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31話

「じゃあ、お姉ちゃん。元気でね。迷惑かけて本当ごめんね」

 子供が頭を下げる。

 エスは、考える。

 この子供のこと。

 短いけれど、生きていたこの世界のこと。

 色々考えて、答えはわからないと出た。

 やはり、ただの暇つぶしで自分をここに拉致したとは考えがたいのだが。

 この子供は――。

「ただの、暇つぶし、だって」

 子供はウインクをした。

「……」

 本当は。

 助けてほしいんじゃないのか。

「じゃあ、さよなら。楽しかったよ」

 瞬間、エスの意識がふっと飛んだ。

 なつかしい感覚が全身を包む。

 相変わらず何も見えないけれど、安心できて、心地良い場所。忘れるはずもない自分の場所。

 変わってない。随分と留守にしてた感じだけど、変わってない。

 帰ってきた。

 帰ってくると――あそこにいた事が、まるで幻だったように感じる。

 ここは闇。

 あそこにもあったけれど、全くと言っていいほど質の違う闇だ。

 ここはなんと美しく澄んでいるのか。闇というのに、ドロドロしたものが一切ない。純粋な闇というのは、美しいのだ。

 帰ってきたよ、と言ってみる。

 反応はあった。ここにいた時、確かに自分の相手をしてくれていた意志。

 だが少しそれが弱い感じがした。

 ――何があったか、伝える。自分に何があったかを。

 楽しいことや感動、何かはっきりしないまま終わったこと。

 ……意志は常にエスの傍にいた。だから、伝えなくてもわかってくれていた。あそこの世界では、エスに意志を伝えることが出来なかったのだ。

 そうだったんだ、とエスは理解。

 あそこは光の世界。だから、だったのだ。自分の傍にいるこの意志は純粋な闇の中でしか正常に機能できないらしい。

 初めて知った真実だった、エスとしては。

 あそこにいる間はエスの傍にいるだけで精一杯。

 こちらに戻って間もない今は、少しまだ調子が悪い。だけどそれは時間が解決してくれるらしい。

 今は悠々と闇の中に浸るのが忙しいらしい。

 なんか性格変わったのか? とかエスは思う。

 まあ、いいかと切り替えて、自分も久しぶりのここでゆったりすることにする。

「……」

 意識が闇の中へ深く深く溶け込んでいった――。

 久しぶりの自分の居場所。決められた場所。

 エスは、いつも穏やかにいれたここで、眠りについた。

 しかし、いつも穏やかにいれたここで、小さく動くものを自分の中のどこかで感じていた。

 動くものはモヤモヤしたもの。

 これでいいのだろうか、と思うもの。完全に納得できてない心。

 あの子供――プティと名乗ったあの子供は、無邪気で何も考えてないように見えたが、実際は――。

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