9つめのお話 持ち主へ
広々とした根っこ広場。
キツネさんは森のみんなに謝りました。
みんなを危険にさらすようなことをしてごめんなさい――――と。
リスちゃんやコマドリさんは、そんなことよりもキツネさんの無事を喜びました。
クマくんもです。
「キツネさんが、今日も明日もこれからも、元気でいることが大事なんだよ。それにキツネさんは、ただ返したかっただけだよね。なにも悪くないよ。あんなことをするほうが悪いんだよ」
クマくんはいつものクマくんに戻っていましたが、表情はすっきりとしています。
「それにキツネさんのおかげで、勇気が出せたんだ。――でもね、ぼく。走ってきたはいいけど、そのあとこわくてね。どうしようか困っていたの」
根っこさんがつかまえてくれて助かったよ、というクマくん。やっぱりクマくんはクマくんでした。
「そうなんだね。それで、みんなは。どこか痛いところはない?」
キツネさんがそう聞くと、リスちゃんもコマドリさんも大丈夫という返事でした。いいえ、リスちゃんはなんだかそわそわしています。
「リスちゃん、どうかしたの? 大丈夫?」
クマくんもそう聞いてきますが、リスちゃんはキツネさんのうしろに隠れるばかりです。
「いたずらはひかえよう…………」
キツネさんはリスちゃんが、ぽつりといった言葉を聞きもらしませんでした。ニンゲンにかけよったときのクマくんの様子が、よっぽどこわかったのかもしれません。根っこも出てこないので本心なのでしょう。
キツネさんはクマくんの盾になる回数が減るようです。
「ところで~、私に用があるのではなくて~?」
コマドリさんが歌うように、本来の目的を聞きます。
「ああ、そうなんだ。コマドリさんにちょっと手伝ってほしいことがあってね」
コマドリさんを探していた理由を説明すると、こころよく引き受けてくれました。心強いことです。
キツネさん、クマくん、リスちゃん、コマドリさんはいっしょに広場をぬけ、あのひらひらがある木へ向かいました。
木には、ひらひらばさばさとしたものが、未だにひっかかっています。
リスちゃんとコマドリさんが上にあがりました。
うんしょ
よいしょ
こっちにひっぱり
あっちにひっぱり
リスちゃんとコマドリさんがせっせと動いているあいだ、キツネさんとクマくんもその様子を応援しています。
がんばれ
がんばれ
あとすこし
もうすこし
そうして、なんとかそれを地面に落とすことに成功しました。
少しよごれていますが、ふかふか具合とその存在感は失われていません。
「ありがとう! これで持ち主に返すことができるよ」
「よかったわね~。クマくんの背中にのっけて運びましょ~」
「うん、よかった、よかった。……えっ、ぼくが運ぶの?!」
「みんなで行くから平気よ。さあ、返しに行きましょ」
キツネさんは喜び。
コマドリさんはクマくんの背中にのせようとし。
クマくんは森の外へ向かうのをこわがり。
リスちゃんはコマドリさんといっしょに、それをひっぱりあげました。
みんなで、この心あたたかくなるものを返しに行こう。
道中は、コマドリさんがうつくしい声で歌いながら歩きました。
クマくんはそれを聞きながら、たまに何かをみつけてこわがり、そのつどキツネさんとリスちゃんに、ひらひらをずりあげてもらっています。
「さあ~。ここに置くと気づいてくれると思うわ~」
しょっちゅう森の周辺を飛びまわるコマドリさんが、森の外の、道が広い場所を指しました。キツネさんはクマくんの背中からそれをおろし、口にくわえて持っていきます。
広い道のはじっこに、ふわりとのせていきました。
「きっとすぐ。もうすぐさ」
そうつぶやいたキツネさん。また森へ戻っていきました。
帰りもコマドリさんのかわいい歌といっしょです。
キツネさんはとても晴れやかな顔でした。やっと返すことができたのですから。
――さりっ。
歌につられたのかニンゲンが一人、近くまでやってきました。
とぼとぼ、とぼとぼ。
悲しい気持ちをまぎらわすために、散歩をしていたのです。
ふと、顔をあげました。
それを見た彼女の目は大きくなり、急いでかけよっていきます。
不ぞろいな編み目のかげが暗くなると、それは雨も降っていないのに、ぽつりぽつりと模様がうまれました。