば、必ずいつか「ソフトタッチ」の習得が出来る。私は次の日からも、意気揚々と聖女業に励むことにした。




 患者の9割が死亡するという、史上最悪の死の病、灰哭病が流行していると聞いたのは、ちょうどその頃だった。



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