君と自分
あれからの授業はまるで腫れ物を扱うかのような態度だった。
だが、別に周りから敬遠されるのは今に始まったことではないし、元々ボッチだった俺にはさして影響がないとも言える。
それは、放課後になっても変わらず、そそくさと教室を出る俺に絡んでくるヤツもいなかったし、校門を出る時にも睨まれるだけで直接手を出してくるヤツはいなかった。
「ん……?」
校門から出てしばらく歩くと、電柱の影から飯島が出て来た。
コイツ、俺よりも後に教室を出たはずなのにどうやって先回りしやがった。
「……ごめんなさい」
飯島は俺に謝罪しながら、頭を下げた。
その行動に驚いていると、頭を下げた態勢のままで飯島は口を開く。
「私の軽率な行動のせいで、貴方には迷惑をかけてしまったわ……ごめんなさい」
「あ~……」
確かに、俺がコイツの行動のせいで迷惑を被ったのは間違いではないだろう。
だが、別に気にしてるわけではない。
「もう、貴方には関わらないようにするわ。だから……」
その言葉を聞いた時、俺は咄嗟に待ったを掛けていた。
別に、飯島の事が好きとかそういうわけではない。ただ、なんとなくこの現状に不満があった。
「それには及ばない。そもそも、ここで身を引いたらなんか負けた気になって嫌だしな」
「えっ……?」
「ここで、お前が身を引いて……俺たちの関係が前のように戻ったとして……それって、周りの奴らが望んだ通りになるじゃないか。そんなの、気に入らないね」
「で、でも……貴方には迷惑を……」
「迷惑? おいおい、何を勘違いしてるんだ? 俺は迷惑なんて掛かっていない。むしろ、今まで俺を認識していなかった奴らが俺を認識しているのはとても気分がいいね」
俺は、そう言って不敵に笑う。
それを唖然とした表情で見ていた飯島は、クスリと笑った。
「そう……私、知らなかったわ。貴方、結構負けず嫌いだったのね」
「知らなかったのか? 俺の中では結構有名なんだけどな?」
「それに、どこまでもひねくれているわ」
「ほっとけ」
俺は、そっと顔を背けた。
飯島はそんな俺に再度笑って、背中を向けた。
「あーあ、いろいろ考えてバカみたいだわ」
「は? いや、もっと色々考えろよ」
「嫌よ。だって……」
飯島はそこで言葉を切ってこちらを満面の笑みで振り返る。
「そんなの、私が考えている青春の手順に書いてないもの」
そう言い切る飯島に俺はため息を吐いて笑う。
「さいですか」
飯島が言う青春の手順というのがどういった物なのかはわからない。
ただ……もし、本当にそう言った手順があるとすれば是非とも俺は見てみたい。
その手順で得られる『青春』ってやつを……。
「で、結構いい話みたいな感じで終わったはずなんだけど、なんでお前はウチにいるの?」
俺は、キッチンで鼻歌交じりに料理をしている飯島をリビングからジト目で睨む。
「あら、知らなかったの? 幼馴染は朝昼晩とご飯を作ってくれる存在なのよ?」
いや、そんな幼馴染聞いたことねぇよ。
「お前は一体何からそんな幼馴染を学んだのか。てか、その幼馴染設定まだ生きていたのか」
「設定なんて……事実だわ。むしろ、事実にするわ」
「お前が真顔でそう言うと、本当にそうなりそうだからやめてくれ」
記憶の改ざんとか普通にやられそうで怖い。
嫌な顔をしている俺に「冗談よ」と笑ってから料理に戻る飯島。
俺は、半ば飯島が料理するのを諦めて明日からの学校生活について考える。
「あぁ……明日からがめんどくさそうだ」
「そのことについては、気にしなくていいわよ。もう、手を打っておいたから」
「はい? どういう事だ?」
「別に、そのままの意味よ」
飯島はそれだけ言って何も言わなくなった。
まぁ、気にしなくていいなら別にいいか。
俺はそう割り切ってTVを付けた。
場所は変わって、夜中の校長室。
そこで、神谷達の担任は校長の前に立っていた。
「それで? これはどういうことだ?」
校長が口を開くと、担任はびくりと肩を震わせる。
よく見てみると、校長の後ろには担任に背を向けて一人の男性が立っている。
「そ、それは……その……」
言いよどむ担任に向かって校長はため息を吐いて、睨みつける。
「いいかね? 我々は教育者だ。その教育者が生徒たちの暴走を止められないばかりか、それを手助けして一人の生徒を追い詰めるなどやっていい事ではないんだよ。そこのところ、わかっているのかね?」
「は、はい……わかっております」
「じゃあ、コレはどういう事か説明してくれるかね?」
校長は手元にあった書類を机に放り投げる。
そこには『本日あった問題について』と書いてあり、中には今回神谷が追い詰められた経緯などが書いてあった。
「そ、それは……その……」
担任の目は完全に泳いでおり、どうやってこの場を切り抜けるかしか考えていない事が伺えた。
「校長、もういいでしょう。そいつに反省の色は見えません」
そこで、校長の後ろに立っていた男性が言葉を発しながら振り返る。
眼鏡を掛け、高そうなスーツを着こなしたどこか威圧感のある男性だ。
「ひっ……! い、飯島社長……!!」
その顔を見て、担任は悲鳴を上げる。
「そうですか……とても残念です」
校長は、そっと目を閉じた。
「こんばんは。初めましてでいいかな? 私は飯島グループの社長をしている飯島 孝之だ。君のクラスに居る飯島 恵の父親だよ」
「は、はい……存じております」
「それは結構。まぁ、君に知られていようが知られていまいが……別にどうでもいいんだけどね。ところで君についてはこちらでも結構調べさせてもらったよ。何やら、結構黒い事をやっていたみたいだね? 例えば……そう、売春とか」
孝之の言葉に担任はビクリと大きく震える。
「黒みたいですね。校長、いいですね?」
「仕方ありません」
孝之が手を鳴らすと、校長室の扉が開いて数人のスーツを着ている男性が入ってきた。
「捕まえろ」
男性たちは頷いてから担任を押さえ込み、手錠をはめる。
「こいつは、我々が責任をもって証拠と共に警察へ連れていきます」
男性の一人がそう言ってから敬礼をし、担任と共に退出していく。
それを見送りながら、校長はため息を吐く。
「まさか、わが校にあのようなヤツが居るとは……」
「仕方ありませんよ。組織とは、必ず一人はダメなヤツがいるものです」
孝之は眼鏡を拭きながら校長に答える。
「ところで、校長……一つ聞きたい事があるのですが」
「なんでしょう?」
「神谷 正樹という生徒についてです。娘が気になっている生徒について気になりましてね」
男性はそう言って眼鏡を掛け、不敵に微笑んだ。




