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『コロナ怖い』狂騒曲  作者: ゲッタートマホーク
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第5話 再びの対決 しかも3対1の変則マッチで

 再会は異様な雰囲気に包まれた中でなされた。場所は前回と同じカフェ「KURAMAE」、そろそろ桜を愉しもうかという2ヶ月ほど経った頃であった。正面から眼光鋭くこちらを睨みつける(とおる)。その左側にクールな佇まいの伊達男、右側を善良そうな中年の女性が両脇を固めている。


 どうやら完全に対決ムードである。しかも、猪木対国際軍団 (木村・浜口・寺西組) を彷彿とさせる3対1のハンディキャッ……表現に留意、3対1の変則マッチだ。圧倒的な数的不利である。しかも、コンプライアンス上の配慮とやらでソーシャル・ディスタンスの2メートルの間隔を確保し、なおかつ大型のアクリル板で囲まれての状況は、さながら透明な金網デス・マッチの様相を呈していた。


 望むところである。(つかさ)の燃える闘魂に火が点いた。彼の鼓膜の奥でイノキ・ボンバイエのテーマがこだまする♪


「久しぶりに会おうと言うんで来てみたら随分賑やかな顔ぶれじゃないか、玉ちゃん。しかも錚々たる豪華メンバーだし」


『前回は警察官に邪魔されたけど、今日はそうはいかないからな!

 あと、おれのことを"玉ちゃん"と呼ぶのやめてくれないか。なんでそんな呼び方をするんだよ。おれのことをバカにしてるんだろ』


「バカにするなんて事は断じて、神に誓ってないよ。うん、神に誓って。……神様を信じているかというと信じてないけど。


 だってだよ、仮に君のことを"()っしゃん"とか"(はし)やん"とか呼んだらまったく話が変わってくるだろ。別の展開になってしまう。意気投合する可能性もある。ましてや"(りき)ちゃん"なんて呼んだら、もはやジャンルが変わってくるじゃないか。君はボクとグローブをつけてリングの上で闘おうというのかい?」


『いやいや、そういう問題じゃなくて。……まさかとは思うけど君は第2話から4話の古書店の主のキャラがまだ抜けてないんじゃないだろうね』


「ない、ない。もう、それは完全に終わったこと。だってほら、ボクってちゃんとカナで出てるでしょ。それに作者も大いに反省してるし。

 玉ちゃんこそ、すっかり売れない小説家のキャラそのものに見えるんだけど大丈夫かい?」


『おれはそんなキャラを演じた覚えは一度たりともない! そんな風に見えるなら元々似たようなキャラだったんだろう。

 ただ、前話のラストに乱入した時はあのハチャメチャな迷探偵を圧倒的に意識したのは事実だけど……』


「やっぱ意識してたんだ(笑)」


 焦れた様子で伊達男が割って入った。


『お取り込みのところを申し訳ないが、さっきから作者だの古書店のキャラだの迷探偵だの、原作を読んでいない読者や僕にはまったく理解不能なワードが飛び交ってるんだけど、要は彼に対する呼び名でしょ。それを何とかしろと。


 ついでといっては何だけど僕のことも言わせてもらうと、君は僕のことを"()ィー"と呼んでるようだけど、それも訂正してくれないか。そこに()()()()侮蔑の意味合いを感じるんだけど』


「出たぁ!!! 生・ある種のぉぉぉ……!!! 有難く頂戴しました。……あとはTBSの耕二氏の生・……まぁ、を頂きたいものだね。"……まぁ、"多いな! 何回言うねん! って生で是非ツッこみたい♡


 そんなことはさておき、理ィーさん、侮蔑なんてそんなことはまったく、それはいくらなんでも、それはいくらなんでも、いくらなんでもご容赦ください(当時の理財局長風に)。


 誤解だよ誤解、それはゴ・カ・イ。だってほら、氏名を明記すると本人が確定しちゃうんだよね。そうなると当然、本人からのクレームも考えられるし、何よりこれは架空のことなの。あくまで架空、いい? 本名を出したら架空では済まなくなる可能性も出てくるわけ。だからそこは我慢してもらう以外ないの、悪いけど。


 その代わりといったらとなんだけど、ボクのことを"()ィーくん"とか"()ィーちゃん"って呼んでくれて一向に構わないから、うん。全然ボクは気にしないし。ただ、"()ィーさん"だけはやめてね。共産主義の大物と間違われかねないから。ボクはそれでもいいしウエルカムだけど、あっちの大物はそうはいかないだろうからね。

 ただ、アンティファのTシャツを着る趣味はボクにはない、さすがに。あ、それは晃さんか。間違えた」


 憮然とした表情のまま男は返した。


『僕の頭が悪いのか、さっきから意味不明で理解不能の釈明を延々と聞かされているんだけど、要はあれでしょ。僕の言論が君のそれとは明らかに対立するものだから誹謗中傷を込めてそういう名称、呼称を意図的に使ってるってことでしょ』


「理ィーさぁ~ん、そうじゃないってさっきから言ってるじゃ~ん! 気になるならボクのことを"司ィーくん"って呼んでも構わないって。そこに誹謗中傷侮蔑悪感情その他何を含ませようが含ませまいがお互い様でしょ。そんなにプンプンしないでさぁ。


 ……いや、そういうことか。置かれた状況を承知の上で知らぬ振りをして突っかかってるのか。つまり、既に対決モードに入ってるってことね。ゴングは既に鳴らされたってわけね。よし、わかった。それじゃ、言わせてもらう」


 お馴染みの浅日縮小団のカップに満たされたDHC海洋深層水でのどを潤し、司は畳みかけた。


「確かに"理ィーさん"の呼称にはあの国のポピュラー・ネームに引っかけての含みはある。だって、『俺が韓国だ~!』みたいなコメントをいつもしてるでしょ。玉ねぎ男の件にしろ、日本の女の子が暴力を振われた件にしろ、どこの国の人ですか? ってコメントばっかしてるじゃん。ボクは的確な呼び名だと思うよ。


 それに対してボクのことをAクラスでもBランクでもない"司ィーくん"と呼んでくれて構わないって言ってるんだから五分五分だよね。


 そんなことより、またとない機会だから議論しよう。せっかくの顔ぶれだからコロナに関してをテーマに。異存はないよね」


 司は、すれ違い際に相手の左足に自分の左足を絡ませ、からだを回転させて相手の右腕と首を同時に左腕で極めた。猪木が得意の往年の決め技、コブラ・ツイスト!!

 もちろん、会話上で、である。


「理ィーさんさぁ、あれはマズったよ、あれ。プリンセス号隔離の時のあのコメント。いわゆる水際作戦に賛同して客室への隔離を『()()()、最適な環境』って言ったよね。あれはマズった。珍しく政府のやることに同調したりするからこんなことになるんだよ。その時点で正しいと思ったんだろうから仕方ないけど、あれはダメ。


 あそこは人権尊重を叫ばないと! あんな狭い客室に二週間も閉じ込められたら、例え健康で頑強な若者でも病気になりかねないのは目に見えてるじゃん! ましてや乗客の多くは高齢者だよ! あんな結果になるのは目に見えてたじゃん! バッカだなぁ~。リベラルの名が泣くよ。


 ……あ、リベラルって言われるの嫌がってたんだっけ? なんで? 反対、反対ばかりで無能のイメージが強いから? 世間のイメージが悪いから? まぁ、いいや。


 とにかく、例え結果的に間違うことになったとしても、あそこは人権を訴えないと。結果として間違えてはなかったんだけどね。その後、世界中から非難を浴びたから。


 あの時、冷酷で名の通っているボクでさえ、リアルタイムでこれは酷い仕打ちだと思ったんだぜ。リベラルを標榜する君が何故、そんな根本的なところに気付かないの。……あ、リベラル呼ばわりは嫌だったんだね。その、理ィーさんみたいなスタンスの人がそれを言わないでどうするの。


 もしかして、そっち界隈の唱える人権ってその程度のものってことはないよね。単なる建て前ってことはないよね。意見を取り下げたら"裏切り者!"とか"日和ったな!"って罵声を浴びせられたアイドルがその証拠だ、ってことはないよね。散々寄付金集めに利用し、用済みになったらゴミクズのように捨て去る、あの国の慰安婦の支援団体がスタンダードなやり口だということはないよね。ついつい、人権に関して本性を現したってことは絶対にないよね!」


 時系列をガン無視しながら司はさらにあばらを締め上げた。再度言うが会話上で、である。


「あと、『たかが検査。(増えないのは)政府が無能だから』って言っちゃったよね。あれもよくない。政権批判はいつものことだから構わないんだけど、医療関係者から非難が噴出しちゃったよね。あいつはなんにもわかってない、現場をちゃんと取材してから言え、って。


 CPR検査は精度に問題がある。故に、ほぼ類推することが可能なCTスキャンの充実に日本の医療は舵を切っていた。検査には採取する膨大な数の専門の人材が必要である。膨大な数の検査キットやひとりごとに交換、廃棄する防護服も必要である。


 ちなみに、世界各地の検査数から見て、彼らがそれを厳守していたとはボクには思えない。もしかすると、そういった不備にならざるを得なかった検査が感染源になった可能性すら私感ながら考えている。


 要するに、検査は数の限度があり、精度にも問題があり、危険を伴う。だから、発生したクラスター等の必要なところや高齢者、疾患保持者等の必要な人に最小限に行う。その件数をなるべく拡充させるというのが政府の方針であり、一ヶ月後、世界から"日本の奇妙な成功"とやや滑稽な賞賛を受けることになる。


 つまりね、無闇やたらの検査は間違ってる、無意味だってこと!!」


 これまた時系列を無視しての攻撃!


「話は飛ぶけど理ィ―さんさぁ、政権が倒れる目安の数値って知ってるよね、ジャーナリストだし。内閣支持率と党支持率の合計が50%を下回ると政権は保てない、って説」


 防戦一方のダンディは、予期せぬ方向からの問いかけに訝しげに答えた。


『もちろん、知ってる。信憑性があるかないかはともかく、わりと有名な話ではあるし、その存在なら誰しもが知ってることでしょ』


 首を極めた左手に右腕を回しこんで両手をロックし、司はさらに力を振り絞った。完成形なるコブラ・ツイスト!! 三度言うが会話上で、である。


「青木幹雄が唱えたとされる法則なんだけど、昨日、文化人放送局のユーチューブでその話をやってたんで見てたの。そしたらね、何故だか"青木の法則"のテロップの"()()"の部分だけモザイクが入ってたの。

 怪訝だよね。変だよね。おかしいよね~~」


 ギブアップ? 理ィ―さん、ギブアップ? 特別レフェリーの山本小鉄は逡巡した。ここまでコブラが極まっては逃れようがない。危険である。レスラーの今後のことを考え、権限であるレフェリー・ストップを宣告するか否かを見極めていたのだ。何度も言うが会話上で、である。


 時空を超えてご登場いただいた山本小鉄さん、遅ればせながら心よりご冥福をお祈りいたします。


「ま・さ・か、とは思うけど、最近、問題になってるユーチューブの広告剥がしにあなた一役買ってるっ……」


 男はスッと席を立った。


『済まないが帰らせてもらう。TBSの打ち合わせなんだ』


 そう言ってそそくさと去っていった。司は一方的に勝利を確信した。



 〇司 (13分03秒 時系列ガン無視式あばら折り) 理ィ―さん●


第6話へ続く

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