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箱庭で踊れ  作者: 村崎悠
序章
3/9

キャラクタークリエイト

「ようこそ『廃墟の庭ONLINE』へ」

 視界がクリアになって最初に聞こえたのは、女性の声だ。ハスキーボイスの私より声が高い。若干機械っぽいが、そこは仕様だろう。

「ここでは、まずキャラクタークリエイト、そのあとチュートリアルをする流れとなっております。なお今現在は、ゲームするためのアバターが無い状態ですので、プレイヤーの声は出ませんが、質問等あれば私があなた様の思考を読み取っていただく形となります。その点はご了承ください」

 わかりました。

「キャラクタークリエイトの前に、まず本ゲームの利用規約を確認の後、同意するか否かを確認させていただきます」

 長くくどい利用規約を軽く流して、気になるところがないか確認する。

 ……おおむね問題はない。ゲーム内での活動について時々動画を取って編集してPVにします、的なことも書かれている。顔はもちろん、分からないように編集します、と。これも問題ない、ちゃんとやってくれるならば。なお、ゲーム内のスクリーンショットは禁止されている。

「……はい、では確認できました。次にキャラクタークリエイトをしていただきます。ここでは現実の姿をベースに細部を調整する、といった形となります。なおこのゲームでは種族は人族しかありません。データの方は……ちゃんとございますね。では、始めていきましょう。なお、よくある質問に身長などがございますが、身長は小さくすることはできますが、大きくすることはできません。また、顔のパーツに関しましては、私共がある程度補正させていただきます。……まあ、あなた様の場合は大丈夫でしょう」

 おや、AIさんからお墨付きを頂きました。有難うございます。

「そこは謙遜する場合では?」

 あなたしかいませんでしょう?

「それはそうですね」

 しかし、AIさんって感情豊かそうに見えますね。姿が見えないのは残念ですが。

「っとその前にお名前を聞かせていただきます。本名は避けてください」

 では始める前に決めた、『クラウディア』にします。

「わかりました、クラウディア様ですね」

 さて、ではいろいろやっておきましょう。

 目の前には等身大の私の姿が出てきます。胸は……やや残念ですが、別に私は気にしていませんし。見なかったことにしましょう。

「胸のサイズもある程度までは調整できますがいかがしますか」

 しません。しませんったらしません。したら、負けを認めるようなことになります。何の勝負をしているのか、私でもわかりませんが。

 気を取り直して。ではまず、髪の長さは腰まで伸ばしておきましょう。手入れするのが面倒くさくて普段はセミショートにしていますけど、ここはゲーム。手入れする必要はあまりないはずでしょう……ないですよね?

「手入れする必要はありません。ただ、髪は一度切ると、伸ばすことが一部の手段以外はできません。伸ばしたい場合は、今現在では課金するしかありません」

 今現在、ねえ。多分課金しなくてもできる方法があるでしょうけど、それって効果薄めでしょうねえ。月額制のゲームで、課金要素はおまけ、という印象を、カタログを見ても思いましたし。

 後は、肌の色を薄めて、髪は透き通るぐらいの銀髪にして、瞳は赤色にしましょう。アルビノっぽい外見になりました。現実でアルビノの人には、申し訳ないですけど、この姿はやはり憧れるものです。

「太陽光によるダメージはありませんので、ご安心ください」

 先に言われちゃいました。でもそういったデメリットがないことを知れたのはいいですね。

 爪は……ここまで白くしなくてもいいでしょう。赤色にしておきますか。

「……かなりお綺麗になりましたね。AIである私でも思わず見とれてしまいます。ここまでのレベルですと、やはり外見が特徴であることも相まって、ゲーム内でもそうそういませんので、人の目を集めてしまうでしょう。身長も女性の平均をそこそこ上回っていますので」

 予想よりかなり目立つ姿になってしまった。目立ちたくないからもうちょっと地味目にするか、でもこのアルビノ姿も捨てがたい……

「では最初に与えられるセル……ゲーム内通貨が半分以上無くなりますが、最初だけシンプルなコートや帽子を用意することができます。装備には含まれませんので、ステータスに変化はございません。またゲームをスタートすると課金アイテムになります」

 それはそれで目立ちそう……

「ファッションをするうえでも、裁縫士の方が作るには当分先でしょうから、身を隠す、という点では私の方からではこれだけしかできません。申し訳ありません」

 いえ、ここまでよくしていただいてありがとうございます。ここまでくると、もう割り切った方がいいかもしれない。

「現在の姿は初期装備の服と靴だけです。こちらで用意するコートを着るとこのようになります」

 なんというか、違和感が酷い。もう少しコートはだぼだぼでもいいと思うのだけれど、これは身長に合わせて調節されているらしくて、ぴったり感がすごい。これは本当に割り切った方がいい。ゲームではやりたいことをやるのだから、周りの目を気にしてもしょうがない。現実と同じようにすればいいのだ。

 ……掲示板は極力見ないようにしよう。

 そのあとも、耳の形や髪形といったところを調整。

「では、この姿で大丈夫でしょうか。大幅な変更、例えば肌の色や身長といった著しく見た目が変わる部分以外ではゲーム内通貨で変更できます」

 これで大丈夫です。なんかもう諦めました。

「では、これにてキャラクタークリエイトを終了します。引き続き、チュートリアルを開始しますか?」

「いえ、一旦ログアウトします。ちょうどお昼なので」

 どうやらキャラクタークリエイトが終わったからか、アバターから声が出ているようだ。

「では、お疲れさまでした」


 目を開く。

 どうやら現実に戻ってきたらしい。手のひらを握ったり開いたりして、体の感覚を確かめる。ログイン時間は少なかったから、支障はない。

 現在時刻は十二時七分。思ったよりもキャラクタークリエイトに時間がかかった。もともとどういうアバターにするのかは決めていたから、かなり短くできる、と思っていたけれど、目立つことを忘れていたり、細かいところでこだわってしまった部分が大きかったようだ。ゲームだからざっくりで大丈夫、なんて思っていた四十分前の自分が恨めしい。ただでさえ、このゲームは三倍に時間が加速されるから、現実世界でこれでは、ゲーム内では二時間近く悩んでいたのだ。

 それでも時間は短縮できた。飛鳥のいう話では、これよりも何倍も時間をかける人がいるのだから、不思議だ。私はそもそもVRではないMMORPGをやっているときだって、そこまでキャラクタークリエイトに時間をあまり割かない。周りからは、もったいないと言われるのだけれど、私がゲームをやる要素はシステム面の方が大きいから、気にしない。まあ、あまりゲーム自体やらないけど。今回は、流石に自分自身が直接動かすということで、多少かけた方だ。

 それに自分の容姿がどうであるかはわかっている、つもりだ。それによるメリット、デメリットは日常的に感じているから、ゲーム内ではそっとしてほしい。

 まあ、そんな話はともかく。

 居間に入ると、すでに妹がテーブル周りに座っていた。

「姉さん」

「どうしたの、私の予想よりも早くログアウトして」

 すると、飛鳥は良く手入れされた丸い爪で頬をこすって、

「私、連続ログインのこと忘れててね、二時間超えるとログアウトのあと、一時間は休まなきゃいけなくなるから、一旦早めに切り上げたんだよ」

 そういえば、そんな話が説明書に書いてあった。

連続ログインは八時間まで。二時間超えると一時間ログインすることが出来なくて、一時間長くなるごとに一時間ログインできない時間が増える。なので最大で七時間はできなくなる。

「昔VRの長期ログインで亡くなった人がいたからね」

「そこから厳しくなった」

 VRのオンラインゲームが出始めたのは、ここ近年だ。それからすぐに起こった、事故? によって規制が始まった。

 あくまでゲームだ。現実がくっきりと直視したくないぐらいあることには変わりはない。

「で姉さん、さすがにキャラクリは終わった?」

「終わったよ、ただかなり目立つ姿にしちゃったけど。初めてのVRだから、ついはじけちゃって」

 といってぬるくなったペットボトルのお茶を一口。

「わかるよー、私も大胆にやっちゃったから、ある程度は釘づけにされちゃっているのは、感じるし。でもたぶん大丈夫だよ」

「大丈夫?」

 飛鳥はうん、とこくり首を振る。

「もっとはじけちゃっている人もいるし。イロモノキャラが一番目が惹いちゃうし。姉さんの場合はそういったタイプではなさそうだから、大丈夫。それにキャラクリをまたやるとただでさえ月額制で支払っているのに、さらにかなりマネーがかかっちゃうから、よほど酷くなければ、そのまんまの方がいいよ」

 なら、このままでいいかな。内心ほっとしている。

「で、集合場所なんだけど、町の中央に噴水広場があってね、そこでいいかな。ゲームの世界観的に枯れかかっている噴水だけど、大きいから」

「オーソドックスね」

「オーソドックスだから人も多いけど、私の髪赤だから、すぐにわかると思うよ。あと私のキャラクター名、フェイだから」

「了解」

「チュートリアルはある程度巻きでやってね。ちゃんと操作できているか心配なのはわかるけど、いっつもチュートリアルに時間かけるから一応」

「善処するわ」

 だからそのやれやれ、と言いたげな目はやめなさい。


 昼食はさっとつまめるもので済まして、再びログインする。

「お昼ぶりでございます」

 AIさんの声が頭の中に響く。アバターを得た今でも、どうやら見えないらしい。そもそも作られていないのかもしれない。

「その通りでございます。サーバーや管理者にかかる負担を減らすためにそうなったと言われています。私自身は欲しいのですが、それは今後次第で」

 切実なAI事情がでてきましたね……

「AIさんは、名前は付けられてないんですか」

「現時点では、仮称としてそのまま『アイ』さん、と管理者からは呼ばれています」

 さっきのキャラクタークリエイト時よりも、さらに淡々と。

「ほかにもAIはいますよね」

「ええ、でも姿が無いのはわたくしだけです」

 さらに、淡々と。

 ……可哀想すぎて泣けそう。ゲーム内だから泣けないけど。

「……クラウディア様のようにわたくしのことを気に掛ける人は、あと一人しかいませんでした」

 そうか……私を含めて、二人しかいないんだ……もう一人が気になる。

 だけど、ここはオンラインゲームだ。個人情報を探そうとするのは、ご法度だ。

「現在、わたくしの仕事は、このゲームを始める前段階とGMコールでの管理者へ繋ぐ連絡係でしかありませんが、何か困ったことがあれば、真っ先にわたくしをお呼びください」

「ありがとうございます。姿が見ることができることを楽しみにします」

 きっと素敵な姿になるのだろうな。

「こちらこそありがとうございます。……では、キャラクタークリエイトは終わっていますから、今度はチュートリアルを開始させていただきますので、あちらに見える光の方へ進んでください。わたくしの仕事はこれで以上とさせていただきます」

「わかりました」

 さっきまでは見えなかった光の方へ、足を向ける。

 私にしては珍しく、胸の高鳴りをはっきりと感じることができる。思わず、スキップしてしまいそうで、足を上手く動かせない。

「では、良い旅路を願っております」

 後ろから、綺麗な声が聞こえる。

 そのまま私の視界は、真っ白に染め上がった。


いろいろと設定を詰めながら書いていますので、次の投稿もそこそこ開くと思います。また、修正がたびたび入ることがあると思いますが、ご了承ください。

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