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23話

 ――しかし、不快なものはなかった。どれも純粋で真っ直ぐで、ドロドロしたものはなかった。

 ここはなんと醜い。美しいものもあるのだが、それが霞んでしまうほど、ドロドロと澱んだものばかりだ。

 こんなところに呼んだあの子供に対して殺意のようなものがあるか、と問われても、別に何もない、と答える他ない。

 面倒くさいというだけで、そこまで不快ではない。

「……」

 あの子供を誘ってみよう。

 こちらの世界に。

 どうして、こんな世界にいるのか。それも訊いてみよう。

 ……ん。目の前に見覚えのある顔が?

「よお。久しぶりだな、お嬢ちゃん。どうした、難しい顔して」

 いつだったか顔を合わせた青を強調した男が目の前にいた。

 今日も相変わらず青い。

 よほど青が好きなのだろう。

 そして、青に愛されているのだろう。

「そんな難しい顔してたらせっかくの可愛い顔も落ちるぜ。まあ、元々がかなり上だから、大して変わんねえか。返って可愛くなるかもな」

 飄々としているところも変わらない。

 この男は――。

「ヴェン。貴方はこの世界をどう思う?」

 随分としっかりした口調になった少女を少し驚いた目で青い男は見る。

 うーんと顎を手でおさえて青い男は虚空を見つめ、

「そうだなあ。別に嫌いじゃねえな。アイツがいない世界だけど、俺は別に嫌いじゃない。この世界があったおかげで俺はアイツとも会えたわけだしな!」

 アイツ……とは誰のことだろう。虚空を見つめているとはいえ、その目は確かに真っ直ぐを向いている。

 きっとそれは、ヴェンにとってかけがえのない大切なモノ。

 自分には……ない。かけがえのないモノなんてこの世界にはない。元いた世界にもない。

 それか? 自分には何もないから。

 特別抱くものがない。

 だから、上も下もないのか、自分には。

 時々込み上げてくる――ワクワクしたものもあったけど、一瞬で冷める。

 すぐに終わらせようとかゆっくり行こうとか、もうどうでもよくなる。

 いつもトボトボと歩いていた。

「おいおい、なんでそんなに眉間がよっているんだ? 何が悩んでんのか? なんなら俺が聞いてやるぞ」

 ストッと近づいてきた青い男。

 真っ直ぐな瞳。

 不思議な雰囲気。

 初めて会った時から、不思議と思っていた。

 相手もこちらを不思議と思っていた。

 お互い不思議同士で引き合い、初めて世界で顔を合わせ、そして再び顔を合わせたのだろうか。

 ――それで、何を相談することがあるのか。

 所詮自分は、人でもない。

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