善と悪の二つの顔を持つ
八百万の神の国
あるいは多神教の文明
働きの数だけ、神の名は存在する
鬼神は、非情の思いで、時に悪を打つ
たとえば、火山の噴火が食糧難を生み、フランスの革命の遠因となった
歴史の結末を知るまで、人の行為の善悪はわからない
「例の斉藤は元気か?」
やや上からの物言いで、ぼくは尋ねた。
「あの人とは、初めから関わりたくないと思った」
松本は苦々しい表情をする。
コンサルタントを謳う男で、体裁にも隙がない。
鳴瀬川社長も油断したと思う。
ぼくは日当の保証もない作業員なので、ミーティングと称する斉藤のプレゼンの時間にも参加しなかった。
やむなくその場から逃げ損なった時も、無駄な会話はしていない。
彼の狙う戦略上の意図で、発言を求められれば、卒なく答えておいた。
鳴瀬川の仕事は、大きな括りでは「金融商品」を扱うものと説明してくれた。
国家なのか行政なのか、官僚の利権に絡むのか、国民はマイホームを建てる時に火災保険の加入を義務づけられると教えてくれた。
正確な法の縛りとか、表現はわからない。
家に住む者として、家を買う者としての立場で受け取るニュアンスで理解しただけだ。
任意なのに強制される事は、世の中に多い気がする。
しかもほとんどは、利益に繋がることはない。
時間かお金か労力か、なにかを失う。
鳴瀬川は、社会制度の被害者を救済しているのだと、ぼくは思った。
もちろん、斉藤も鳴瀬川も、国の経済を支える会社を相手にしているし、法の監視の許に暮らす国民の義務や責任を承知している。
なので、誰に対しての説明にも隙はない。
嘘はつかない。
しかし、真実でもない。
そうゆう人達を「詐欺師」と言うと、カウンターを喰らい、ダメージを受ける。
賢い生き方は、コバンザメのように、利益を啜ることだ。
株の投資だってそうだ。
パチンコも。
宝くじだってそうなのだ。
大きな流れは変えられない。
ロシアで生きるのであれば、ロシアで糧を得るしかない。
あるいは亡命するか。
社会的意義を見出せないブラックな企業なら、命がけで辞めればよい。
半端かじりの宗教者が作る会社にでも行けばよい。