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私の名前を呼んでみて  作者: サツキヒスイ
2/16

二、嫌い(1)

ずぶ濡れになりながらも、真理子の家に辿り着いた二人。

お風呂でいちゃいちゃ。

 仕方がなかったとはいえ、濡れ鼠の二人は他の乗客から奇異の目で見られてしまう。肩身の狭い思いをするが、ガタンゴトンと小気味よいリズムに揺られること七分。下りの電車に乗って四駅目が真理子の家の最寄り駅で、そこで二人はそそくさと電車を降りた。

 駅を出るとようやく雨が止みそうで、雲の切れ間から薄日も見える。霧雨の状態で傘がなくても移動に支障はなく、元々ずぶ濡れの二人は胸元をリュックで隠すのは変わらず、真理子の家を目指す。駅から歩いて十分ちょっと。ようやく真理子の家に着き、二人はほっと胸を撫で下ろした。

 真理子が先に家に入り、バスタオルを二枚用意して、玄関で待つ希望にその一枚を渡す。濡れた頭、腕、足をよく拭いた後、真理子は希望を浴室に案内した。ボタンひとつでお湯が沸く文明の利器は、こういうとき本当にありがたい。

 制服はハンガーにかけ、下着と靴下は洗濯機へ。

 お互い裸なので気恥ずかしさで口数が減るものの、洗いっこしている間に普段の調子に戻った。そうしてる間に浴槽にお湯が張られ、二人は一緒に入る。設定を変え忘れて大量のお湯が浴槽からザーッと溢れたが、ドラマの演出のようなその光景は、二人にリッチな気分を味あわせてくれる。冷えた身体にお風呂のお湯が心地よく、思わず大きく息を吐く。

「希望、何ニヤニヤしてるの?」

「マリこそ顔がニヤついてる」

 二人で入るには浴槽はやや狭く、身体が密着してしまう。これほど身体を寄せ合ったのは、一年以上つき合った仲でも数えるほどしかなかったはずだ。二人とも口には出さないが、願ってもないシチュエーションでご満悦の気分だった。

「くぅ〜、生き返る〜」

 希望が手を組むと、そのまま腕を上に上げて伸びをする。

「ちょっと、あんまり動かないでよ」

「満更でもないな、って思ってるくせに」

「……」

 真理子がいつものように希望を窘めると、逆に反撃されてしまった。

「はぁ……マリの腰、細くてうらやましいなぁ」

 そう言いながら希望は真理子の脇腹をツンツンつつく。

「やっ、そんなとこ……!」

 さっきは自分で『動かないで』と言ったのに、希望の魔手から逃れようと真理子が身体を捩ると、均衡を保っていた浴槽のお湯が零れてしまう。クールな真理子が脇腹をつつかれて狼狽するものだから、希望はにんまりしながら真理子への攻撃をエスカレートさせる。

「マリがそんなにここが弱いだなんて知らなかった」

「……っ」

 執拗に脇腹をつつき続けられ、真理子は嬌声を上げてしまいそうなのを必死に堪えた。そんな真理子を見て、希望のいたずら心に余計火がついてしまう。今度は指の腹で同じところをそっと撫でると、真理子の身体がぴくっと震えた。

(肌もすべすべでズルいなぁ)

 細くくびれた腰もだが、きめ細やかな肌にも嫉妬してしまう希望は、脇腹を撫でる指をそのままおへその方へ這わせる。けれど、これが真理子のデッドラインを超える行為だった。

「えいっ!」

「ひゃあっ!?」

 浴槽から溢れるお湯もお構いなしに、真理子は膝を立てて立ち上がると、希望に対して反撃を開始する。

「希望はこんな『立派なもの』持ってるのに」

「ひゃ……ぅ……」

 立場は逆転し、今度は希望が嬌声を上げてしまいそうなのを我慢する。真理子は希望の腋と胸の境目を指で撫でると、先程の勢いはどこへやら、希望はしおらしくなってしまう。

 小柄な身体と童顔を気にしてるくせに胸は大きい『トランジスターグラマー』。今指でなでる箇所も、はっきり境界がわかる。普段あまり気にしないようにしてる真理子も、こうして目の当たりにしてしまうと、嫉妬心を隠せない。

「さっきはよくもやってくれたな」

 真理子が希望にされたように、執拗に腋と胸の境を指でなで続ける。希望は後退りして真理子から逃れようとしても、狭い浴槽ではそれも叶わない。ただ、真理子は希望と違うことを考えていた。

(いきなり胸を揉んだりしたら、さすがに申し訳ないと思ったのに……まさかこんなになるなんて……)

 しおらしい希望を見ていると、次第に嫉妬心は罪悪感へ変わっていった。しかし、止める口実もなく。いっそ、この豊満な胸をわし掴みにしたら……いや、いくら親友だからってそれは……良心の呵責に苛み逡巡していると、指の動きが止まってしまう。真理子の隙を希望は逃さず、再度攻勢に出た。

「とりゃー!!」

「うわぁあっ!?」

 希望は真理子に抱きつく——というより、その力強さはタックルに近かった。真理子も思わず身体を後ろに反らしてしまう。

「危なっ……そんなに暴れたら頭ぶつけちゃうって!」

「もー怒ったぞ!」

 口ではそう言う希望の表情は、怒っているというより、何かを企んでいるような悪い笑みだった。真理子に抱きついたまま、両腕を背中に回してくすぐる。

「あはははは……っ! ダメ、やめてって……!」

「どうだ! まいったか!」

「負けるかー!」

「ひゃぁっ!?」

 真理子も負けじと希望の腕を取って持ち上げ、すかさず腋をくすぐる。

「やあぁ……そこは……」

「わたしがやられてばかりだと思うな」

「くぅ……おのれ……」

 またも希望が真理子に抱きついてはくすぐり、真理子が希望を引き剥がしてはくすぐり……二人のくすぐり合いはお湯を頭から被ってもしばらく続き、結局もう一度身体を洗い直すのだった。

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