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コインランドリー

作者: 柿畑 紫慧


白いシーツ、清潔なホテルのような部屋。そのベットの上に着替えもせずに寝転がり、僕は大きく息を吐いた。

「いくら給料が良いとは言え、これはキツすぎでしょ…。」

半目を開ける。シミ一つない天井が、余計に虚しくうつって辛かった。


事の発端はつい先月。

コインランドリーに行ったら、先輩とばったり鉢合わせた。

「げ」

「おいおい、その反応はかなり失礼だな全く。」

「先輩は今日はまた随分と楽しそうですね…。何かいいことでもあったんですか?」

「そうなんだよ聞いてくれよ後輩くん!」

嬉々として話し始める先輩を見て、俺は先輩の姿を確認した瞬間に回れ右をして帰らなかったことを後悔した。

「いいバイトを見つけたんだけど、人手が足りなくて困ってたんだ。後輩くん、やらないかい?」

「時給は?」

「1280円」

「え、高くないですか?」

「だろ?しかも泊まり込みで食事も出るんだよ、素晴らしくない?」

「めっちゃいいじゃないですか、場所は?」

「ちょっと離れてるんだけどさ、でも交通費もちゃんと出るって」

「いいなぁ」

「だろ?後輩くんも行くでしょ?」

「いいんですか?行きたいです!」

常時金欠だった僕は、思わずその話に飛びついてしまった。今考えてみても、少しは疑うべきだったと思う。あの先輩が、そんな美味しいだけの話を持ってくるはずがないのである。出来ることなら過去に戻って、あの時の自分の首を絞めてしまいたい。

「じゃ、詳しい内容はあとで送るから。」

そう言って去っていく先輩を見送る。その時は、冬休みでいくら稼げるのかばかり考えていた。まったくもって、気楽なことこの上ない。


冬休み。電車とバスに揺られる事2時間、たどり着いたのは山奥の温泉街である。ホテル業務の短期バイト、というのが主な内容だった。到着して荷物を置き、制服に着替える。研修を受ける、そこまでは良かった。

全て甘かった。考え方も、読みも。

覚えられない仕事量、後から後からやってくる途切れない客の列、そして注文。知らないから何を聞かれても答えられないので、その度に本スタッフに確認しなきゃいけないという手間の多さ。そして一番が、それを難なくこなし、ついでに他のアルバイト来た人達と仲良くなっちゃう先輩の手際の良さ。

嫉妬とかそういう話じゃない。普段意識する機会が無かっただけで、先輩は純陽キャ、僕が底辺陰キャって事をまざまざと実感させられた。


俺が注文を取り違えてコッテリ怒られた後、先輩が飴をくれた。どうやら旅行に来ていた家族連れと仲良くなって、いっぱい飴をもらったらしい。この格差はなんだろうか、マジで来なきゃ良かったとその時本気で後悔した。


先輩は仲良くなったバイトの人たちと大浴場に行ってるらしい。23時以降はバイトの人も入っていいよと、そういえば研修の時言われた事を思い出した。

「後輩くんも折角なら行けばいいのに」

なんて言われたが、とんでもない。そんな元気は、もうどこにも残っていなかった。ユニットバスのシャワーで手早く済ませる。明日も早いというのに、大浴場までわざわざ行く余裕は残っていなかった。



そんなこんなで1週間の地獄を終えた。先輩は終始、楽しそうだった。やはりリゾートバイトなんてものは、陰キャが手を出していいシロモノでは無かったんだと帰りのバスでホテルを見上げながら、痛いほど実感した。


後日、コインランドリーにて。

「あ、先輩。」

「おはよう後輩くん、リゾートバイトの疲れは取れたかい?」

「まぁ…。先輩はずっと元気そうですね。」

「そりゃぁ、楽しかったからね。普段すまし顔の後輩の疲れ切った顔もいっぱい見れたし。」

ニヤニヤする先輩。ほんと、タチが悪い。

「そうだ後輩くん。春休みにもバイトしに来ないかって誘われてるんだけど、行かないかい?」

「行くわけないでしょ、ほんとにもう…。」

先輩はまた、楽しそうに笑った。

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