第1話 【悲報】妻との連絡つかず【もしかして】
Vtuberというものが世の中に浸透して、私も人知れず知っていた。
彼らがどういった存在で、どういった仕事となり、どうやって生きているのか。
ただサラリーマンである私、常田(27歳)は、どうにか生きていた。
毎日増え続ける仕事の量、終わらない残業の日々。
会社を辞めてしまえば良いと思うのだが、正直なところ、やりたいことも別にない。
この会社を辞めたところで、私は何かに打ち込める自信がない。
毎日失敗しないように目の前のタスクだけを見つめて、ひたすらに消化し続ける。
しかし、ある日ミスをした。
資料を間違えて消してしまい、プレゼン相手の会社との打ち合わせを改めることになった。
「些細なミス」だと上司は笑ってくれたのだが、私はとてつもなく不安に襲われてしまった。何度頭を下げても、何度謝罪を繰り返しても拭うことはできなかった。
その不安は次第に大きくなり、会社から休職するよう勧められた。
しかし時間があっても持て余すだけの自分にさらに嫌気がさした。
暇な時間で、とあるVtuberの生放送を誤タップした。
見るつもりはなかったのだが、妙に彼女の声が気に入り配信を見てしまった。
そのたまたま見た配信で、私は泣いてしまった。
彼女にとっては何気ない話しだったかも知れないが、私は心動いたのだ。
本当に心から勇気をもらえたのだ。
それをキッカケにVtuberへの興味が強くなり、業界で働いてみたいと思ったのだ。
私がハマったVtuberの事務所は既に業界最大大手で、業界未経験者の募集はしていなかったのは残念だったが、新しくVtuberグループを立ち上げる会社に転職を決心した。
立ち上げはとても大変で本当に語りきれない苦労がたくさんあった。
自分の人生の中でとてつもなく、目まぐるしい毎日には気が遠くなる日もあったが、
そうしてデビューを果たした『ノヴァライト』は本当に我が子である。
そして、もう1つ自分の中で人生の転機が訪れる。
由依との出会いだ。
前職の同期が転職した自分に気をかけてくれ合コン誘ってくれた。
今時合コンなんて、、、と思いもしたが、せっかくの誘いを無下に断るのは申し訳なかった。
「常田さんは、どんなお仕事をされてるんですか?」
元同期の掛け声で始まった3対3の合コンは楽しく進み、隣の席に座った女性から聞かれた。
「仕事は今彼らとは違う会社で働いていて、その、Vちゅ、いやIT系の会社で働いてます」
「そうなんですね。私もそっち系の会社で地方営業の担当をしています」
仕事の話が盛り上がったわけではないが、その会話口から妙に気が合い、趣味の話から私が打ち込めるものがないと話すと面白いゲームがあると熱心に解説までしてくれた。
そこから仲を深めるまでに時間はかからなかった。世間が未曾有のパンデミックだったことも理由かもしれない。
一緒にPCでゲームをしたり、単なる通話をしたり、食べたご飯を報告し合うなど仕事以外の時間はほとんどを由依と共有していた。
だからなのか、数少ないオフラインで会う機会私たちの仲をより深めた。
知り合って1年ほどしてからプロポーズを行い結婚。式はパンデミックの最中もあり執行わず、ウェディングフォトを行った。
純白の花嫁衣装に身を包んだ由依を見て、自分の幸せはこれ以上にないと思った。
夫婦になった私たちは、パンデミックも収束に向かう中で引越しを行い今に至る。
ただ由依には詳しく仕事のことを話せておらず、本来リモートで済むところも会社に出社して行っている。そして極限な限り、自宅では社用のスマホはカバンから取り出さないようにもしている。あまり家庭の中で仕事を持ち込むのは、性分的に違和感を覚えるからだ。
もちろん恥ずべき仕事だとは1つも思っていないが、由依も仕事のことは詳しく聞かないので良しとしている。
ただ由依の仕事も詳しくは知らない。会った時よりも出世はしているようで、土日など地方への出張が度々ある。
こうとだけ考えると仕事にストイックな夫婦に思えるが、出張した際は必ず夜に食べたものをラインしたり、電話がかかってくるなどコミュニケーションをしている。
2人の時はそれこそベッタリするほどの夫婦仲だ。
そう、いい夫婦仲なのだ。
だからこそ、なのだ。
由依から急な泊まりの連絡と、知人の報告が妙に胸を締め付ける。
サンダさんとパルナさんとの打ち合わせは終わった。私の顔色が悪そうだったらしく、2人に余計な心配をかけてしまったのは申し訳なかったが。
由依に着信を入れたが出てもらえず、メッセージを送るも既読がつかない。
電源が切れているのであろう、何か仕事で追われているのだろう。
知らない男、ホテル、急な宿泊、既読がつかず何も起きないはずはなく。
正直全てのピースは揃っているが、そんなことはないと信じないで何が夫であるべきなのか!!
私たちは健全な夫婦で、幸せな家庭だ。しかし、由依がそんな行動に走ってしまうわけがない。絶対にない……!!そう、絶対に……。
だが考えれば考えるほど、過去の些細な喧嘩や由依の最近の様子から引っかかる部分はある。
それこそ2ヶ月ほど仕事で遅くなる日々は本当に多く、そんな合間を縫ってジムに行ったり、土日も友達との用事や出張などで2人の時間は少なかった。
自分たちとの生活よりも、何かを優先させている気配はあった……だが、いや、しかし!!
由依はそんなことしない!絶対に!!
最悪なイメージは膨らみ続ける中で、由依からの着信。急いで電話を取り、「由依、あの」と入れ違いで耳から聞こえた。
「もしもし、由依さんの旦那さんですか」
知らない男の声。
本当に目の前が真っ白になった。
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