24話
「……」
決して明るいとは言えない表情で黙り込んでしまったエス。
んー? と下から覗き込むようにエスを見ようとするヴェン。
――エスは、思わず苦笑いを浮かべた。
エスは真っ直ぐではないがヴェンを見て、
「わたしは、ここで、この世界で何をすればいいのかな」
……その言葉は、わかる者にしかわからない苦悩の言葉。
ある日、突然、自分の意思とは無関係に全く知らない世界に来て、知っている者が周りに誰もいなかったら――当然、不安だろう。
世界のことも、何も知らない状態だ。
知らない。本当に何も知らないに等しい。
何をすればいいのか。
「……」
ヴェンは、エスの漆黒の瞳を正面から見つめた。エスは、少し外れていた目を今は真っ直ぐにしていた。
風が吹いた。
風は、二人のいる場を柔らかく包み込むように優しく吹いた。
「――そうだなあ。別に、それがわからないならば、わかるまでここで生きてみればいいんじゃないか」
ヴェンは爽やかに笑ってそう言った。
生きているから悩む。
それは知性のある者なら皆同じだ。
わからないならば、わかるまで生きろ。そんな暗い顔をするな。
そういう風に言いたかった。実際は不器用な言葉でそれが出た。
しかし、ここで生きるということは、そういうことだ。
生きているということは、きっと何かが出来るということだから。
ヴェンという男はそう思っている。
「わかるまで生きる……」
エスは、その言葉を何度か繰り返してこぼした。
単純な言葉だが、エスには響いた。
ここに来たのは自分の意思ではない。
しかし、今この世界で生きているのは事実。くよくよそれを悩んでもしょうがない。一生懸命前を見よう。そう一人の男が教えてくれた。
――しかし、彼女の本質は闇。明るく前を向くというのは正反対ゆえ困難だった。




