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コックリさん

作者: みくた

 小さな蝋燭の炎が狭いお堂と俺の顔を淡く照らしている。

 なぜ俺はこんな所にいるのか・・・

 それはいわくつきの祠を壊してしまったことによるお祓いのためである。ちなみに壊したのはわざとではないぞ。

 掻い摘んではいるがここまで来るのに大分苦労をした。

 度重なる霊障、中々見つからなかった霊媒師、怪異の妨害によって何度もやり直した除霊の儀・・・そして、今に至る。

 ここで朝まで過ごせば俺は大丈夫らしい。ただ、お決まりの何があっても扉を開くなという条件付きだ。

「これ絶対何かあんだろ・・・にしても朝までどうするか・・・」

 揺らめく灯りを見ながら俺は呟いた。

 夜も更けてきたがとても眠れる状態ではなく、最高の暇つぶし道具であるスマホも外界との繋がりが少しでもあればその隙を突かれると、霊媒師に取り上げられてしまった。

「・・・あ、ちょっとバカな事を思いついたぞ。」

 突然ひらめいた俺は、ポケットからここへ来るために印刷した地図とペンを取り出した。そして、地図を広げ裏にはい、いいえや鳥居等を書いていき、鳥居に十円玉を置く。

「コックリさんコックリさんおいでになられましたらはいへお進みください。」

 俺は十円玉に指を乗せて詠唱を始めた。

 少しして十円玉が“はい”に移動する。

「すげぇ動いた!・・・ん?ちょっと待て。コックリさんどこから来た?これって外界から来た扱いになるのか?」

 不意にスマホを取り上げられたときの忠告を思い出す。

 その瞬間、お堂の壁全体がドンドンと激しく叩かれる。

「おおおお!?やべぇやべぇ!やっちまった!」

 ちょっとどころではなくとんでもねぇバカをやらかしたことに気づくが、もう手遅れだ。

「どうしようどうしよう・・・」

 得体の知れない唸り声とともに、ガタガタと揺れ今にも開きそうな扉を見つめながら俺は焦っていた。

「・・・は!そうだ・・・コックリさんコックリさん、助けてください。」

 極限状態の俺は藁にもすがる思いでコックリさんに助けを求めた。

 すると“はい”の上に乗ったままの十円玉がビシッとその場に固定されるような感覚が走り、蝋燭の火が突然消え焦げたにおいが鼻を突く。

 俺は闇に呑まれてしまった。

「やれやれ、こんな事を頼まれるのは初めてじゃ。」

 突然、聞き慣れない少女の声がし、青白い灯りがぼんやりと周囲を照らす。

 驚いた俺は顔を上げると巫女服を着た小柄な狐のケモノの少女が、青白い狐火を二つ従え佇んでいた。

「え・・・コックリさん?」

「さよう。・・・にしてもお主、この状態で妾を呼び出すとは相当な変わり者じゃな。」

 コックリさんを名乗るケモノが言い終わった瞬間、扉が勢いよく開かれ壁を叩く音が消える。

「さて、望み通りお主を助けてやろう。」

 開かれた扉の外に広がる闇の中から黒い靄の人型がフラフラと現れた。

「・・・!」

 それを見た俺は後ずさりをする。

 しかし、コックリさんが一睨みすると、人型は弾けるように消滅した。

「ふむ、多少力はあるようじゃが、肩慣らしにもなりそうにないのう。」

 肩をすくめ残念そうに呟くと、コックリさんは狐火を引連れ外の闇に消える。

「すまぬな。お主達に恨みはないが、運が悪かったと思って諦めるんじゃな。」

 闇の中から声が聞こえ、外で青白い光がフラッシュのように何度か瞬いた。そしてまた静寂が広がる。

「終わったぞ。」

 狐火とともにコックリさんが目の前に現れた。

「あ、ありがとうございました。」

「ふむ。」

 礼を言うとコックリさんは満足そうに頷いた。

 そして、暫しの沈黙が流れる。

「・・・なにか忘れておらぬか?」

 コックリさんが口を開く。

「?・・・あ!油揚げですね。すぐドンキで買ってきます。」

 俺は独自の解釈をし、愛車のある駐車場へ走りだした。しかし、見えない力に引き止められてしまう。

「そうではない!コックリさん、お帰りくださいであろう。そうせねば妾は帰れぬのじゃ。」

「あ・・・」

 そして、俺はテンプレ通りの詠唱をしコックリさんに帰っていただいた。


「どういうことだ?結界が破られている上、何やら妙な気配が残っておる・・・」

 朝、お堂を見た霊媒師は首を傾げた。

「一体何をした?」

 やっとの思いで朝を迎えた俺に霊媒師は聞いた。

「いやぁ、はは・・・」

 面倒だった俺は曖昧な返事で誤魔化す。

「・・・まあ、よい。悪い気は感じぬからお前はもう大丈夫だろう。これは除霊代だ。」

 怪訝な顔をした霊媒師だったが、話をまとめると請求書を提示してきた。

「・・・!」

 請求書を見た俺は驚愕した。

 そこには七桁直前の料金が書かれていた。

「コックリさんコックリさん、お助けください。」

 俺は再びコックリさんに助けを求めた。

 しかし、その返事は・・・


 “む”“り”

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