5つめのお話 ドングリ池
キツネさんを先頭に、うしろからついてくるニンゲンの兄弟二人。
兄は眼をぎらぎらさせて、周りを常に気にしています。
弟はずっとびくびくして、何か物音がたつとすぐさま硬い筒を向けていました。
「君は、ぼくのともだちのクマくんと似ているね」
クマくんもよくびくびくしているので、弟のほうを見ていいました。
「く、クマ!? やっぱりいるのか!」
クマくんのことを聞いてなおさらこわがる弟。兄のほうはそれを聞いて、なにやらブツブツつぶやきながら硬い筒を強くにぎっています。
キツネさんは不思議に思いましたが、視線の先にとてもよい場所をみつけたので、先に案内することにしました。
「ごらんよ。ドングリ池さ。とてもきれいだろう。お願いごとをしてドングリを投げこむと願いが叶うんだ。あまりやったことがないけれど、今のぼくたちにとって必要な場所さ」
その池は緑が生いしげる中にあり、いつ見てもすきとおっています。いつもはこの森に住む動物たちが水を求めにやってくる場所です。
ニンゲンの兄弟は、その池のうつくしさに言葉が出ない様子でした。
「見てて。こうやるのさ。ドングリをとって…………」
放心している兄弟を横目に、キツネさんは足元に落ちていたドングリを拾うと、願いごとをいいました。
「枝にひっかかった『ひらひら』が、ちゃんと持ち主の元に戻りますように!」
そしてドングリをぽんっと投げます。
――――ポチャンッ。
キツネさんの投げたドングリは、頭上の虹のような形をえがいて池の中へ落ちました。
池の表面には輪が何本も広がります。投げ入れた音も、池にうかぶ輪も、池の周りにまで広がるようでした。
ニンゲンの兄弟は、その光景に息をのみます。
そんな兄弟にキツネさんはドングリを拾うようすすめると、兄弟はキツネさんから少しはなれて、ぼそぼそと願いごとをいいました。そして兄のほうが先にドングリを放り投げます。
キツネさんと同じようにぽちゃんと入るかと思われたドングリはなんと。
――――ぴちっ、ぴち、ぴちぴちぴち、っはす。
「え――――、うそだろ」
「そ、そんな……」
兄の放ったドングリは放物線をえがいたあと、水面を何回もはじいて、一直線に向かい側の草むらまで行ってしまいました。
つまり池に入ることはなかったのです。
まるで氷がはっているようでしたが、キツネさんのドングリは池に入ったので凍っているわけがありません。その様子は、池がドングリを入れさせまいとしているようでした。
「器用だねぇ」
それを見たキツネさんは、はじめて見る光景にびっくりしつつも、ニンゲンの手の器用さに感心しました。これなら、あの木に登ってもらって器用なその手ではずしてもらうということも期待できます。
キツネさんは返せる方法がたくさんみつかり嬉しそうでしたが、対するニンゲン二人は顔をこわばらせています。
キツネさんは弟のほうに「こうやって投げると入るよ」と、ぽーんと投げる動きをもう一度見せてあげました。
弟は、顔が青ざめたままドングリを高く投げます。これならば池にぽちゃんと落ちるはず、そう思われたドングリ。
――――ぴちゃっ、ちゃちゃちゃちゃっ、ぽすっ。
ドングリは同じよう動き、池に入ることはありませんでした。
水面を走るように飛びはねて、向かいの草むらへ着地します。
またも池にこばまれたドングリを見て、弟のほうが「うわぁぁ!」と叫びました。
「や、やっぱりいるんだ! おれたちはここへくるべきじゃなかった!」
「うるさい! こ、こんなの見ただけでうろたえるんじゃねえ!」
弟が興奮してさけぶと兄はどなりつけました。
「まさか君たちもおばけがいると思っているのかい。そんなものはいない…………」
「も、もうここはいい! 先に進むぞ!」
キツネさんをさえぎって、ニンゲンの兄弟はずんずんと先へ歩きます。
「やれやれ…………」
何がそんなにこわいのかわからないけれど、前には進んでくれるようです。そのままあとを追うことにしました。
そのときコマドリさんのかわいい歌声が聞こえてきました。
はずむようなリズムですが、少しあせっているようです。しかし遠い場所なので、なぜあせっているのかはわかりませんでした。
コマドリさんのことが気になりつつも、小走りでニンゲン二人に近づくキツネさん。
そしてきれいなドングリ池は、本来の水場としてひっそりと動物たちを待つのです。
1/6の夜と1/7の朝に、日間・童話ジャンルで一位をとらせてもらいました。
皆様ありがとうございました!