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私の名前を呼んでみて  作者: サツキヒスイ
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三、待ってる(6)

希望は期末試験に向けて、本格的に勉強に取り組む。

また、真理子もリハビリが始まる。


努力の甲斐があり、希望は試験で確かな感触があり、

真理子は終業式に出席する。

久しぶりに学校で会う希望と真理子。

「おかえり」

「ただいま」

 それから数日後。

 希望は期末試験のため、本格的に勉強に取り組んだ。授業はきっちり受けるのはもちろん、その日のうちに復習をし、わからないところは先生に、場合によってはクラスメイトにも聞いた。

 その傍ら、授業を受けられない真理子のためにノートを作る。机に向き合う時間が増えたが、授業の内容の理解が深まると、段々勉強がおもしろくなってきた。

(あたしってこんなにチョロいんだ……)

 上手くいかず躓くこともあったが、その度に真理子のことを思い出し、自分を奮い立たせた。

 真理子はリハビリが始まった。調べた通り患部から離れた箇所から始まったが、それでも思うように動かない。悔しさのあまり唇を噛む。

(希望、待ってて。必ず戻るから)

 その決意と希望が届けてくれた皆の想いが、真理子に力を与えてくれる。ちょっとずつ可動域が広がると達成感があり、同時に自分の身体の仕組みに興味が湧く。さすがに病院で調べ物はできないので、調べるのは退院した後の楽しみにすることにした。

 七月半ば。

 希望たちの学校で期末テストが始まった。

 この時期沈鬱な思いで学校へ向かう希望だが、今回は違い朝から妙に頭が冴え渡っている。

 教室はやはり重苦しい雰囲気で、何人かは右往左往していた。希望も前回まではテスト開始まで慌ててたものだが、今回は落ち着いていて、自分の席に座ると教科書とノートを開き、最後の確認をする。

 『あれだけ勉強したのだから』という自信が希望を変えた。テストが始まるとまずざっと眺めて、時間がかからなさそうな問題から解いていく。その後、頭から順に解答欄を埋めていき、わからないところは飛ばしてしまう。最後まで解き終わり、残り時間いっぱいをつかって、わからない問題に取り組んだ。

 チャイムが鳴りテスト終了を告げる。希望は自分の解答用紙を見て目を丸くしてしまう。

(こんなに用紙を埋められたこと、今までなかったな……)

 確かな手応えを感じ、残りのテストも油断なく受けた。

 一方、病院では真理子がリハビリを続けている。

 始めた頃に比べて身体が動くようになり、希望と同様に手応えを感じていた。何せ真理子には大切なお守りがある。それを見るといくらでも力が湧くような気がしてきた。

(今頃、希望はテスト受けてるかな……)

 気になるのはやはり希望のこと。勉強はどうなっているだろうか。テストで頭を抱えていないだろうか。希望が自分から『勉強したいからお見舞いにくる回数が減る』と言い出したときは、少しの驚きと寂しさがあった。

 それでも、応援したい気持ちに変わりはない。

(がんばれ、希望)


 七月下旬。終業式。

 今日で学校は終わり、明日からは夏休み。クラスの皆がソワソワして、予定を話し合っている子たちもいる。

 希望は自分の机で頬杖をつき、誰も座っていない隣の席を見ていた。

 二日前、真理子は退院した。つきそってあげたかったけれど、学校が優先になってしまう。昨日は休む旨がRHINEで真理子から連絡があった。なので、もし今日も休むのなら連絡があると思うのだが、メッセージは届いていない。

(マリ、今日はどうするのかな)

 開始のチャイムが鳴るまで後五分。モヤモヤした気持ちでいると扉が開き、クラス全体がざわめいた。

『刑部さん!』

 教室に松葉杖をついて入ろうとする真理子を、数人のクラスメイトが囲む。

「学校までタクシーで来たんだけど、道路が混んでて……」

 苦笑いをする真理子の表情は、入院した頃と違って明るい。二言三言言葉を交わし、真理子は松葉杖を使って上手く自分の席に座る。

 それをじっと見ていた希望と目が合う。積もる話はたくさんあるが、今は一言だけ。

「おかえり」

「ただいま」


 この日、関東地方に梅雨明けが宣言された。

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