6つめのお話 根っこ広場
ニンゲンの兄弟が落ち着いてきたころ。キツネさんは相変わらずまっすぐ案内していました。
そして開けた場所にたどりついたようです。あたり一面根っこが入り組んでいる広場でした。
大きな木が周りに生えており、その木から伸びている根っこが波を打っているように見える広場です。木の上から見れば、根っこのじゅうたんに見えることでしょう。周りの木々は背が高く、広場を横から囲んでいます。枝もそれぞれ長いため、広場の中心から見ると、枝でできた高い天井のように見えるはずです。
「こ、ここは…………! や、やばいよ。キツネさん、ほかの道を歩こうよっ」
「弟よ。あわてるな、迷信に決まっている…………!!」
「でも! あの池は?! 完全にドングリを入れまいとしていたじゃないかっ」
「あれは……、あれは何かの見まちがいか、か、風がふいたんだ! そうに決まっている!」
なにやら、さわぎ出した兄弟たち。
びくびくしている弟のほうは、あの硬い筒をがっしりにぎっています。
対する兄のほうは、まるで自分にいい聞かせるようにどなっていました。
「このまままっすぐ行ったほうが、あのひらひらに近いんだよ。早く進もう」
進みつつ、この場所はこわくないということを知ってほしくて、キツネさんは説明することにしました。
「ここら一帯はね、根っこ広場。うそをつくと根っこに捕まってしまうといわれている広場なんだ。でも根っこに捕まっている姿なんて、とんと見ないよ」
――――ほら、なにもこわくないだろう?
根の部分をふみしめながら、やさしく語るキツネさん。
「そ、そうさ。こわくなんか…………」
「お、おい、やめろ。うそをつかなきゃいいだけだろ。しゃべらなきゃいいんだ。行くぞ!」
ニンゲンの兄弟はますます冷や汗をかいて、肩をいからせて進みます。
「しゃべっていても、ふつうに歩けば大丈夫さ。足元に気をつけて」
早速根っこにつま先をひっかけそうになった二人を横目に、キツネさんは軽い足どりで歩きました。なぜなら、キツネさんに限らずこの森に住むものたちは、しょっちゅうこの広場に集まるからです。歩き慣れた場所なので、足をひっかけることはありません。
足のおそいニンゲン二人を待ちながら進むキツネさん。そろそろ広場の中央くらいでしょうか。
そのとき、きれいでするどい鳴き声がひびきました。
「キツネさん気をつけて~。そのニンゲンたちの持っている筒は、と~っても危ないの~!」
「コマドリさん」
キツネさんが最初に探していたコマドリさんでした。
「その筒はものすごい音を出して、その先から石みたいなものが出てくるの~! と~っても速くて当たったら大変なの~!」
木にいるコマドリさんはキツネさんにいかに危ないものか、翼をばたばたさせて説明します。
コマドリさんの張りつめた様子に、キツネさんはうしろの兄弟をふり返りました。
「くそっ、しょうがない。クマをあきらめてキツネだ」
ニンゲンの兄が、続いて弟が、キツネさんに筒を向けました。その顔はとてもゆがんでいます。
キツネさんは走りました。
この状況を考えるまえに、気づくと飛び出していたのです。