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3話

 その日、珍しい少女と出会った青い男は、日々一振りの剣を得物にして戦いに赴いていた。

 風と水を扱う剣士。風を攻めに、場合によっては守りに。水は癒しに。この二つの属性こそ最強だと青い男ヴェンは思っている。

 最強。そう、敗北を知るまではそう思っていた。

 守れなかった。あの時、自分はたった一人の愛する女性を守れなかった。

「……」

 風は彼女を守る盾にならず、水は傷を負いすぎた彼女を癒すことができなかった。

 残ったものは、傷ついて動かなくなった彼女と、ボロボロの自分。

 風が無い。

 静かだが、強かった風は今は皆無だ。

「………」

 彼女を見つめる青い男の目は焦点が結ばれてない。

 強い意志をもつ男ヴェンの気持ちが揺れている。

 戦う時、窮地に立たされても常に、退く意思を見せなかったヴェンが、揺れている。

 それはそうだ。

 これは結果だ。もうすでに結果が出ている。

 立ち向かおうが、退こうが、動かないものだ。

 どうしても動かないのに、抗ってどうする。

 精一杯動いた結果がこれだ。

 力が及ばなかった。彼女を守る為の力が――。

 今更何を思っても仕方がない。

 しかし、なんだかよくわからない混沌としたものが頭の中を回る。

 混ざって混ざってグチャグチャなそれは、混沌という表現しか思いつかない。

「…リア……」

 震える唇からこぼれた言葉は、もう動かない愛する者の名。

 …自分の腕におさまった細い身体は、どんなに強く抱きしめても体温は上がらず、閉じた瞼を開けることもない。

 貴方は貴方にとって大事な彼女を守った。見てごらんなさい。貴方の腕の中にいる彼女の穏やかな顔を。貴方を恨んでいる気持ちなんて微塵も感じないでしょう。

 力が足りなかったから守れなかったと悲観するのは止めなさい。

 貴方はよくやった。貴方は彼女の分まで生きる。それで、それだけでいいの。悲観するのは貴方の彼女は望んでいないわ。

 どこからか、聞こえてくる温かい声。それは、彼女の中にいた女神。彼女が亡くなったことによって、解放されたのだ。

 女神は彼女を連れていく。彼女の魂を天まで連れていく。

 追うことは出来ない。生きている自分には、それは出来ない。

 そして、今追うことは、きっと彼女が許さない。

 それから間もなく、彼女の身体は淡い光に包まれて、天に昇っていく。その現象は、なんともいえない神秘的な光景。

 自分の腕の中にいたはずの彼女はいない。

 普通でなかった彼女の最後もやはり普通ではなかった。

 彼女は確かに彼女の中にいる女神に愛されていた。

 女神は優しく微笑み、彼女は女神の言うとおり、自分を恨んでいるどころか同じように笑っているように感じた。

 後ろを向くな。下も向くな。前だけを――見つめよう。自分にそう言い聞かせて、青い男は再び剣を握った。

 風が吹いた。それは確かに、自分の中で停止していた生命の鼓動の再動を感じさせる強い風だった。

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