第1話 ファーストコンタクト
この作品はフィクションであり、本作品に登場する人物、団体は架空のものです。実在の人物、団体が一部登場しますが、あくまで本作品は物語であり、利益目的など微塵もミジンコほどもなく、右も左もわからない素人と思って見逃してください。愚者の戯れと軽くスルーしてください。富裕層の有名人がこんな些末なことに目くじらを立てないようにお願いします。そんなことをすればお名前に傷が付きますよ。評判もガタ落ちですよぉ。
それでも著作権だ、やれ肖像権だと仰るのであれば潔く撤退し、速攻削除します。脱兎のごとく逃げの一手に出ることを正々堂々と宣言しておきます。
辺りを用心深くきょろきょろ見回しながら、徹は恐る恐る歩道を進んでいた。人混みの中でその姿は挙動不審そのものであり、しかも、聞こえるか聞こえないかの音量で何やらつぶやきながらであるから周囲はたまらない。彼の周りは、まるで聖域か結界のごとき空白地帯が生まれていた。とにかく、彼の様子が尋常でないことは遠巻きに見る誰の目にも明白であった。
『怖いよ、怖いよぅ……。マジ怖いよぅ。めちゃ怖いよ……。怖いよ、怖いよ……。マジ怖いよぅ。めちゃ怖……』
そこへ通りかかった司。不気味に蠢く彼を認め、思わず近寄って声をかけた。
「おい、玉ちゃん! 玉ちゃんじゃないか。どうしたの玉ちゃん!
腕っぷしはそれほどでもないにもかかわらず薄弱な論拠を強弁で押し通す、闘志だけは人一倍の君が、なにゆえに何かに怯えた犬のごとき醜態をさらしている! いったい、どうしたというのだ!」
かけられた声の方角に一瞥をくれ、徹は応じた。
『わかりやすいおれのキャラ説明…&君のキャラ告知な、司くん……。久しぶり(苦笑)』
「何が(徹の仕草を真似て)『…。久しぶり(苦笑)』だよ! どう見ても君は普通じゃない。どうしたんだ、いったい。何があったの? 説明しろよ」
問い詰める司に徹は、唇を少し震わせながら小さく呟いた。
『コ…コロナだよ……』
「コロナ!?」
司は大きく意表を突かれた。借金に苦しんでとかというありがちな可能性は初めから考えなかった。あるとしたら、ろくに裏取りもせずに『土日は休みだ!』と公言してしまい、後に事実に反することが露呈して上司や関係者、ことにネットから袋叩きにされて心身ともに憔悴しきっているのではないか。きっと、そんなところだろうと考えていたのだ。
『そう、コロナ。……例の新型コロナだよ』
意を決したような徹の答えを引き取って少しだけ考え、司は返した。
「ふ~ん。何十年かぶりにリバイバル、リニューアル生産するんだ、懐かしの大衆車。新型コロナか。それにしてもずいぶんマニアックな狭い層を狙っての思い切ったチョイスだね」
『うん、そうなの、そうなの。なんでもコアなファンがけっこういるらしいの。これが好評だったら続編としてマークIIを販売するそうだよ。今はマークXだけど、その昔、マークIIの人気たるや絶大なものがあったからなぁ。こっちの方が断然売れると思うよ! 中間層の憧れ!! それを若いやつが乗るってのがカッコよかったんだよ!! けどなぁ、当時のおれはもうひとつ上のクラスのクラウンの方が好みで……』
スッと手をかざした司は、ため息をひとつついて徹の言葉をやんわりと遮った。
「玉ちゃん…。玉ちゃんさぁ、ボケたのボクだからね(怒)。しっかり突っ込んでくれないとダメでしょう! でないと会話が成立しないよね! いい、わかった? 他人がボケたらしっかり突っ込む! これ、会話の基本中の基本! ここ、重要なところよ。覚えた? 次、必ずテスト出るからね!わかった? わかったね! 次はちゃんとやってよね!
ったく。玉ちゃんてばホント勝手でわがままで頑固で独善で聞かん坊で思い込みが激しくて都合のいい忘れん坊で○○が✕✕……」
『そ……それは言いすぎでね?(遠慮がちに)』
「はい! それっ! それよ、それ、それでいいの。さすが玉ちゃん、学習能力あれだよね、あれ。うん、素晴らしい。あと、できればもっと自信持って。間違ってもいいから思いきって来てくれたらもっとよかったかもだね。たのむね、玉ちゃん。
……で、何の話だったっけ。そうそう、コロナね、コロナ。新型コロナウイルスのことだね。思い出した、うん。それで? 新型コロナウイルスの何がそんなに怖いのさ?」
司の無神経な投げかけを受けた瞬間、憤怒のマグマが徹の全身という全身を瞬く間に駆け巡った。そして、ともすれば広大すぎる額のその底部に位置する眉をこれでもか、というほどに吊り上げて徹は噛みつかんばかりに吠えたてた。
『何がそんなに怖いの、って?! 何がって何もかもに決まってるだろ! 何もかもだよ! 何もかも! いいか、このウイルスに関して何にもわかってないの! 世界中の誰ひとりだよ! これは大変なことだ! この事実からは誰も逃れられない!』
「えぇ~ダレノガレさんに関してましてはですね、後の出来事になりますが当団体関連会社の潮日新問がですね、非常に、ひじょ~に御迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び……」
『ダ・レ・ノガレじゃあねぇ〜〜よ!ダレノガレじゃあ。散々あちこちで使い回されたダジャレかよ』
「いいですねぇ! すっかりマスターしましたねぇ! 2回言う、それもアクセントを変化させてってのもすごくいい。いいよ、玉ちゃん」
『よかった? そう……。でも、何、後の出来事って?』
「現時点ではまだ起きてないことなの。今はほら、クルーズ船が横浜に来てどうするこうするで大騒ぎしてる状況でしょ。"渋賢"もまだ未登場だし。"岩健"はそろそろかな」
『何よ、シブケンとかイワケンって。』
「いいぃ〜の、いいの。玉ちゃんは気にしなくていいから。読んでくれてる人に伝わればそれでいいから。気にしないで続けよう。っね!
さぁ、怒りが爆発した所から。はい、スタート」
『……今さらそう言われてもなぁ。今のやり取りですっかりテンション下がっちゃったし』
「そうだよねぇ。そりゃそうだ。ボクは最初から言ってたの。インフルエンザと比べてみろって。アメリカで何万という人がインフルエンザで亡くなってるのに、そっちはあまり報道しようとしない。コロナによる死者は現時点ではたいした数じゃない。なのにマスコミはコロナ、コロナって大騒ぎ。コロナはそれほど強毒性のウイルスではない。マスコミは騒ぎすぎだ、って。
まぁ、ちょっと過激に言い過ぎたところもあったんで結局は百田さんに謝罪したんだけどね、先日。あ、これは前後なし、正しい時系列ね」
徹の体内の憤怒のマグマが再び、一瞬にして沸き上がった。
『と〜お〜ぜ〜んだね! 当然、当ったり前だ! よくもそんな暴言、暴論を平気で言えるね! 君の思考回路はブッ壊れてるんじゃないか! ひぃやっくぷぅわぁ〜セント百田さんが正しい! いいか、90でも80でもない、完全無欠の100%ね!』
「百田さんだけにね……」
『つまんないことを言わなくていいの! 君は明らかに間違っている! この未知のウイルスを決して侮ってはいけない! 百田さんのことはおれは嫌いだけど、この件に関してはまったく別! すべて百田さんの言う通りだよ!! ……百田さんが何を言っているかは知らないけど。
よく聞きな。このウイルスは世界をとんでもない事態に導くものとおれは考えてる! もしかすると人類が危機に陥るかも知れないとまで予測している! 今後、今まで経験したことがないような世界を人類は目撃することになるに違いない!! 我は予言する!! 我が予言を信じよ!!』
司は徹に気付かれないように少しからだをひねり、誰に向けるでもなく口に手を添えて小声で呟いた。
「既にお気付きかとは思いますが、前言は作者による事後の完全なる創作です。この時点で玉ちゃんがそのような、後に的中する近未来予言を宣告したという情報はございません。念のため、作者より」
『だから今、とっても危険な状態なの! 日本が消えてなくなっちゃうかも知れないピンチなんだよ! これが怖くなくて何が怖い、って話! わかるよね! わからないとは言わせないよ! わかってくれるよね!! 司くんならわかるよね! ね!! ね!!!』
その尋常ではない剣幕と勢いに押され、たじろぎながら
「わかった、わかった。ホントはわからんけどわかったから。ひとまず落ち着け。興奮していいことなんて何ひとつないから。とにかく落ち着こう」
と、なんとか取りなそうとする司だったが、徹の中の怒りのマグマはますます荒れ狂う一方である。そして、激憤のボルテージはついに頂点にまで達した。ここからは"YouはShock!"でお馴染みのクリスタル・キングの「愛をとりもどせ!!」をBGMに推奨します♪
『これが落ち着いてられるか、ってんだぁ! こうしてる間にもウイルスは着々とこの国を蝕んでいるんだぁ! 状況は決して落ち着いてる場合ではなぁ~いっ!! 新世紀は早くも世紀末に突入したぁ!! 今すぐにでも#\\鎖=%#&$封”~!!!』
これ以上は危険と察知した司はとっさに、すっかり壊れてしまった徹の背後に電光石火の足さばきで素早く回りこみ、彼の耳元でそっと囁いた。
「コロナ怖いよ、コロナ怖いよ……玉ちゃん。コロナ怖いよ、怖い怖い……。怖いなぁ……あぁ怖い……。怖いよねぇ……玉ちゃん」
狂気にゆがんだ徹の顔は、みるみるうちに不安に駆られた表情へ変貌していく。さらに囁き続ける司。
「怖いよ、怖いよ……、玉ちゃん。すっごく怖いよ……」
司の囁き制御棒投入は見事に功を奏した。
『怖いよ、怖いよ……。ウイルスがこっちへやって来るよ……。ウイルスがおいらを平らげようとしてくるよ……』
急速に憤怒エネルギーが低温化していった徹は、ついには頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。完落ちである。かくして徹のメルトダウンという最悪の事態は司による機転によって回避された。……メルトダウンしたところでどうということはないのだけれど。
ふぅ~と一息つく司。
「ブチ切れたり怯えこんだり忙しいやっちゃなぁ……。まぁいい。これで落ち着いて話ができる。
……で、玉ちゃん、君はコロナが怖いんだね。だったらボクが集めた情報でできる限りの説明をして君を安心させてあげるから。不安なことや疑問なんかををボクに言ってみなよ」
それを聞いた徹は、まるで思いがけず天使に出くわした無垢の少年のようにキラキラと瞳を輝かせてゆっくりと立ち上がった。
次話へ続く