7つめのお話 ごめんよ……
キツネさんは走っていました。ニンゲンの兄のほうに。
そして飛びかかり、硬い『筒』をはらい落とすことに成功しました。まさか、キツネさんが逃げずに立ち向かってくるとは思わなかったのでしょう。よろめいてくれたおかげで、楽に落とせました。
となりの弟の筒も落としてしまおうと考えたキツネさんでしたが、またも鋭い鳴き声がひびきます。
「逃げて~~! 本当に危ないのよ~~!」
コマドリさんはピャロロロロと飛びあがり、せかしています。
キツネさんは、その様子にさすがに逃げることにしました。開けた広場から、外側の隠れられる木々を目指します。
「ごめんよ…………」
キツネさんは走るあいだ、ぽつりとつぶやきました。この言葉は森のみんなに向けた言葉でした。
あのひらひらを返してあげたかったからとはいえ、危険なものたちを森の中に連れてきてしまったのです。
しかも、あの二人はクマくんをねらっていました。
こわがりなクマくんがあの二人を見たら、足がすくんでしまうでしょう。そうしたら、きっとひどいことが起こってしまうにちがいありません。
自分はしでかしてしまった、だからなんとかしなければ――――。
気づいたときにはもう動いていたキツネさん。謝罪と、自身をしかりつけたい気持ちでいっぱいです。
「今度こそ…………っ」
ニンゲンの兄弟が体勢を整えて、またキツネさんにねらいをつけました。すると今度は、頭にこんっ、こんっと何かが当たります。思いのほか痛く、ねらいが定まりません。
「いたいっ! どこから…………いたっ」
弟のほうが真っ先に悲鳴をあげました。何が落ちてきたのでしょう。足元に転がったそれを見ると、なんとくるみなどの木の実でした。
「うるさいのよ。わたしたちの森から出ていって!」
それはリスちゃんが落とした、いえ真下に投げたものでした。リスちゃんは高い木の上の、長い枝の先にいて、広場の中心に近いところから木の実を落としていたのです。クマくんにいたずらするときと同じ方法なのでとても簡単でした。
「り、リスがあんなところから投げてきたっ!」
「かまうな! とにかくキツネだ!」
弟が、はるか頭上のリスちゃんに筒を向け、兄はまたキツネさんをねらっています。
もうすぐ森の中に逃げこめそうなキツネさんですが、ニンゲンの兄はもう絶対はずすものかと鼻を大きくふくらませていました。
「今度こそっ――――」
キツネさんはたどりつけないかもしれない――――。
そう思われた矢先。
――――グオオオオオオォォォォ!!!
低い低い音がひびきました。
木の根や幹や葉がゆれるほどのすさまじい音量。
それは彼らニンゲンにとっても、森の動物たちにとっても、はじめて聞く音――――『はげしい怒り』でした。