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2話


   闇の中にいた少女   2話


 少女が気付いた時、そこは今までいた場所とは世界が違った。

 見たことも感じたこともない眩しい光に、思わず大きな目を小さな手で覆った。

「――」

 ここは…? どこ?

 明らかに違う。自分がいた世界とは違う。

 わかることは一つ、ここは、自分には馴染まないところだ。

 大草原のど真ん中に、自分は仰向けになっていた。眩しかったのは、太陽の光を見たから。

 少女の名はエス・クリダン。

 エスは今までずっと闇の中にいた。

 闇の中は生まれた場所であり、生きていく場所だった。

 それに不満などもなく、心地良いとさえ思っていた。

 自分はどうしてここにいる? ここはどこ…?

 エスは戦慄を覚えていた。今も目を眩ませる太陽の光は、強力だ。太陽という名を知らぬエスは、遥か先にある太陽の力をただひたすら感じて戦慄を抑えることができなかった。

 自分にとって敵。太陽がもつ属性は敵。自分などでは一瞬で灰になる。

 敵にこれほどの力を見せつけられたなら、怯えるのは当然だ。

 なんてとんでもない…無限の力のよう――。

 エスは体の震えを両手で抑えつけて、天で神々しいとも思える輝きを放つ太陽を睨みつけた。

「ん? 太陽を見つめるのは目によくないぜ、お嬢ちゃん」

 緊張で固まりまくっていた時、飄々とした調子の声が聞こえた。

 びくっと体を振動させて、エスは声の方向を見た。見ると、声と同じような感じの若い男が立っていた。

「やれやれ。何もないないと思っていたけど、こんな珍しいもんを見れるなんてな」

 男の眼は鋭いものだったが、不吉なものは感じなかった。

 下心のようなものはなく、ただ単純に目の保養になるような良いものが見れた、という感じだった。

 だから、これが初めての人の出会いとはいえ、それほど警戒しなかった。

「誰?」

 エスは漆黒の瞳を、青を強調した格好の男に向けた。

 その色は、闇の黒しか知らなかったエスにとって、新鮮な色だった。

「俺はヴェンだ。よろしくな!」

 さわやかな笑顔で挨拶を見せてくれる若い男。

 こんな時、こちらはどうすればいいのだろう。エスは少し考えた。

 挨拶などしたことがないので…よくわからない。

「よ、よろしく」

 ぎこちない。そして、顔も固かった。

 だが、ヴェンはにっこりと笑って、

「おう、よろしく! 太陽はあまり見ないようにな。目に悪いぜ」

 …悪意は感じない。むしろ、この若い男のおかげか、自分の中にいままでなかった暖かいものが存在するのを認識する。

 よろしく…という言葉を自分の中で反芻させる。

 その言葉は初めて聞いた言葉で、自分の中で暖かく溶けていくようだった。

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