はじめましてダンジョンさん!……2
「みんな何かしら能力を取得することができたみたいだな。まあ、スキルを取得できないやつはそもそも冒険者試験に受かることはないから当然といったら当然なんだけどな。」
軽く爆弾発言をしていたが、皆自分自身が手に入れた能力が気になって誰も気に留めていない。
冒険者になれたのだからそんな細かい事情なんてどうでもいい。と思っている人のほうが多いような気がするが。
少し離れてみていた沢さんが声をかけてきた。
「じゃあ、次のミーティング的なのやるから、ついてきてくれ。」
沢さんについて体育館から出てダンジョンに引率いんそつされる。
なんでわざわざ体育館のような広い空間まで移動してまでスキルを取得したかだが、ステータスによる誤爆の影響を抑えるためだと思われる。
パッシブスキルで周りに毒を振りまくようなスキルがつかない確信が100ないとは言い切れないし、今回自分が手に入れたスキルも、聞いたことも見たことも無いようなスキルだったからだ。
100年の歴史がありすべての事象を記録として残している。
そして”こういう時はこういう事が起こる”なんてことは無いので、”絶対”という簡単な言葉でくくることができない。
ステータスボードと呼称されている自身のステータスの効果や、レベル、能力値などの確認ができる自分しか見ることのできない半透明なボード。
その配置の仕組みですら規則性を見つけることができていないのだ。見ることのできる情報の理解ができていないのに、見えることができないほぼ概念のような存在を理解しようだなんて不可能近い。
★
「ここがダンジョンだ。皆にはここで一人1匹ゴブリンを倒してもらう。ダンジョン内で血が出ることはほぼ無いから、躊躇せずに攻撃してくれ。」
ダンジョンに出現する魔物はすべて偽物である。
実体は存在するが、恐怖や喜び、喜怒哀楽の感情が一切なく、死にも恐れない。
体に傷がつけられても血は出ず、傷つけられた場所からホログラムのような破片フラグメントが飛び散る。
そしてダンジョンの中に入っている間。俺たち人間も偽物となる。
魔物達とは違い感情は失っていないが、体を傷つけられてもフラグメントが飛び散るだけで痛みもない。
首と体が離れても同様だ。
ただし、現実世界との違いは致命傷を負っていなくともHPが0になったら等しく死亡することだ。
HP100の人がダメージ1のリスカを100回したら死亡する。そんな感じだ。
例え方が変だが。
ダンジョンの中に到着し、手足が縛ってあるゴブリンがダンジョンの入口付近に投げ置かれている。
「では一人ずつゴブリンを倒してみてくれ。各々が手に入れたスキルを試しに使って倒してくれても、そこにおいてある武器を使うのも自由だ。まず、井口から。」
井口は何も持たずにゴブリンに近づき胸元で拳を握り、落ち着くように呼吸を整えている。
若干だが、震えているような気がする。
”殺した感覚がない”と言われても”殴って””殺す”ことには代わりはないし、現代日本で人を殺したような人はそうそういない。
人殺しの経験があるならここにそもそもいないだろうし、素行の悪い人、反社会的勢力は”冒険者になれない”と明言されているので、喧嘩なんかもしたことがなかったのだろう。
へっぴり腰になりながらも、手を大きく振りかぶり地面に寝転されているゴブリンめがけて拳を振り下ろした。
井口はお世辞にも”たくましい”見た目ではなかったが、その細腕からは想像できないダメージをゴブリンに与えたようで、一撃でゴブリンはフラグメントと化して、ゴブリンの板場所にはドロップアイテムである魔石のみが残った。
「次遊動。」
最後に俺の名前が呼ばれ、どんな武器を使ったら良いのかよくわからず、とりあえず王道だし使い方がわからないわけではないから剣でいいや。と思い武器がまとめてある場所から長剣を手にする。
ゴブリンの目の前に立つと予想していた以上に緊張し心臓がバクバクと音がなる。
さっき見ていた時はゴブリンを倒すことよりも、自分の番が来ることのほうが緊張していたのに、いざ、自分の番になるとゴブリンを倒すことに若干の恐怖を覚える。
テレビで凄く吠える犬が放送されていても「へ〜」で済ませれるが、実際に目の前で犬に吠えられるとびっくりしたり恐怖を感じたりするあれである。
『早く倒さないと他の人を待たせてしまう』と思い、早くゴブリンを倒そうと決意するが、予想以上に体が重く感じゴブリンに攻撃することができない。
「ふぅ〜〜〜〜〜〜〜」
覚悟を決めて大きく息を吐き、持っていた剣を上段から振り下ろす。
「ぐぎゃぁ!」
ゴブリンが叫び声をあげ、一瞬次振り下ろすのを躊躇するが、これではだめだと自分に言い聞かせて何度も何度もゴブリンに長剣をゴブリンに振り下ろす。
「遊動さん。もう倒せましたよ。」
沢さんに声をかけられて我に返る。
見るとゴブリンは動かなくなっており、段々と体からフラグメントが溢れて、そこにはゴブリンなんていなかったかのようにドロップアイテムである小指の爪ほどの小さな魔石が落ちていた。
それをマジックバッグの中に入れて、もう一度大きく息を吐き落ち着く。
まだバクバクとうるさく心臓は鼓動をしており、少し集中すると脈すらわかるほどに血が早く流れている。
「では皆は疲れたただろうから今日はもう解散する流れとなっている。次ダンジョンに潜れるのは来週からになっているから、奮発して自分用の武器を購入するなり、シュミレーションするなりと各自してくれ。」
「ああ、あと、ダンジョンに併設してある施設は許可と利用料さえ払えば好きに使えるようになってる。備品を壊したりしたら換金時に差し引かれるから注意してくれ。もう、これ以上言うことはないな。」
「最後に一個だけあった。先輩からの忠告だが、レシートはきちんと残しておけよ。確定申告で死ぬことになるからな。では解散。各自自由にしてくれ。」
解散を言い渡されるが、さっき殺したゴブリンの感覚は未だに抜けていない。
あのゴブリンは俺の目の前に持ってこられた時に縄をほどいてくれと抵抗し、攻撃した時に痛いと喚き、消えていくときの顔は恐怖で染まっていた気がした。
少し水を飲んで落ち着こう。
トイレで口を濯ぎ、飲み物の自動販売機で何を飲もうかとラインナップを見る。
「うん。おかしい。」
ダンジョンに一番近くて冒険者が多く利用するのかは知らないが、一つ一つの飲み物の値段がおかしい。
温かいお茶コップ一杯500円。
「別の場所で買おう。」
良いお茶だとわかっていても、コップいっぱいのために500円払う金銭的余裕はない。
500円でお茶を買うよりは夕飯に肉を追加するほうが有意義だ。
「今日は奮発してお肉でも買おうかな。」
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