5話
「なんでだ? エスはこっちの世界のことを全く知らないんだろう? 怪しいヤツに食べられるかもしれないし、一緒に探した方が効率よくないか?」
「ヴェンに迷惑かけたくないからだよ。わたしのことなら大丈夫」
「迷惑だなんて…全然かまわないぞ?」
エスはヴェンの方を向き、ふるふると首を横に振った。
「ここはわたしがいた世界と全然違う。不安がないと言えば嘘になる。でもだからって、会ったばかりの人と共に動くことが出来るほど強くない。別にヴェンを信用してないわけじゃないの。わたしにはわからないことが多すぎるから」
一人でいると、何かあったとき、きっと犠牲は最小限に済む。そう言いたかった。
「そうか。わかった」
わかってくれたらしい。
わからないことが多いなら俺が教えてやる、とは言わない。
いや、彼女の雰囲気に圧されて言えなかった。
彼女の黒い瞳は、どこまでも真摯に、そして深く輝いていたから。
ヴェンは、直感で理解する。彼女はバケモノだ。底が知れない力を秘めている。
初めて顔を合わせた時からわかっていたが、今の会話のやりとりの間に生まれた魔力の流れで明確に理解してしまった。
全てを包む闇。世界を包むほどの力を彼女は秘めている。
ただきっと、彼女はそれを理解してない。自分にどれほどの力があるのか。
色々なバケモノを見てきたが、こんなにも可愛らしくあどけない子が一番バケモノというのが何とも複雑な心境をヴェンの中に作った。




