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7.来訪者



 それは唐突に訪れた。目に見えずとも肌で感じるような、巨大な力の塊が近づいてきている。己よりも強者であろう存在を認識したのは我にとっても初めてであり、それが何であるのか到底想像のできるものではなかった。

 我が身に降りかかる厄災であるのか、ただこの付近を通りかかっただけのもので害はないのか。判断は出来ない。今すぐ逃げ出すべきか、しかし狙いが我であったなら、飛び立ったところで追ってくるかもしれない。

 イミコを連れて行くべきか、ここに隠れているように指示するべきかにも迷う。連れて行った場合、相手が我ごとイミコを攻撃しないとも限らない。しかしここに隠れていて、我が飛び立った後相手が我を追わず、この場を訪れてイミコに害をなさないとも限らないのだ。



(……しかたあるまい……)



 イミコの身の安全を考えるならば、彼女をどこかに隠れさせて我がここに残り、相手の意識を引くしかあるまい。いざとなれば我が戦い、その隙にイミコを逃がす。

 ここまでしてやらねば死んでしまいそうな程弱小種族の人間とは、なんと手のかかる生き物なのか。全く仕方のない奴だ。



「イミコ、今から何かが来る。お前はどこかに隠れていろ。もし危ないと思った時は直ちに逃げるのだ。よいか?」


「……クロムは、どうするの?」



 赤い瞳が不安そうに揺れる。それは我を心配している目で、龍である己がそのような感情を向けられるのは少しばかり不思議だった。今から来る者は本当に我よりも大きな力を有しているが、そんなものが早々居るはずもない。だからその心配されるという行為は、己とは無縁だと思っていたのだが。



(少しばかり、むず痒い気分だな……)



 首の後ろを前足で軽く掻き、イミコの今の不安を吹き飛ばすように本当に軽く息を吹きかけた。彼女の髪が風を受けて流れ、驚きで見開かれた赤色が良く見えるようになる。……うむ、倒れもよろめきもしなかったな。かなりうまく加減できたようだ。



「我は龍、最強の生物だ。ここに来るものと少々遊ぶだけのこと。お前は何も気にせず、時が過ぎるのを待てばよい」


「……うん、分かった」



 頷いたイミコはあたりを見回した後、家の中に入っていった。それで隠れたつもりであるらしい。このような森の中にポツリとある家、余所者が気にならぬはずがないだろうに。……本当に全く仕方のない奴だ。

 イミコの家から少し離れ、彼女と生活するために縮めていた体を元の大きさへと戻す。真っ先に目に入る我の存在を素通りし、粗末な家に突撃するものは居ないであろう。



(さて、どのような化け物が来るのか)



 力の塊はゆっくり、確実に近づいてきている。まるで人間の歩みのように鈍い速度だ。我を焦らして楽しんでいるのだとすれば、良い趣味をしている。

 それは山を越えてこちらにくるはずだ。まず姿を現すであろう山頂を睨み付けるように見ていたが、現れたものを見て拍子抜けした。

 まるで人間の歩みのようだと思ったがそれも当然であった。現れたのは人の形をしたものが二つ。どちらも我を視界に入れ、驚いているのが見える。とりあえず我に敵意のあるものではない。



(人間と……人に化けた、別の何かか)



 非常に強い力を内包しているが、人の形を持っているそれに興味がわいた。化け物と呼べる力を持つものが人の姿をとれるのなら我にもできるのかもしれない。

 ……我が人間に近い姿を、そうでなくても同じくらいの大きさになれたなら。きっとイミコにも触れられる。吹き飛ばすことも、傷つけることもなくなるかもしれない。

 来訪者にとって龍がこの場に居たことが完全に予想外であったらしく、動かない。話を聞くためにも奴らに念を飛ばす。



〔面白いものが居るな。降りて来い〕



 声は届いたのだろう。山頂で顔を見合わせた奴らはゆっくりとこちらに向かって下山を始めた。

 相手があの大きさならばこの巨大な姿で居ると話もし辛かろう。一度元に戻した体を小さくするのはとても疲れるのだが、どうせイミコと過ごすために縮める必要があるのだから、今やるか後でやるかの違いしかない。ため息を尽きつつ客が来るまでに出来る限り小さくなっておくとしよう。

 能力を使っても非常に苦労するというのに、人の姿をした何かは一体どうやってあの形をとっているのか不思議でならない。ただ、それが分かれば我はもう少しイミコに近づくことが出来るのだと思えば自然と心が躍るような…………。



(いやいや、何故我がイミコと過せることを喜ぶのか。ただの暇つぶし、関わってしまったから面倒を見ているだけだ)


 そうして我は、沸きあがりそうになる何かに蓋をした。



更新をお待たせして申し訳ない。

前作を読んでくださった方には分かる二人の登場です。

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