菓子パンと鳥と重箱
さて、時は流れに流れて昼休みになった。
授業中・休み時間・移動教室の移動中などにもずっとクラス中から放たれていた殺意の視線をどうにか耐えた俺をほめてほしい。
ところで、学校という監獄では噂が広まるのはとても早い。
なぜこんな話をするかって?
「ほら、アイツが……」
「くそっ、なんであんな奴に……」
「コンクリートを用意するか?」
「ドラム缶も必要だな」
他のクラスや学年からも俺に殺意を浴びせようと色々な人が休み時間になるたびにウチのクラスに来ているからだ。
てか、コンクリートとかドラム缶とか物騒だな!
「はぁ……」
俺は、ため息をつきながらこの昼休みをどう過ごすかを考えている。
と、言うのも飯島からの呼び出しに素直に答えた場合、最悪な事態になる事しか想像できないからだ。
今こうして居る現在でも、俺には監視の目がついているだろう。
と、なると昼休みに俺と飯島が会っているところを目撃されて全学年に報告されるのは必然。
「いっそ、どこかに逃げるか……」
そうと決まれば、逃走経路だな……。
ここは二階だから、最悪窓から飛び降りても――。
「もし、来なかったらあることないことばら撒くわよ」
「……」
ゾッとした。
俺の近くを通った飯島が俺にしか聞こえない声量で脅してきたのだ。
だが、見くびってもらっては困る。
そんな脅しに屈する俺ではない。
「何をどうばら撒くって?」
証拠さえなければ、どうとでもなる。
「そうねぇ……」
飯島は持っていたペンを一見わざととは思えない感じで床に落とし、それを拾うためにしゃがむ。
それは、ちょうど俺の隣に位置する場所だ。
「こんなのはどうかしら?」
そして、俺にしか見えない角度でスマフォの画面を見せてくる。
「なっ……!!」
俺は、思わず目を見開き、体を少し引いてしまう。
スマフォの画面に写っていたのは一枚の写真。
俺の寝顔の写真だった!
「お、おま……そうか、俺が起きる前に……!!」
「ふふ、本当は観賞用に撮っておいたのだけれどね。そうねぇ……コレを見せながら襲われたとかはどうかしら?」
なんて恐ろしい事を思いつくヤツだ。
「そんな事をしてみろ、戦争という名の虐殺劇……この学校が主に俺の血で染まるぞ」
「ふふ、この学校の壁は白いからよく染まりそうね?」
悪女だ。
この悪女、悪魔! 魔王!!
「それが嫌だったら、ちゃんと来ることね」
飯島はそう言い残してカバンを持って教室を出ていく。
「くそっ、止まれ……!!」
飯島が居なくなってなお、俺の身体は震えていた。
やられた。警戒心が足りていなかった。
そんな後悔ばかりが俺に押し寄せてくる。
「寝顔を撮られるなんて……くそっ!」
一人、後悔していると俺のスマフォが短く震える。
「ん……?」
自慢じゃないが、俺に友達なんていない。
だから、この携帯が震える時は親父からの連絡かゲームアプリの通知くらいなのだが……。
スマフォを取り出してみると、そこには今一番使われているであろうアプリPAINからの通知。
【飯島 恵:あと3分以内に来なかった場合、噂をばら撒く】
いつの間に、俺のPAINに自分を追加した。
そもそも、どうやって俺の携帯のロックを外した。
いろいろと文句はあったが、俺はそれらを無視して一気に席から立ちあがって全力で走りだした。
「……2分40秒。まぁ、ギリギリね」
「はぁ……はぁ……」
息切れで言葉が出てこない俺は飯島を睨む事で返事をする。
「まぁまぁ、そんな怖い顔をしないで? ほら、水をあげるから」
そう言って飯島は俺にペットボトルを投げてくる。
それを受け取って、一気にあおいでから急な運動で悲鳴を上げている身体を落ち着かせ、飯島に近づく。
「それで? 俺に何の用だよ」
聞きながら、時刻を確認。
昼休み終了まで残り20分か。
ここで、昼飯を食べないと教室で昼寝をする時間がなくなると判断して、俺は教室を飛び出すときにカバンから引っ張り出してきた菓子パンを開ける。
「それは?」
飯島が菓子パンを指さしながら俺に聞いてくる。
「菓子パン。またの名を俺の昼飯」
そう答えるのと同時に飯島の右手がぶれる。
むしろ、飯島自体がぶれた。
「は……?」
そして、気づいた時には俺の手には菓子パンは無く、飯島が俺から奪い取った菓子パンを天高く投げ上げるところだった。
「ああああああああっ!!」
空高く飛んでいく菓子パンを俺は悲鳴を上げながら追いかける。
そんな俺の背後から口笛が短く聞こえる。
すると、どこからともなくデカい鳥が飛んできて俺の菓子パンを空中でキャッチし、そのまま飛んで行ってしまった。
「は?」
それは、もう本当に一瞬の出来事だった。
てか、あの鳥って鷲か?
「あら、あなたのお昼ごはんはどこかの野鳥が持って行ってしまったみたいね」
背後からそんな声が聞こえてくる。
「いや、あの鳥……あきらかにお前のペットだろ」
「さぁ? 何のことかしら?」
飯島は涼しい顔をしながら、屋上の端に移動していく。
「てか、うちの学校って屋上立ち入り禁止じゃなかったか?」
「先生に頼んだら、快くカギをくれたわよ?」
貸すとかじゃなくて、くれたのかよ。
「さて、お昼ごはんが野鳥に持っていかれてしまった可哀そうな神谷君」
「元はと言えば、お前のせいだよな? 俺、何も悪くないよな?」
「そんな可愛そうに思った才色兼備超完璧人間な私はあなたにコレをあげましょう」
そう言ってカバンからお弁当箱……という名の重箱を取り出した。
「待って。その重箱どうやって出て来た?」
「それは、企業秘密よ」
重箱をあけて並べていく飯島。
どうやら、俺がそれを食べるのは確定らしい。
「はぁ……」
ため息を吐きながら飯島の前に移動して、座る。
てか、レジャーシートなんていつの間にひきやがった。
「コレのために呼び出して俺の菓子パンを?」
「さぁ、何の事かしら? たまたま、朝起きて重箱に料理を満杯に入れたくなっただけよ」
言いながら箸をこちらに渡してくる飯島に素直じゃないと思いながらもそれを受け取る。
「あ、ちなみにコレ全部食べられなかったら噂をばら撒くから。昼休みは残り15分ね」
「いただきます!!」
俺は、その言葉を聞いた瞬間に重箱へと箸を伸ばしたのだった。




