表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/93

プロローグ ~月の落とし方~

挿絵(By みてみん)

「月をね、落としたのさ」

 淡い水色の可愛いベビー服を着た、愛くるしい天使のような赤ん坊が、ニヤニヤしながら口を開いた。

 

 俺は一瞬、何を言っているのか分からなかった。


「月って、あの空に浮かんでる月か?」

「そうだよ、ふふふ」

「え? 月が落ちてきたら、地球は全滅じゃないか!」

「そうだねぇ、みんな死んじゃうねぇ」

「は? お前、何やってくれちゃってんだよ!!!」

 俺は思わず、赤ん坊の胸ぐらをつかんで持ち上げた。

 

「ははは、この身体をいくら攻撃したって無駄だよ」

 そう言って、赤ん坊は余裕の表情を見せる。


 俺は、赤ん坊を乱暴にソファーに放り出すと、急いで窓へ走った。


 見上げると、ファンタジー風の絵に出てくるような巨大な三日月が、超弩級の迫力でもって青空の向こうに白く浮かんでいた。細かなクレーターの凹凸まで見て取れる月の巨大さは、まさに破滅を呼ぶ悪魔であり、俺は圧倒され、そして、のどをしめつけられるような恐怖に打ち震えた。


「あと半日で 落ちてくるよ~」

 赤ん坊はそんな俺を嘲笑(あざわら)うかのように、嬉しそうに言う。


 月が落ちてきたら、その膨大なエネルギーで、地球は火の玉に包まれる。

 激しい衝撃は、地面そのものを津波の様に波打たせ、日本列島そのものがひっくり返される。

 その過程の衝撃波で、地表にある全ての物が破壊され、また何千度の高温にさらされて全てが溶け落ちる。

 まさに地獄絵図が展開されるだろう。

 当然全ての生物は全滅。人類も全員消え去る。


 通常、月の軌道なんて変えられない。核爆弾を何発使ったって、軌道なんてほとんど変わらないのだ。だが、この世界の(ことわり)を知ってしまったこの赤ちゃんには、月の軌道を変える事など、造作もない事だった――――



          ◇



 俺はAIエンジニア、バリバリの理系だ。少し前なら『月が落ちてくる』などという荒唐無稽な話は、笑い飛ばしていた。しかし、今はもう、科学合理性をもって説明できてしまう。AIを研究していたら、月の落とし方が分かってしまったのだ。何を言ってるのか分からないと思うが、この現実世界は、下手なオカルトよりも奇なりだったのだ……


――――――――――――――――――――


 この物語は、この現実世界がいかに奇妙な構造をしているかを、最先端の科学技術を使って一つずつ解き明かしていく予言の物語。ぜひ、月の落とし方を学んでいってください。

 ただし……、絶対に、本当に落としたりしないでください。それだけは、約束ですよ。


 それでは、物語が始まります。

 それは、月が落ちる前年の、暑い夏の日の事でした――――

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] いきなりすごい展開ですね(笑) 謎の青年の登場が興味深い。 幼児が呪文により、回復するのが良いですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ