4つめのお話 ニンゲンの兄弟
静かな森を歩くキツネさん。
コマドリさんは、自慢の歌をひろうしていることが多いので耳をすまします。そして木の上も確認するため、顔を上にあげて探していました。
だからでしょうか。キツネさんは普段あまり歩かない道を歩いていたようです。
「この辺はあまりきたことがないなぁ。――――森の外側に近いのか」
なぜ外側だと思ったのでしょう。それは木々のあいだから見える遠くの木が、はだかんぼうだったからです。森の木々とはあきらかに見た目が異なるのでわかりました。
ひきかえして別の場所を探そう、そう思ったキツネさんの目に二人のニンゲンが見えました。キツネさんはあの木の枝にひっかかっていたものが、ニンゲンのものだと予想していたので、思い切って声をかけることにします。
がさかさっ。
キツネさんが動くことでゆれる草花。
ニンゲンのうちの一人が、重く光る筒のようなものを向けて叫びました。
「だ、だれだ…………!」
ニンゲンは、ひざをカタカタとふるわせています。彼らにとって、何かこわいものがきたと思ったのでしょうか。キツネさんは、びっくりさせたことを申し訳なく感じたので、すぐにそこから出ました。
「え、…………キツネ?」
びくびくしていたほうは、キツネさんの姿を見ても筒をさげませんでした。その様子にもう一人が、筒をつかんでさげさせます。
「おい、やめろ。――――やあキツネさん。弟がおどろかせてすまないね。少し…………、そう、少し森の中を散策したくてね」
「――――そうなのかい。もしかして、君たちがからだに巻きつけているようなものを、お探しかと思ったんだけどね」
彼ら二人は色や形が少々異なるものの、同じように首周りから肩、お尻にかけて大きな布をすっぽりかぶっていました。
あの木にひっかかったものと少し似ています。
キツネさんは彼らにそのことについて話しました。
そして彼らの持っている長い筒を使えば、下から持ち上げるなどして、枝から取れるかもしれないと考えついたのです。
「しかしその筒は、なんだか変なにおいがするけどね」
筒からのにおいは二本とも鼻につく、とうったえるキツネさん。
自分たちにはあまり感じないと、担ぐニンゲンの兄弟。
「……さあ。この『逆さ虹の森』の中にあるのだろう? 持ち帰るとしよう。案内してくれ」
キツネさんは、あれを返せるのならばと少しの不安をぬぐいさり、細かいことは気にしないよう努めることにしました。まだ気になることがあるとすれば――。
「『逆さ虹の森』? 君たちニンゲンのあいだでは、この森はそう呼ばれているのかい。不思議な呼び方をするね」
変わっているねぇと上を見るキツネさん。そこには今も、森全体を渡るように虹がかかっていました。虹はもちろん逆さではありません。
「あ、ああ。……ははは。不思議だろう? なぜか知らないけれど昔からそう呼んでいるよ」
「そうかい。まあいいや。――そんなに遠くではないよ。ついておいで」
キツネさんは森の呼び方に興味がわかなかったので、気にせず例の木に案内することにしました。
これでコマドリさんをみつけられなくても、彼らが取ってくれると期待するキツネさん。
ニンゲンの兄弟は、キツネさんの案内で森の中へと進んでいきます。通ったあとは緑がざわざわと音をたて、花がゆらいでいました。