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箱庭で踊れ  作者: 村崎悠
序章
4/9

チュートリアル


 光が収まると、一面緑色のカーペットが敷き詰められたような、いかにも人工物です、と暗に言っている場所に躍り出た。

 改めて、自分のアバターを動かしてみる。実際の肉体を動かしているときとあまり違和感がなかった。あるのは、肩こりが無く、肩の動きがびゅんびゅん振り回せるほどに軽くなっているぐらいだ。こんなに軽いなら、頑張って肩こりを治すのもありだなあ。

 体の動きをチェックしていると、一人の男性がいつのまにか視界の中に入っていた。

 黒いスーツとネクタイをピシっと着こなした、黒に近い紫のタイトな七三分けの髪と青白い肌を持った素敵な男性だ。私のアバターの身長より少しばかり、背が高い。

「ようこそクラウディア様、私はチュートリアルを担当させていただきますネロと言います、以後お見知りおきを」

「よろしくお願いします」

「では早速ですが、簡単にまずゲームのシステム方面での説明をさせていただきます。クラウディア様の場合ですと、……脳波を読み取った結果どうやらちゃんと説明を読まれているということですが、プレイヤー全員に説明させていただきますことをご了承ください。

このゲームでは、能力については職業制を取らせていただいておりますが、その選択は実際ゲームが始まった後、まず全員ハンターという職業に自動的に決まりますが、この職業は、変更することがいつでもできます。ただし、最初の一回を除いて、転職は月ごとに回数制限がありますので、ご注意ください。また、職業ごとにレベルがあり、変更すると変更後の職業を以前使ったときのレベルになりますので、ご注意ください。選択できる職業や、さらに詳しい話については、職業選択の時に表示されますので、お読みください」

 職業については、読み込んだ通りの話だ。

 最初に選べる職業は、戦闘職・生産職からそれぞれ五つずつだ。そこからさらにゲームの進行や各職業のレベルによって新たな職業を選択できる、といったものだ。

 そもそもこのゲームの運営会社によれば、ゲーム内における公平さに注意して、このシステムを作ったらしく、ランキングやドロップ等では運が多少必要であれど、職業やアイテム、称号などの要素は誰にでも手に取れるチャンスがいつでも存在する、ことらしい。その分、簡単に強くなれる要素は排除されたようだけど。

 私のように、ほかのオンラインではよくあるリソースの奪い合いをしたくない人間にとっては、うれしい話である。逆に言えば、周りとは差が付きにくい、ということではあるけれど。

 あと、スキルは現在ついている職業によって決まる。

「また、現在のレベルキャップは五十となります」

 他のゲームだと百が最初のレベルキャップにするところが、最近は多いから、思った以上にレベルキャップが低い。今後どれぐらいの頻度でレベルキャップ制限が解除されるのかが、分からないけど、廃人プレイヤーの人だったら、すぐにカンストしてしまいそうだ。

「現在のところ、説明事項はこれだけですので、今度は戦闘チュートリアルを始めたいと思います。質問等あれば受け付けますが」

「いえ、今のところはありません」

「では、始めさせていただきます。まず概略についてお話させていただきます。このゲームの戦闘では、武器やいわゆる魔法などを使って敵を倒していきます。ここでは、実際にモンスターを倒していくことに慣れさせていただきます。一つ注意事項として、ゲーム内ではある程度アシスタント補正がされております。これはどのような方でも補正は受けていただきますので、それによる不快感などを覚えた場合でも、こちらでは対処することはできません」

 これもわかる。あくまでゲームだ。ゲームの中では武器を振り回し出来たからって、現実でも振り回すバカが、ごく少数いるのだ。そのせいでいちいち言われちゃゲーム会社も大変だ。

 なので、無理やりにでもアシスタント補正をつけることによって、現実では上手く出来ないようにしているのだろう。補正に慣れた脳では、補正なしの状態へと修正するのに時間がかかる。

 私は平穏が大好きなので、もちろんおとなしく従うことにします。そもそも、武術に長けているわけでもないですから、ほとんど関係ありませんが。

「説明事項も終わりましたので、次は実際にモンスターを相手に戦ってみましょう。なお、ここでのチュートリアルは飛ばすことができますが、いかがしますか」

「そのままでお願いします」

「では」

 すると、一匹の角が額の中央あたりに生えたウサギが現れた。

 目がランランと輝いており、リアルでのウサギとは真反対の表情ですね。誰ですか、こんな涎を垂らすのを躊躇しないように設計したものは。怖いのですが。

「では今は攻撃してこないので、インベントリにいれてある武器でそれぞれやってみてください」

 インベントリにあるのは……オーソドックスに剣、杖、斧、槍、長弓、短弓などなど……挙句の果てに、銃火器なども入っている。

「かなり多くないですか?」

 このゲーム自体、戦闘メインという話は無かったはず。しかも、近代の武器もあるのだけれど。

「そうですね、これはβテストでの意見を反映させた結果ということもあるのですが、もともとそれぐらい実装するつもりだった、と管理者からは聞いています。戦闘ドンパチやりたい、という方なら別のゲームになさるのでしょうが、ここではあくまで『おまけ』要素にどちらかと言えば近いわけですからね。ですが、このゲームのコンセプトは、お読みになったでしょうか……、と説明書をちゃんとお読みされている方ですからお判りでしょう」

 このゲームは、「本物の冒険を」というキャッチコピーで経営されている。私はその言葉に惹かれてわざわざ普段しないゲームをやろうとしたのだ。もちろんどういうゲームなのかは、買う前でも買った後でも、細かく調べている。

「ざっくりとした説明ですけど、神無き後、世界は戦争という炎に焼かれ、過ぎ去った後……という話だけれど、それが実際本当かどうかは分からない、といったものですよね」

 ゲーム内では、歴史書などがほとんど全て紛失、口頭で伝えられてきた伝承も何代も重ねられたために、あやふやなところがかなり多い、という設定だ。加え、生活をしている人々は、外に出ない。何百か何千年かは分からないけれど、聖地と呼ばれる、魔物を寄せ付けない場所にずっとこもっているからだ。

「そうです、その世界を描くために、武器もそれなりに揃えられている、ということです」

 かなり凝っています。そうでないと、私はこのゲームを途中で放棄していたかもしれない。

「っと、長話は置いときまして」

 そうだ、チュートリアルの途中だった。

 ひとまずインベントリから剣を取り出して、柄のところを握って振ってみる。毎日のように本物に触れているからか、多少軽く感じる。

「すみません、これってもう少し重くできませんか」

「重く、ですか。確かにこれは実物より軽く設計されていますが……問い合わせてみます」

 すると、ネロさんは右の手のひらを右耳に当てて、ぼそぼそと口を動かす。するとネロさんの足元に一本のオーソドックスな剣が、置かれていた。

「はい、これが実物と同じ重さの剣になっています。ご確認ください」

 ネロさんから剣を受け取って、先ほどと同じように剣を振ってみる。

 前と比べると違和感はない。

「では、目の前のモンスターを攻撃してみてください」

 ウサギに視線を戻す。だらだら、というわけではないけれど、相変わらず涎が止まる様子はない。いっそのこと清々しい。

 剣先をウサギに向ける。

 剣を振る。


「これにて、チュートリアルは終了です。お疲れさまでした」

「……お疲れさまでした」

 確かに補正は素晴らしかった。自分だけでやったら、攻撃なんて当たらないはずだったのを、体の動きに合わせて修正してくれるものだから。

 しかし、引っ張られている感覚があるから、どうしても反射で引っ張られている方向とは逆に力んでしまう。それが、手足、腰回り、頭など体全体に負荷としてかかってしまうから、横に倒れて目をつぶっていたかった。寝たい。慣れるまでに時間がかかる。

 今回はまず好きな武器を三種類だけ扱って、残りの武器はゲーム内で訓練できる場所があるから、そこでやってほしい、とのこと。あくまでここでは、生き物に武器を向けて振るうことを慣れさせることが目的だろう。

 血は慣れている。けど、手に伝わる、潰したり切ったりする感触がまだ慣れない。

 これが現実か、これが現実なのか。

 …………

「どうしましたかクラウディアさ――だ、大丈夫ですかっ!? 急に吐き始めて!」

「すみません、ちょっと感触を思い出しまして」

 慣れる、ということは簡単だけど、そこまで行くのがつらい。

 しばしお待ちを。

「ふう、心配おかけしました」

 口元を手で拭く。

「いえ、最初の頃は多くの人が体調を崩されます」

 まだ胸のあたりが、むかむかしていますが、しばらくすれば治るでしょう。

「さて、クラウディア様はこれから世界に降り立つこととなりますが……私から一言よろしいでしょうか」

「? なんでしょうか?」

 ネロさんは佇まいを直し、真っ直ぐ私に目を向ける。

 目を細め、優しそうに微笑んでいた。

「あなたはこれから「冒険」をしていきます。その中で美しいものをみたり、または恐怖を垣間見ることもあるでしょう。私があなたに望むのは、それら全て含めて楽しんでいただきたいのです」

 ふう、とネロさんは息を吐き出す。

「――と、気障っぽいことを言ってしまいましたが、これは私がチュートリアルを担当したほとんどの人に言っています。本来、冒険というものは、危険を冒す、という意味ですから途中で投げ出す人もいるわけです。ですが、その先にある未だ知らない『何か』を求めるという行為は、人間にとって必要不可欠なものなのです。私たちAIは、そのことを知識としてしか知りませんから、こんな風に上から言える立場ではありませんけどね」

「ですが、私たちもβテストの前段階のテストで、プレイヤーという立場でやらせていただいたとき、ある程度、体感することができました。おそらく、これは言葉にすることは難しい感覚なのだと、そのとき知ったのです。しかし、これが所謂「楽しい」という感情なのでしょう」

「ですから、こうしてわかりきったことを、と思われることを承知の上、こうして話させていただきました。このことは、管理者様から了解を得ています」

 彼の言った言葉に、真剣に耳を傾けた。

 彼の言いたいことはわかる。

 彼が言っている感覚というものは、調べればすぐに結果や知識が分かってしまうこの現代に生きる私たちには欠けつつある感覚なのだろう。私たちは短い直線を引くのに、慣れきってしまっている。

 別に彼は原点回帰しろ、なんて言っていない。だけど、私たちが神だかなんだか分からないけど、何者かに与えられたこの感覚を死蔵させるのは、もったいない、ということ、なのかもしれない。

 彼の言葉の裏は、そんなことなのかもしれない。彼が人間について、どういった意見を持っているかは分からないけれど。

「しかと、胸に刻み付けます」

 これは形式ではなく、本心だ。

 彼に伝わったのだろうか、彼は微笑みを作った。

 すると彼の後ろには、私の身長の二倍近い高さを持つ扉が現れていた。

「では、この扉をくぐれば、世界に降り立ちます。準備はよろしいでしょうか」

「はい」

 彼は、扉への道を開け、私に歩くよう、手で促す。

 扉の前まで来ると、その大きさに壮大な威圧感を覚えた。

「ではいってらっしゃいませ」

やっと、色々終わった……次回から色々始めます。

しかし、推敲前の文章のストックが切れたうえ、しばらく忙しいので、次の投稿は今まで以上にお待ちいただくことをご了承ください。

また、誤字脱字・変な表現といった報告をお待ちしています。便利ですよね、誤字脱字報告のは……


追記:タイトル変えました



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