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どうしてあんなクズな男を恋人に選んでしまったのだろう。元彼と今彼を比較してみた。

作者: 絢郷水沙

 元彼と今彼は大違い。


 元彼は、あまり私に愛の言葉を(ささや)いてはくれなかった。

 今の彼氏は違う。朝起きた時、仕事に行く前、それこそ毎日、どんな場面でも「愛してる」と囁いてくれる。大違いだ。


 元彼は、あまり私に贈り物をくれなかった。

 今の彼氏は何かと私にプレゼントをくれる。車、ネックレス、ブランド品。

 喧嘩した日の翌日には、必ずお菓子を買ってきてくれた。元彼とは大違いだ。



 ああ、ほんと。あまりの違いに嫌になる。



 元彼との初デートはボロアパートでの手作り料理だった。その味の酷さは今でも鮮明に覚えている。あれは本当に酷かった。

 今の彼氏は高級レストランに連れて行ってくれた。


 私が家事をしていると、元彼はよく邪魔をしてきた。

 今の彼氏は、決してそんなことしなかった。


 元彼は最後の別れのとき、私を突き飛ばした。突き飛ばされた私は顔に傷ができてしまった。今の彼氏はそんな私の傷を見て、元彼がいかに酷いかを熱弁する。「僕だったらこんな傷つけさせないのに」



 何もかもが大違いだった。

 どうして私はこんな人を恋人に選んでしまったのだろう。

 だから私から別れ話を切り出した。


「ごめんなさい。私、あなたのことが全然好きじゃないの」


 今の彼氏は理由を聞いてきた。だから言ってやった。


「だって、あなたじゃあの人にはかなわないもの」


 今の彼氏は怒って出て行った──。




「愛してる」なんて、照れ屋なあの人は恥ずかしがってあんまり言ってはくれなかった。でも愛してくれていることは充分にわかっていた。だってあの人は、言葉の代わりに行動で愛を示してくれたから。

 愛してるとさえ言っていれば私の心を繋ぎ止められると思っている薄っぺらなやつとは違って。


 あの人の稼ぎはそれほど多くなかったから、贈り物はあまりなかった。でも贈り物なんていらなかった。ただ一緒にいて、一緒に笑ってくれればそれだけでよかった。あの人と喧嘩したことなんて一度もなかった。

 物さえ与えれば機嫌を取り戻すだろうと考えているやつとは大違いだった。


 あの人との初めてのデートは、お家で一緒に料理をしたこと。私が作るのが下手で、それはもう酷い出来だった。にも(かかわ)らずあの人は、「一緒に作れば美味しいよね」と言って嫌な顔せずに食べてくれた。あの時の味は、どんな高級料理の味よりもはっきりと覚えている。


 あの人は洗濯物を取り込む私の背後に忍び寄ると、よく体をくすぐって邪魔してきた。「一人で遊んでなよ」と言っても聞かない。「終わらないでしょ」と言うと、「じゃあ、一緒にやろう」と言って手伝ってくれた。

 面倒くさいことはすべて私に押し付け、埋め合わせとか言ってほしくもないものを買ってくるやつとは違う。


 ああ、あの人に会いたい。私が本当に愛していたのはあの人だけなの。でもあの人は別れの時に、私にこう言った。


「自分なんか忘れて、他の人と幸せになってね」


 だから私は約束を守ってあなたのことを忘れようと、必死になって悪く見えるように考えてみた。新しい恋人も作ってみた。でも無理だよ。あなたじゃなければ。


 車に轢かれそうになった私を庇って、死んでいったあの人。あの時できた傷は今でも消さずに残している。

 だって忘れたくなかったから。

 この傷を消してしまったらあなたのことを忘れてしまうような、そんな気がしてしまったから。

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルのミスリードが上手いと思いました。 一緒にいて心が満たされるということは恋愛において大事だなーと思いました。
[良い点] せつないけど好きなお話です!! 大好きな人の表現が特によかったです~!!
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