第6話 ツッこめる教組
『司くん、今の狡くね? 時系列無視式コブラ・ツイストなんてほとんど反則だよ。だって、文化人放送局のユーチューブ見たのって投稿日の2、3日前でしょ。ということは、今から2ヶ月後の出来事じゃん。それをフィニッシュ・ホールドに使うなんてフェアじゃないよ』
徹の真っ当な抗議に司は照れ臭そうに言った。
「いや、ボクもあの技を使うかどうか迷ったのは迷ったの。危険極まりない技だからね。ドラゴン・スープレックスかクロック・ヘッドシザースか、ってくらいのある意味、禁じ手だからね。
でもさぁ、見ちゃったんだもんなぁ~! 偶~然、知っちゃったんだもんなぁ~! 閃いちゃったんだもんなぁ~!!
使わない手はないでしょ♪ どうしても数少ない読者に伝えたかったの。それもいち早く♡
見てよ、第3、4、5話の投稿日。3日連続の投稿だぜ、あの素人作家がだよ。どんだけ焦ってたか目に浮かぶよね!」
納得したように徹は言った。
『だからか、現在の日時だって最初は1ヶ月後ってことになってたの。それを翌日、2カ月後ってことにこっそり編集してるし。よっぽど慌てて投稿したんだろうね。
ソーシャル・ディスタンス対策でこうやってアクリル板を使ってる今と、例のクルーズ船騒動の時間の間隔になんとなく違和感を持ってたんだけど、やっぱりかって感じ。確認しないで見切り発車してたんだ。おまけに"桜を愉しもうか"って季節感まで付け足して(笑)』
「稚拙なアリバイ工作だな。"愉しもうか"だよ、"愉しもうか"。”楽しもうか"じゃなく"愉しもうか"だって!」
『笑っちゃうよね、あの素人作者』
なんか気分が悪くなったので司は話を変えた。
「ボクはまったく気分悪くないよ(笑) 話を変えるのは構わないけどさ。
ところで玉ちゃん、ボクと理ィーさんのバトルの最中によく乱入しないで我慢できたね。とくに、フィニッシュの場面。サブのレフェリーがいるとはいえ、カットしようと思えばやれたはずだよ。それをやられるとさすがにボクも危なかったかもしれない」
『最初からそれは考えなかった。ほとんど反則とはいえ、見事なコブラが極まってたから。あの場面で彼を援護してカットしたら、せっかくの見せ場が台無しになるからね。一応、サブ・レフェリー相手にもがいてはいたけど、あそこはさすがにスルーした』
「そういうところが玉ちゃんの凄みだよね。ヒールとしての役割をよく心得ている。君はプロの鏡だよ。タマガー・ジェット・シンだ!
広告剥がしの件にしてもそうさ。ユーチューブで散々、コテンパンに酷評されてるのに君は、通報して番組を潰そうとした形跡が見えない。
君はあっち側の人だけど、最低限のギリギリの線は踏み留まっている。言論、そして反論の自由を厳守する君の態度は立派だと思うよ。」
『何だよ、ジェット・シンって。あっち側って。勝手に陣地分けするなよ。
おれはただ、ネットを見ないというだけだよ、自称。何を言われようと感化されないように見ないようにしている。
それともうひとつ、おれが乱入しなかった理由があるんだ。だって、おれが加わって三人が闘いを始めたら収拾つかなくなるだろ。読者はもちろん、何より作者が混乱して誰が何を言ってるか描ききれないに決まってる。作品は無茶苦茶さ(笑)』
「違いない! あの素人作者にそれを描写できる筆力は端っからない(笑)!」
気分が良くないので司は右側で控える女性に声をかけた。
「だから、ボクは気分悪くないって(笑) 彼女に行くのね、わかったよ。
晴恵ちゃん、晴恵ちゃんさぁ〜、ボクと理ィーさんのバトル見てたよね。理ィーさんの第一声、どうだった? 覚えてない? ボクと玉ちゃんが訳のわからないやり取りの最中に、頃合いを見計らって会話に入って来たの。
あれよ、あれ! あれを晴恵ちゃん、待ってたの! ずっと待ってたんだよ、玉ちゃんもボクも。気が付けば延々、なんと1461文字費やしたよ。もっと早く入ってくれないとだめだよ。この第6話、ほぼ半分終わっちゃったよ」
突如の指摘にどぎまぎしながら彼女は口を開いた。
『も……申し訳ございません。何分、私そういうやり取りは不慣れでございまして……』
「謝んなくていいの、謝んなくて。冗談だから、冗談。冗談と面白さで話を展開していくスタイルだから。怒ってる訳じゃないの、気にしないで。
そう言いながらまた余分に326文字も浪費しちゃったよ」
『そこも変だよね』
徹が疑問を呈した。
『第3話じゃ確か"頁"って描写してたよね。それが今、"文字"に表現が変わってる』
「確かにそうだね」
司も首を捻って少し考え、そして答えた。
「それは、きっとこういうことだと思う。
作者は今もそうだと思うけど、ワードで文章を書いているんだろう。ワードってほら、文書作成ソフトでしょ。文書だから進めていくと当然、改頁がある。だから頁という表現になったんだろう。
他の人の投稿なんてまともに見なかったに違いない。で、気づかないまま投稿する。プレビューを見て確認はしたんだろうけど、そこまでの意識がなく、結果的にチェックが漏れたんだろうな」
『じゃ、またこっそり編集して直すつもりなのかな?』
「それも考えられなくもないけど、そうなると結構大掛かりな作業になるぞ。まず、君とボクのこの会話もバッサリと切り落とさなきゃならない。そうしないと繋がりがなくなるからね。
前話が修正されてるのに、間違い部分を指摘する会話が残っていたら変だもん。しかも、この後の繋がりもあるからそう簡単に切り落とせない」
『う~ん、でも、切り落とすつもりなら初めからこんな会話を延々とさせないでしょ、あの作者なら。使うつもりだから、あと、直さないつもりだから我々にこうやってペラペラ喋らせてる(笑)』
「そりゃそうだ、直す気はないな。この会話を切り落とすつもりもない。あの作者ならやりそうなことだ(笑)」
おずおずと彼女が参入した。
『第二波、第三波、秋・冬コレクションからのアビガン砲・発射~』
会話に入って来た彼女を褒める腹積もりだった司は、完全に意表を突かれた。徹も度肝を抜かれて愕然としている。
「な、何、今の?」
『みやわきチャンネル(仮)の宮脇様がよく使われる私のモノマネ・ギャグだそうでございます……』
700日連続配信、おめでとうございます♡
「おい、若干、先走ってるぞ。それ、投稿日の翌日の夜だろ。リアルまで時系列を無視し始めたら本当に、本当に収拾つかなくなるぞ。まぁ、宮脇さんの連続配信は間違いなく達成されるだろうけど。
晴恵ちゃん、が、学習して割って入ってくれたのはすごくよかったけど、まさかギャグで来るとは……」
『すべて作者様の耳打ちでございます』
彼女は少しだけ口元を緩めた。驚いたか、ざまぁみろ♪
「今の後段、作者のだよね。……ったく。
結構なダメージを貰って劣勢だけど、しょうがない。本題に入ろう」
DHCの海洋深層水で喉を潤し、司は態勢を立て直した。
「晴恵ちゃん、アナタさぁ、毎日毎日テレビに出演して大人気だね。アナタを見ない日はないよ。ホント引っ張りだこでボクも嬉しく思ってるの。ホントだよ。
だってさぁ、晴恵ちゃん苦労したもん。10年程前に出した論文が不正の烙印を押されて悔しかったんだよね。それを払拭するために、論文の正しさを証明するためにここまで頑張ってきたんだよね。その気持ち、解るよ。
ゴールデンタイムのテレビでさんまさんを相手に弾けた時はボクも喜んだよ。あれきっかけだもんね、今回のブレイクは。あれからよく頑張ってると思う。見事な活躍っぷりだよ。おめでとう! ホントよかった。
でもね……」
司はトーンを少し落として切り出した。
「CPR検査至上主義、あれはダメだよ、あれだけは。絶対、今すぐに撤退するべきだ。でないと後で大変なことになるぞ。せっかくブレイクして伸し上がったポジションも、あっという間に失う羽目になる。
警告しておく。今からでも遅くない。CPR万能教から脱会しなさい。」
彼女は伏目がちに答えた。
『私は私の研究で得た知見を皆様にお伝えすることが、求められる立場かと存じます。私はその求めにお応えするのみでございまして、撤退とか、ましてや宗教からの脱会など見当外れかと存じます』
「宗教じゃないって? とんでもない! アナタ達がやっているのは宗教そのものだよ。しかも、テレビという公共の電波を使って伝道活動する悪質なものだ。
『CPR検査するぞ。CPR検査するぞ。ハードにCPR検査するぞ。東京はやがてニューヨークになるぞ。CPR検査こそが救う方法だぞ。』
……ってね。カルト教団になぞらえて晴恵ちゃんを教祖、玉ちゃんを外報部長に見立てて漫画家の小林先生がそう言ってる。見事な例えだよね」
文章が破綻しないように慎重に徹が入った。その配慮、玉ちゃんサンクス♡
『また時系列無視だろ。おれは聞いたことない、そんな情報』
「うん、約一ヶ月後(笑) この話を持ち出したのは、会話の展開の他にひとつ理由があってね。
何でも、さっき登場したユーチューブ配信、みやわきチャンネル(仮)のチャットに参加していたある人が『まるで宗〇みたいです』ってコメントしたらしい。それを受けて宮脇さんが『そうですね、小林先生がそういうこを仰ってましたね』と応えたんだって。
チャット初心者のある人はコメントを拾ってもらえた嬉しさと、自分のコメントが二番煎じ、しかも劣化してのそれだったもんだから小っ恥ずかしさで舞い上がっちゃって(笑)
それなら、ということでもうひとつ考えていたボクと玉ちゃんの掛け合いトークを小説にして発表しよう! と考えたらしいんだ」
『その通りだとはにかんでおられます』
彼女が微笑みながら言葉を添えた。(汗)
第7話へ続く