13話
獣とあの人間が今ああしている理由は知らない。
知らないという事情も同じ。
どちらか明らかに悪い方がわかればそちらをどうにかする、ということが出来るのだが――。
「……」
ならば、ただ見ておく。
見ていて、あの男がやられれば、そこまで。
別に見る必要はないのだが、目を逸らすことが出来なかった。
「くっ、この獣め! 女神よ、我に力を―」
男の剣を持つ手が淡く輝く。
それは、エス的にあまり好きじゃない輝きで、少し目が細まった。
明らかにそこの部分だけ、力が上がった。
剣が使えて魔法も使えるのだな、内面感心もして、エスは戦いを見つめ続ける。
劣勢だった男がおしている――。
…このままなら、あの男が勝つ。
剣を振るう度に、獣の低いうめき声が周辺に響く。
「……」
剣の切れ味が上がり、男の動きもよくなった。
調子に乗っている。
しかし、男の表情は真剣そのもの。それはそうだ。戦いの真っ只中。さっきまでおされていたのに、ここで余裕の笑みをもらすなどよほどのお調子者か馬鹿なのだろう。
生きるか死ぬかの瀬戸際。
――負けられない。戦いで負けるということは、死ぬことだと思え。大抵の戦う者はそういう考えだ。
獣が背を向けた。闘争心がなくなり、逃走に入ろうとしている。
「――」
逃げようとする者を男は――追わない。
そこは、それぞれだろう。
更に被害を生む可能性があるゆえに、追って始末する者もいるだろう。
逃げようとする者の命を追って絶つなど、無情だ、と思い、留まる者。
追う気力がない、など。
あの男はどれだろう。




