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箱庭で踊れ  作者: 村崎悠
序章
6/9

聖地アリエ-2

「十分の遅刻です、姉さん」

 推定妹であろう赤髪でポニーテールの女性が、私の目の前で仁王立ちしていた。とはいっても、女性の方が私より僅かに身長が低いので、女性が見下ろす形でなく、首を少し上げる形になっていますけど。

 ……推定でもなく、妹ですね。この噴水広場で他に赤髪の人なんていませんし。確かに目立つ。周りにいる他の人は大体がもう少し落ち着いた色の髪です。

 あと、私に対する態度が普段通りなので。

「妹よ、これには深い理由がありまして」

「どんな理由であれ許さない、後でログアウトしたら説教。それに深い理由なんてないでしょうが。姉さんは時間にルーズなところをいい加減矯正してください」

 ますます、妹の怒りのオーラが、怒髪天で表現されそうです。ゲームってこんなところまで表現できるのでしょうか。

 妹は時間に厳しくて、許容範囲は三十秒らしい。その許容範囲内でも過ぎたら、顔をしかめることはするんだけど。

「……本当、姉さんも結構派手にキャラメイクしたね。私もそこそこ思い切ってやったつもりだったけれど、まさかこれほどとは……顔はほとんど変わってなかったから、なんとか姉さんだってわかったけど」

 腕組を止めて、ちりちりと火花を散らしている雰囲気からいつも通りのさばさばしている雰囲気に戻ると、じろじろと私のアバターを丁寧に、しかし嘗め尽くすかのような視線で眺めてきます。そして、左腕を掴む。妹が顔を腕に近づけて目を凝らしている。

「それと、肌の感触も現実と同じ……、どんな技術しているのよ……知りたいわ」

「フェイ、くすぐったいんだけど」

 妹が理系特有の、構造解析してみたい欲だらだらの目をしている。こうなると、何も情報が妹の頭に入ってこなくなるようなので――

「あだっ」

 頭にチョップをかまして、妹の思考を強制終了させる。

 あっ、しゃがんで頭抱える妹の姿、可愛い。

「ほら、フレンド登録するんでしょ」

「うう、そうだった……、はい、フレンド登録お願い」

 妹がディスプレイをいじくっていると、目の前にピコンと「ユーザー名:フェイさんからフレンド登録の申し込みがされています。許可しますか? YES / NO」と表示されたディスプレイが出てきたので、YESを押す。「登録されました」無事に済んだみたい。

 妹が送られてきた私のアバター情報を読むと、腕を組んで、

「姉さんのアバター名はクラウディアね……なんか姉さんらしい名前ね」

「どんなところが」

 適当に思いついたのを名乗っただけなんだけど。

「雲のようにふわふわ動いて自由に動きそうなところ」

「ああ……なるほどね」

 自覚しているので、すんなりと納得してしまった。思わず手のひらにぽんとしたくなる。

「そういうあなたのフェイも、なんか見た目通りにかっこいいじゃない」

「私はアバター作るのにじっくりかけたからね。名前もそれに合うように考えたし」

 ふふん、と自慢げに標準並みの胸を張っている。ふと自分の胸を見てしまった。――何も見なかったことにしよう。強がって胸を大きくしなかったのは、まずかったか、しかし、いじったら現実で妹にいじられることは確定する。

「さて、当初の目的は終わりましたけど、姉さんはどうするの。私は一人で狩りに行こうと思うんだけど、レベリングも兼ねて」

 ふと、妹の服装を見てみる。妹は私の今着ている初期装備の真っ白な服じゃなくて、赤色、というよりかは朱色塗りの鎧に身を包んでいた。

「ねえ、フェイ、その装備って」

 指差して聞くと、

「ああ、これね」

 自分の着ている鎧に視線を落としながら、

「βテスト参加した時の特典ということで、βテスト時終了時点の装備から一つもらったんだよ」

「あ、そうなんだ。βテスト参加していたことは初めて聞いたけど」

 目を細めてじとーと擬音語を出すと、妹は苦笑して、

「だって姉さん、最初はゲームに興味なかったでしょ」

「まあね」

 確かにこれは苦笑するしかない。刀いじったり勉強するほうが楽しいからね、私の場合。

「といってもこれで攻略とかでアドバンテージがあるか、と言われると誤差の範囲内だと思うけどね」

「そうなの?」

 昔一回だけ別のゲームでβテスターになったけど、正式版だとそこそこいいスタートになったよ。すぐにやめちゃったけど。

「このゲーム、戦闘をメインにしているわけじゃないし。戦闘はあくまでゲームを盛り上げるための要素だと、ここの運営は考えているらしいんだよね。それに戦闘関係のプレイヤースキルなんてここだとゴミだし」

「チュートリアルでも言われたけど、行動補正を受けるから?」

「あの感覚になれるのは難しいと思うよ。実際嫌って戦闘を極力避けている人もいるし」

 確かに意のままに動けないところは、きついと思うけど。

「避けて大丈夫なの?」

「まあ収入という点では、したほうがいいんだけどね、攻略に関しては逃げ足さえあればなんとかやっていけるらしいよ。どっかで絶対に詰まることにはなりそうだけど。まあいいや、で、姉さんはどうするの」

 話がかなり脇道に逸れていた。

 真っ白な雲が浮かぶ空に視線を上げて、頭を巡らす。

「そうだね、まだ職業設定してないからそれして、あと訓練所があるらしいから、そこでもうちょっと体動かすのに慣れさせる」

「職業設定まだしてなかったんだ。じゃあ、チュートリアル終わってすぐにここに向かったの」

「そうだよ」

「姉さんは姉さんだね」

 それはどういう意味でしょう。

「姉さんはそのままでいてください」

 そんな口角を上げた微笑で私を見ないで!

「説教は軽めにしてあげましょう」

「それは忘れてよ!」

 私は頭を抱えてしゃがんだのだった。


お久しぶりです。やっと自分なりに納得のいくプロットを思いつけたので、ゆったりペースですが、投稿していきます。毎回のことですけど、基本細かい部分は行き当たりばったりですので、後日修正する可能性はあります(予防線)。

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