2つめのお話 リスちゃん
――――くすくすっ。
『おばけ』ではないと安心したクマくん。そのときを見計らったように、笑い声が聞こえました。
「や、やっぱりおばけだ!」
クマくんはキツネさんの背にすばやく逃げました。
また盾にされるキツネさんですが、怒らずに笑い声がするほうへ声をかけます。
「いたずらはやめなよ、リスちゃん」
「――あら、キツネさん。こんにちは」
キツネさんのあきれた声を聞いたリスちゃんは、笑いをとめても得意げな顔のままです。
「えっ、リスちゃん? リスちゃんがやったの? ひどいよ!」
「なんのこと? クマくんが勝手にびっくりしただけなのに~」
「いーや! また、ぼくにいたずらして楽しんでいるんだ!」
こういったことは、よくあることでした。木の上からくるみを落としてクマくんの背中に当てたり、池で水を飲んでいるクマくんをうしろから大声を出しておどかしたり。前者はクマくんの毛にぽふっとのっただけなのに、「ひえ~」と叫び、後者は前のめりになって、あやうく池に落ちそうでした。
リスちゃんはいたずらが大好きなのです。
「クマくんをからかいすぎるのはよくないよ。それにしても今日は手がこんでいるね」
「あら、わたしは本当にこれを作ってないわ。この枝にひっかかっていたのをみつけて、クマくんがくるのを待っていただけなの。それにこんな大きなもの、枝にひっかけられるわけないでしょ」
小柄なからだを「ほら、ごらんなさいよ」と見せつけるリスちゃん。
確かにかかえて木を登るのは、リスちゃんでは無理そうです。
「では、どこからきたのだろうね。これは」
「そ、そもそも、これはなんなのかな?」
枝にひっかかっているものは、最初は布だと思っていました。しかしそれは、ふかふかした太い糸で編みこまれ、キツネさんくらいなら包めるような大きさで、首からすぽっとかぶれる形でした。
「近くに住むニンゲンたちが、似たようなものを身につけていたような。それじゃないかしら」
この森で暮らす彼らは、森から出たことがありません。けれど近くにニンゲンが住んでいて、いろいろなものを身につけて生活していることは、たまに遠目で見て知っていました。
「もしかしたら風にふかれて、ここまできてしまったのかもしれないね」
最近、風が強い日があったのを思い出したキツネさん。そのように予想し、さらに観察します。
すその形は少しくずれて、編み目が不ぞろいなそれ。表面に小枝や葉っぱが少しくっつき、きれいとはいいがたいです。けれど、どこかひたむきさが感じられ、必死な想いが伝わってくるようでした。
「なんだか大事なもののような、心があったかくなるようなものだね。持ち主に返してあげられないかな」
キツネさんは、なんだか大切なもののように感じたので、持ち主が困っているのではと思ったのです。