「notice」
7月23日
ピピピピ…ピピピピ…
耳元で鳴り響く電子音に、起こされる。目覚めて数秒、脳がまともな思考力を取り戻し始めると共にスマホのカレンダーを確認する。今日は7月23日。
2日間の自宅学習日が開け、今日明日とテスト返却。
それに2日間とも3時間授業で、その後は終業式を挟んで夏休みだ。
正直なところ、テストは1日で6コマすべて受けさせるのに、テスト返却は2日に分ける意味がわからない…できることなら、テスト返却を1日にまとめて、少しでも早く夏休みになってほしいものだ…まあそのおかげで、今日発売の [東雲蒼]作 『 notice』がいち早く読める。
授業が終わり次第、モールにあるみらいや書店へ買いに行き、家で一日一章づつゆっくり読むつもりだ。
東雲蒼さんの小説の魅力はなんといっても、主人公の微かな心情の揺らぎの描写だ。どんな人でも、一度は東雲蒼さんの小説を読んでみてほしい。他にオススメなのは、『x+y>✕<x+x』、『日本国憲法第19条』で、性的マイノリティ等を社会的弱者の立場から描いたポップな小説で、中高生にも読まれている。
おおっとすまない、話題が逸れてしまったようだ。時間を少し進めよう。
今日は、テスト返しのみなので、心が軽い。パパッと朝食を食べ、学校へと向かった。
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「はぁ…やっぱり国語が苦手…」
ため息混じりに呟きながら、モールへの道を一人で歩く。
テストの点数は下記の通りだ。
国語64点
数学91点
英語81点
物理93点
歴史86点
政治・経済79点
国語は記述の部分で点数を落としてしまった。物語文が苦手なので、しっかり復習しなければ…
そんな事を考えていると、モールに到着し、書店へと向かっていたところで…
不意に見覚えのある顔が視界に飛び込んでくる。
「あれ?絵里!」
「ああ、海斗」
片手にピンク色のフラペチーノを持った、絵里がいた。
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「海斗は何を買いに来たの」
飲み切ったフラペチーノのゴミを捨てながら聞かれる。
「今日は推し作家の新作小説の発売日なんだ。だからみらいや書店に買いに来た。絵里は?」
「え?それって、東雲蒼さんだったりする…?」
「え…なんで分かったの!?」
絵里に一発で当てられて、動揺を隠せない。
「理由?えっと、あの……さっきたまたま広告を見たから」
「え?広告?見せて」
ついにそこまで有名になったのかと嬉しさが込み上げてくる。
「あ、えっと、広告はさっきネットで見たやつだから、消えちゃった」
この目で確かめる事はできなかった。まあ、広告が出ていたと言う話を聞けただけで、もう自分にとっては大満足だ。
「じゃあ俺はみらいや書店に買いに行ってくるね。絵里はどうする?」
「私?じゃあトイレに行ってからみらいや書店に行こうかな」
「じゃあ待ってるから、一緒に行こう」
と絵里はトイレに向かった。いったん多目的トイレに入ろうとしたようだが、すぐに女子トイレに入りなおした。
「何やってんだあいつ」
と不思議に思った。
しばらくして、絵里がトイレから出てくる。
「ありがとう、行こう」
自分たちは書店へと向かった。
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「これだよ、東雲蒼さんの新作」
書店に着くと、入ってすぐのところに東雲蒼コーナーがあり、『notice』は探す間もなく見つかった。
「おお、めっちゃ分かりやすく売ってるじゃん」
「それはそうだろ、だって今日発売なんだよ?」
「確かに」
「ちょっと待って、もしかして絵里が言っていた広告ってこれのこと?」
本の隣に置いてあったパンフレットを開くと、中から綺麗なイラストと共に、「7月23日発売![東雲蒼]作 『notice』」と書いた紙が出てきた。
「え?あぁ、うんうん。それだよ。その広告」
と少し微笑みながら頷く。
「記念として持って帰ろうかな」
「海斗はどれだけ東雲蒼さんの事好きなの」
呆れるような口調で言われたので
「さぁね?」
と返してやった。
「絵里はどうする?『notice』買う?」
「そうだな、海斗が好きな作家さんなら興味あるし、試しに買ってみる」
「分かった、じゃあ、2冊買ってくるから、絵里は少し待ってて。お金は後でもらうよ」
「了解!」
レジは思ったより混んでいて、5分かかった。
「お待たせ、はい、『notice』。あと、550円頂戴」
「ありがとう。じゃあ、私は服見てくるね、次会うのはキャンプの時だから…明後日かな、またね。読み終わったら感想を言い合おうね」
絵里が手を振ったので
「じゃあな、また明後日」
と、手を振り返した。
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次話で完結します。ここまで読み進めた人。まさかここでリタイアとか...いないよね...