第3話 【オフコラボ】という名の夫婦生活
帰宅。
自分の家、いや、自分たちの家の玄関に辿り着き、私たちは無言のままリビングへ向かった。
ほんの1時間前の出来事が私にとっては嘘だったかのように感じている。実際に無事家に辿り着いて少し落ち着いている自分がいる。
「「ただいま」」
由衣と声が揃い少し笑いそうになったが、黙々と自分の仕事部屋に向かってジャケットを脱いでハンガーにかけ、リセッシュを吹きかける。
荷物を置きに由衣も自分の部屋へと向かった。
自宅は都心郊外の方にあるが少し大きい部屋のマンションを借りている。私の仕事部屋と彼女の服などをしまう部屋、リビングキッチンに寝室、風呂トイレ別のオートロックドアがついている。
今にして思えば、お互いの部屋に入ったことはない。興味がないわけではないが、互いのプレイベートを尊重した結果ではある。
上着を部屋シャツに着替え、2人でリビングの椅子へと座りなおした。普段ならこの机で夕ご飯を食べたり、旅行の計画を決めたりするのだが、今日はもっと大事な話をしなければならない。
お互いに気まずい。今まで由依と過ごしてきた時間の中で最も気まずいかもしれない。
由衣は人気Vtuber『アノネ・リスペリーノ』だった。
そして私は他企業Vtuberのマネージャーだった。
お互いに知った新事実とこの状況に何を聞いたらいいものか、私もだが由衣も同じくらいに何を聞いたらいいか分からないだろう。
不安なのだ。
この事実が、夫婦という私たちを変えてしまうのは明確だ。
「なあ、由依、その、なんというか」
「うん、その、私もビックリしちゃったね・・・あははは・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・沈黙。
当たり前だ。会話が続くわけがない。だが、話さない限り問題は解決できないし、由衣とのこれからを一緒に考えられることもできない。
「ゴメン! あたしがずっと黙ってたから、こんなことになっちゃって・・・」
「いや、私こそ言ってなかったことに非がある! 由衣に早く言えばよかったよ・・・」
「そんなことない! つーちゃんはあたしが土日が仕事でも文句言わないで、仕事が遅くなっても起きてて待ってくれてたのに」
「それは由衣が頑張ってるから、ファンの人とのイベントや放送のためじゃないか! 私だって急な連絡や対応で急に家を空けることもあったし、それで由衣に寂しい思いをさせてたから」
「そんなことない! 私だって急な泊まりとかあったし、つーちゃんを寂しい思いにさせてた!!」
「いや私だって、由衣との約束を急にキャンセルしたりでデートできなかったりして迷惑をかけたよ!!」
「それはつーちゃんがマネとして頑張ってる証拠でしょ! 実際『ノヴァライト』の子たち今すっごい人気だし、あたしも頑張ろうって思えるほどに素敵なグループなんだから!」
「え、あ、それはありがとう・・・。その、アノネさんもこの前のライブ凄くよかったです・・・。普段の可愛いだけじゃなくて、カッコいいダンスとかでのギャプとかよりファンになりました」
「え!? あ、その、それは、どうも、ありがとうごじゃいます・・・」
「「・・・・・・」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・再び沈黙。
だが、お互いになんだか赤面が止まらない。普段から言い合うこともあるが、こんなにも仕事のことを言い合うことはなかった。しかも同業者から、こんなことを言われると流石に照れも出る。
まごまごとしていると、机に置いた由依の手が伸び私の手と絡むように握った。
「なんか、ちょっと変な気分だけど、悪い気はしないかな」
「・・・私もそう思う」
ちょっとだけ温かい由衣の手を私も握り返すと、溢れるような彼女の笑みにつられてしまう。
お互いに隠していた秘密はあったが、それによって何かが大きく変わる予感は外れた。
由衣と私は夫婦なのだ。お互いのもっと深いところを愛おしく思い合った中に、何をしている人なのかどうかというのは些細な問題で杞憂であった。
「あっ!!!!????」
パッと由衣の手が離れ、慌てたようにスマホを取り出す。
「やばい! あたし今日夜中に配信する予定だったんだ!!」
「えっ!? 配信って何時から?」
「21時から、この前のライブの振り返り雑談でもしようかなって!」
「それはファンだったら聞きたい配信だな・・・。でも、あと30分後だ! え、普段はどこから配信してるの」
「家にはつーちゃんいるし、事務所の配信スタジオでいっつもしてる。回線良いし、PCスペックも高いからいいんだよね」
「へー、事務所に配信するためのスタジオがあるんだ。確かに回線とか、大声を気にせず配信できるのはいいね」
「そうそう。身バレ防止にもなるし、まあサテライトオフィスみたいな感じでいいんだよね」
「ウチでも検討してみようかな」
「って、ヤバい! どうしよう、こっからタクシーでも絶対1時間以上かかるって!」
「いまのうちアプリでタクシー呼んでおくから準備して!」
「わかった! あ、もしもしマネちゃん? 今日の配信なんだけどーーーー」
自分のスマホを取り出し急いでタクシーの迎車を依頼する。仕事上手慣れたもんで手配はすぐに完了した。
「由衣、あと5分で到着するって」
「ーーーーはい、あー、りょ、う、か、い、で、す。ず、すいません・・・」
電話を切った由衣はなんだかショボショボした様子でそのまま椅子に座り直した。
「さすがに今日は夫婦で今後を話し合えってさ・・・。振り返りは体調不良ってことで延期します・・・。あー、ごめんよ! ファムのみんな〜〜〜〜〜」
「・・・いや、それはマネージャーの方が正しい」
なんで私も素直に送り出す側だったんだろうか。タクシーの方には申し訳ないがキャンセルしないと・・・。
「いや、そのタクシーキャンセル待って?」
「え、でも流石に配信は」
「うん、だからつーちゃんとどっか美味しいものでも食べにいこうかなって」
由衣の少し照れた表情とラッキーと思ってるその顔に、私は提案を受け取り店を探した。
「個室で身バレしない良い店を知ってるよ」
ガチで全然更新せずに申し訳ないです。
うっすら楽しみにしている人などからメッセージもいただき励みになりました。
去年ごろから好きなVtuberさんが引退や卒業があり、自分でも想像以上に精神的なダメージがあって好きな創作も仕事も手につかず、またプライベートでも結構大きな事件があり生活を休んでました。
ただ色々自分の中で整理して物語として描きたいテーマ自体はブレずに思い返せたのと、もう1本の作品を書いて自分の不幸は帳消しにしようと思います。
今年は楽しく書いていこうと思うので、コメントやブックマークしてくださると大変励みになります。




