プロローグ
人付き合いとは、本当にくだらなく面倒くさい物だ。
だが、現代社会において人付き合い無しで生きていくのはどうしても無理なのが現実だという事も自覚している。
「はぁ……」
今は亡き母は言った。
男性でも女性でもいいから、一人くらいはなんでも話せる親友を作りなさい、と。
俺をここまで男手一つで育ててくれた父親は言った。
友人を作る作らないはお前の勝手だが、居た方が人生は楽しいぞ、と。
両親の言いたい事はわかる。
だが、人には出来ることと出来ない事があるのはわかってほしい。
実際、俺はコミュ障だ。
自分から誰かに話しかけて、仲良くなるなど出来ないのだ。
てか、話しかけられても他人と話す事なんてなんて思いつかないし……。
「それでさー」
だが、それでも、人付き合いはしなければ生きていけない。
それは、会社に入ってからとかではなく学生時代からもなのだ。
「で、村田のヤツがさーって、神谷聞いてるか?」
クラスメイトの……名前なんだっけ。
あぁ、そうだ。
鈴木 俊也が俺に声を掛けてくる。
「ああ、聞いてたよ。お前が紐なしバンジーをやった話だよな。スリルありそうだよな」
「そんな話してねぇよ!? ったく、お前たまにボーっとしてる時あるよな」
こいつは、俺の友人(鈴木自称)だ。
俺としては、友人ともなんとも思っていないのだが、登校して俺が席に座るたびに速攻で話しかけてくるヤツだ。
俺以外にも友人がいるのは知っているから、わざわざ俺に話しかける必要はないんじゃないか?
「お前の話がつまらないからじゃないか?」
「ひでぇ!」
鈴木は俺に対して酷いと言っておいてゲラゲラと笑う。
酷いのか、面白いのかどっちかにしてほしい。
てか、それで笑うとかお前はドMか何かかよ。
「この際だから聞いておくけど、お前はなんで俺に毎回話しかけてくるんだよ? 俺以外にも友人がいるだろ」
俺がそう聞くと、鈴木は一瞬呆然としたがすぐに笑う。
こいつ、いっつも笑ってんな。
「何でって、お前も俺の友達だからだろ? それにほら、お前放課後はバイトとかで一緒に遊んだりしねーしな!」
友達(自称)だけどな、と心の中で呟いておく。
てか、一緒に遊ばない友人とは毎日話さないといけないのか?
それ、何条約で決まってるの?
「そうか……」
「あとほら、お前、俺以外に話すやついないだろ?」
「ぐっ……」
こいつ、痛いところを突いてくるじゃねぇか。
今のジャブは結構効いたぜ……。
「ほっとけ」
俺は、そう吐き捨てて自分のカバンから本を取り出す。
それを見た鈴木は「じゃあ、またあとでな!」と言って俺から離れていく。
俺が本を読んでいるところを邪魔されるのが嫌いだと把握しているからだろう。
コミュ力高すぎない?
「……」
俺の席は窓際一番後ろという史上最強ポジションだ。
窓からは外の景色が見えるし、授業中に本を読んでいても先生にはバレない。
「もうそろそろ、夏か……」
今は6月下旬。
梅雨も終わり、夏に向かって地球がウォーミングアップを終えた辺りだ。
すでにクーラー無しでは死ぬんじゃないかと思えるレベルで暑い日もある。
「教室にも、クーラー設置されないかなぁ」
ボッチ特有の独り言を呟きつつ、俺は文庫本に目を落とした。
ガラッと教室の入り口を開く音で俺の意識は現実に戻される。
時間としては、いつの間にか一時限目が終了して休み時間になっていた。
「ん~……」
背伸びをして、体をほぐす。
次の授業は数学で教室を移動する必要はない、か。
ならば、文庫本を読むことに再度集中しようかと思っていると、ふと視界に一人の女性が目に入った。
俺の席から右斜め前に座る黒髪ロングの顔が整った女性――飯島 恵は友人数人と楽しそうに話している。
よくもまぁ、人とそんなに喋れる物だ。
きっと、俺とは生きる世界が違うんだろうな。
そう決めつけて、俺は再度文庫本を読み進める事にした。
一瞬だけこちらに向けられた彼女の視線に気づかずに。




