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本能寺の変②

いよいよ信長にとって運命の日が訪れる。しかしその相手は後世に伝えられる史実とは違う人物だった… …

本能寺敷地内の一部では、一足先に秀吉軍の先鋒隊との交戦が開始されていた。


信長は秀吉と黒田孝高の戦略につけ入る隙がないことを認識しこの時すでに覚悟を決めていたが、部下を犬死にさせる訳にはいかず、今は唯一の援軍である明智軍を待つより方法がなかった。



「成利、堺にいる徳川殿が危険である。即刻、梅雪を抹殺せよ」


「それにつきましては、先ほど忍びを使わせております」


「うむ、でかした。なればお主に頼みがある。ワシの寝室に、此度持参した名器数々があるのは知っているな」


「はっ!」


「その中から九十九髪茄子を抜いてまいれ。そしてそれを持って近衛前久殿の屋敷に向かうのだ」


「それは、この戦場から私一人逃げ出せと申しているのでありましょうか」



 成利は怪訝な顔を信長に浴びせた。



「馬鹿を申すな。逃げるのではない。九十九髪茄子を守れと言っておるのだ」


「そのご命令には従いかねます。私が守るのはお館様のみ。名器を守り、お館様を見捨てるなど論外にあります」


「ではお主は九十九髪をサルに奪われても良いと申すか。あの品は人の心を惑わす品である。良き心を持つものが使えば芸術品にもなるが、悪しき心の者に渡れば邪悪な因果を繰り広げる。戦国に生きる者が持ってはならぬ代物である。この因果はここで絶たねばならぬ。前久殿ならその意味分かってくれよう」


「し、しかし私には……」


「成利、これはワシへの最後の奉公なるぞ。しかと役目を果たせ! 頼んだぞ」



 つい先ごろ始まったと思われた戦いは守護兵の奮戦むなしく、秀吉軍は烈火のごとく境内に押し寄せ敷地内のほとんどを占拠した。陥落までそう時間はかからない。

 そのような絶体絶命の状況下、配下の忍びより「明智軍、掛川付近にて黒田長政軍により足止め」の一報が入る。近年元服したばかりの黒田孝高の嫡子・長政が明智軍と交戦しているとの報告だ。


 掛川は京の都の西側に位置する河川であり、本能寺までは通常でも半刻はかかる距離がある。本能寺は陥落寸前、もはや命運が尽きた状態だ。


 この報告に、信長も自ら名槍・日本号を手に取り意を決する。そして、その表情を見た成利は、信長に一礼すると九十九髪茄子を懐に隠し、愛刀の数珠丸を片手に戦場のど真ん中を突き抜けた。その様子を見届けた信長は敵兵に腹を槍で突かれつつも最後の力を振り絞り、



「サル、この信長の最後の言葉をしかと聞けい。お主ごときが九十九髪を手に入れようとは分不相応じゃ。この品は、この信長が死への旅路に連れて参るわっ!」



と、言い放つと直後、そのまま奥間に引き下がった。



 その後の戦況は多勢に無勢。本能寺は内部から火の手が上がりはじめると、瞬く間に炎は広がり本殿全体を覆い尽くした。

 羽柴秀吉軍は本能寺に炎が広がるとすぐに本能寺包囲網を解き近郊に撤退。黒田長政軍も明智軍との交戦を中止し一目散に撤退していく。まさに電光石火の撤退術だ。この撤退術を不信に感じながらも一刻の猶予もない明智軍は、急ぎ信長が待つ本能寺に向う。しかし時すでに遅し。本能寺は既に焼失していたのだった。


 さすがの光秀もこの有様を目の当たりにすると、秀吉という人物に対し恐怖と脅威を感じずにはいられなかった。「次は、私の番か」と、光秀はつぶやいた。恐らく秀吉は、この事実を知るものを全て消しにかかるに違いない。「次の手は既に打っていよう……」と、半端あきらめにも似た感情が光秀の中から込みあげた。


 夜明けが近付くと、秀吉軍が再び本能寺へ引き返してきた。



「逆賊・明智光秀をひっとらえよっ!」



 秀吉は鼓舞し、その場に居合わせた明智光秀に罪を擦り付けた。光秀は命からがらその場を撤退するが、黒田孝高らの戦略の前についに天王山にて追撃され、その生涯を閉じたのだった。


つづく


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