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甘口

ケモナー・ケダマスキーともふもふの国

 冒険者ケモナー・ケダマスキーは、とある農村の村長から依頼された仕事を遂行できずにいた。畑を荒らす魔物がもふもふの化身、頭のてっぺんから尻尾の先まで毛玉そのものだったからだ。この地の民が皆もふもふなので、もしや、という予感はあったが……。人間の土地の魔物がおおむね人型であるように、もふもふの地では魔物もまたもふもふなのだろう。何を隠そうケモナー・ケダマスキーは無類のもふもふ好き。もふもふに手をかけるなど、できようはずもない。

 もふもふであろうと魔物は魔物。うにゃー!!とひと吠え、毛玉が跳びかかってきた。若干の恍惚をもって毛玉の魔物に組み付かれたケモナー・ケダマスキーは、武器を使えぬまま格闘しながら、苦し紛れに魔物の毛皮をもふもふしてみた。するとどうだろう……もふもふされたもふもふがみるみるおとなしくなり、ケモナー・ケダマスキーに腹を見せて尻尾を振るではないか!

 ケモナー・ケダマスキーは魔物に案内されて山奥の廃城へ向かった。毛玉達は畑から奪った作物を、毛玉の魔王に献上していたのだ。もふもふの親玉だけあって、魔王は周りのどんなもふもふよりもひときわもふもふだった。たちまち毛玉の群れがケモナー・ケダマスキーを取り囲んだが、ケモナー・ケダマスキーは辛抱たまらず魔王の喉元の柔毛に襲いかかった。

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

「に、にんげんふぜいが、あはああぁぁーーーー……」

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 次の瞬間には魔王も手下も皆仰向けに転がって痙攣し、ちぎれんばかりに尻尾を振っていた。ケモナー・ケダマスキーの実力は冒険者としては人並みだが、もふもふを悦ばせる方法であれば誰よりも知り抜いている。もふもふなら誰もが気持ちよく感じる部位を優しくほぐしてやると、そのうち、普段は嫌がるような部位も触らせてもらえるようになる。そうした部位はたいてい敏感なので、大胆かつ激しいもふもふで一気に責めれば、毛玉達はもうケモナー・ケダマスキーの思うがまま、全身どこでももふもふされるがままだ(注意!!これは恥も外聞もかなぐり捨ててもふもふを極めし変態ケモナーのみ可能な手技である。一般人が訓練なしにいきなり猛獣をもふもふしようとしても噛まれるだけなので、よい子は決して真似をしてはいけない)。


 もふもふの技によって窮地を切り抜け任務を果たしたケモナー・ケダマスキーは農村へ戻り、出会う村人を手当たり次第にもふもふもふもふして、報酬の受け取りもそこそこに村長の豊かな頬毛にも襲いかかった。そして魔王を倒した功績で王城に招かれると、謁見の間に参上するなり玉座に駆け寄って、王も王妃も王子も王女も宰相も家臣達も召使い達も、止めに入った衛兵達をも誰彼構わずもふもふもふもふもふもふもふもふした。

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

「勇者よ、みごとおぉーーーー……」

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

「陛下になにをおっほぉーーーー……」

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

「無礼ものおぁぁーーーー……」

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

「おみみきもちいぃーーーー……」

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

「おなからめぇーーーー……」

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ

 もふもふもふもふもふもふもふもふ……。

 宮廷に居合わせたもふもふは皆、ケモナー・ケダマスキーの極上のもふもふにすっかりとろけてしまった。


 その後、もふもふの楽園に居を構えたケモナー・ケダマスキーは、西に諍いがあると聞けば出向いて双方もふり倒し、東に不幸せがあると知れば出向いて一人残らずもふり回し、もふもふの妻ともふもふの子らを得て、生涯もふもふをもふもふし続け幸せに暮らした。そして都の中央広場には、ケモナー・ケダマスキーをとこしえに讃える巨大な立像が建った。


おわり

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