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接待④

黒幕のあぶり出しに成功した信長。ここまでは全て光秀のシナリオ通りだった… …

その甲斐もあってか、信長と離れた徳川家康以下一行が上洛観光中に穴山梅雪がまんまとぼろを出し、阪本城で出陣支度中の明智光秀に密書をしたためた。当然内容は『信長包囲網』への誘いである。


全国統一も間近に迫りつつある織田家に、今なお反旗を翻す者達が暗躍しているのだ。首謀者は朝廷であることは間違いなく、そのため信長は再三に渡って正親町天皇に譲位を迫っていたのだが、のらりくらりとかわされているのが現実である。ただ譲位自体は本当の目的ではなかった。


朝廷自体に織田軍を打ち破る力があるはずもなく、例え譲位が成功したとしても問題の解決にならないことくらいは明白だ。信長の真の狙いは、裏で糸を牽く『真の黒幕』を引きずり出すことだった。


 穴山梅雪が餌に食いついたことを知った信長は、成利に次の手を尋ねた。



「徳川殿と穴山殿の接待をこのまましばらく続けられるよう、明智殿より事付かっております」


「梅雪をしばらく泳がすというのであるな」


「左様にございます。元々目的は真の黒幕を引きずり出すこと。梅雪などという小物はいつでも処分できます」


「して、光秀は以後どうすると?」


「阪本城で軍備を整えた後、丹波の亀山城に立ち寄り、さらに増兵するとのことであります」


「その準備にどの程度かかりそうであるか」


「早くとも十日はかかりましょう」


「すると出陣予定は六月三日頃か。それから備中高松城まで行くとなると、ワシの到着予定は六月中旬といったところであるな。光秀の支度が整うまで、こちらも半月ほど時間稼ぎをせねばならぬな。それまで徳川殿一行、穴山梅雪の滞在をいかにして引きのばすかだ」


「堺にでも足を伸ばさせればよかろう」



ここで二人の会話に突然割って入ってきたのは近衛前久だった。前久は成利から事の次第を聞いており、光秀解任の演出も成り行きを見守っていた一人だった。



「堺の遊覧ともなれば一行も喜ばれよう。それに穴山殿にも怪しまれずに済むというものだ。いざとなればその場で穴山殿を仕留めることもできるであろう」


「なるほど。一考に値するな。して、前久殿はこの後どうされる予定であるか」


「京の館に戻るつもりよ。少し外遊し過ぎておるのでな。あまり京を空け過ぎるのも良くなかろう」


「三ヶ月も我らに付き添っていた者が吐く言葉ではないな。しかし新たな包囲網が形成されつつある今、貴公の身の上も心配である」


「うむ、麿の入洛を待ち望んでいるものがいるとも限らぬな。自分の館に戻るのも命がけになりそうだ」


「なればワシも同行しよう。貴公の館近くに位置する本能寺にでも世話になろう」


「それは心強い護衛であるな。だが信長殿、本能寺とはいささか軽薄過ぎはしまいか。貴殿はいつ襲われてもおかしくはない身の上、二条城にでも入ればよかろう」


「貴公は知らぬのか。本能寺はああ見えて陸の城塞。守りも攻めにも適した寺である。心配無用である」


「ならば安心いたした。では貴殿の入洛が怪しまれぬよう、本能寺で公家や僧侶を交えた茶会でも催すという口実を付けくわえてはどうだろうか」


「妙案であるな。敵方も公家らが列席する茶会の席を荒らすことはすまい。光秀の支度が整うまで何かしら催しを続けるとしよう」


「奥方はどうされるおつもりか」


「知っての通り、光秀を恫喝したと勘違いし城を出て行ってしまったわ。恐らく今は美濃の禅幢寺におるであろう」


「禅幢寺? 何故にそのようなところに……」


「竹中重治の墓所があるからよ。来月六月十三日は重治の命日。その三回忌を迎えるに当たり、もともと帰蝶を使わす予定であったのだ。それが此度の件で多少早まったまで。まぁ、此度の件が済むまで禅幢寺で大人しくしていてもらうとしよう」



こうして信長は五月二十九日、「戦陣の用意をして待機、命あり次第出陣せよ」と留守居衆に命じると、前久を護衛する僅かな小姓衆のみを連れて安土城を出発した。

この時信長は、茶会の他に多々時間稼ぎの催しを考案しており、三十数点にも及ぶ名器を持参。中にはあの九十九髪茄子の姿もあった。


つづく


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