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接待③

徳川一行の設宴の席で信長から罵倒を受けた光秀。その真意は… …

 実は今回の接待には、駿河拝領の御礼と対武田戦勝祝いという二つの理由以外に『密告者の洗い出し』という側面が含まれていたのだ。

 その決定的な証拠を掴むべく信長は小姓の森成利に命じ、怪しげな行動をとる家臣の身辺調査をしていたのだが、それに引っかかったのが穴山梅雪だったのだ。

 しかし梅雪も慎重であり、なかなか尻尾を掴ませない。そこで長期に渡る接待の場を設け、心が緩んだところで相手の失策を引き出そうという魂胆に出たのである。だがこの策も決定的な決め手に欠けており、信長もどうしたものか考えあぐねていたのである。



「梅雪の件もさることながら、先ほど到着したサルからの早馬の方が急務であるぞ」


「どのような内容でしょうか」


「備中高松城を包囲し、あと一歩で城主・清水宗治を追い込めそうだとのことだ」


「それは吉報でございますな」


「追い込んだ方法は『水攻め』であるがな」


「水攻めとは、古代中国で実践された城を水没させるという… …」


「うむ」


「何たることを! 兵糧攻めならまだしも、水攻めなど武士の風上にも置けぬ愚策。敵に一矢報いる機会も与えずに一網打尽に溺死させるだけではなく、高松城周辺の田畑を開墾し直すことも難しい。新たにその土地を治めようとも、人心は二度と織田家にはなびきませぬ。誰の策でありましょうや」


「参謀は黒田孝高とあるな。功を焦っての戦術か、はたまた例の一件で人格が破綻したかであるな」


「例の一件とは、有岡城での荒木村重による幽閉生活ですな。どれほどの地獄を味わったのか某しには及びもつきませぬが… …。確かに戦術が冷酷になり始めたのも、あの後だったような気がします」


「噂では人を信じなくなったとも言われておる。かつては単なる賭博士の類であったが、解放されて以降の戦い方は、確実に相手を仕留めることに執着しているようにも感じてならぬ。恐ろしい男に成長しおったわ」


「ところで、そこまで清水宗治を追い込んでいる秀吉殿から急務とは何でありましょうや」


「そうであったな。あと一歩で陥落させられそうなので援軍をよこせとのことである」


「それは否ことでありますな。何故にこの期に及んで援軍など」


「やはりそう思うか。ワシに花を持たせようという策略ではないと感じてはおる。だとすると備中に布陣したところで毛利との共闘による強襲を練っているのか。その場合、出陣せねば済む話ではあるがな」


「それはできますまい。高松城が落ちるということは毛利に後はなし。即時に和平交渉に移りまする。その場にお館様がいるといないとでは、所領受け渡しの駆け引きに大きな影響が生じます。現在毛利の所領は備中、美作、伯耆、備後、出雲、安芸、周防、長門の八ヶ国。高松城の陥落後、某しでも備中、美作、伯耆の三ヶ国の割譲を条件に優位に交渉を進めることはできましょう。しかし備後と出雲にまで交渉の手を広げるのは至難の業。お館様の威厳が必要不可欠に存じます。お館様が出陣しないという選択肢は、この場合ないものと感じます」


「なるほど。ワシに拒否権を行使させぬとは、これは黒田の戦略であるかな」


「いえ、石田三成あたりでありましょう。相手の逃げ道を全て塞ぐ手法は、彼の者のお家芸。大した知恵者でございます。逆にそれが彼の者の器の限界でもありましょうが」


「冷酷すぎる賭博士崩れの黒田孝高に、完璧すぎる知恵者の石田三成であるか。その者どもを従えたサルはなかなかの男と言えるな」


「左様でありまするな」


「となると出陣はやむなしであるか。あとはいつ出立するか、誰を連れて参るかがカギであるな」


「はいその出陣時期と同行者こそが問題であります。時期と兵力さえ分かれば、備前布陣の前に待ち伏せも可能。山陽道は一本道でありますからな」


「梅雪の尾尻を掴む前に一波乱おこりそうであるな」


「それにございますが、穴山殿の真偽を見極めつつ、遠征の時期と兵力を告げぬ方法がひとつだけございまする。」


「言うてみよ」


「某しが備中に一足早く出向くのでございます」


「それは意味がなきことよ。サルはお主の部隊を受け入れぬであろう。追い返されるだけである」


「いえ、秀吉の配下として配属する下知をくだされ。さすれば秀吉も受け入れざるを得ますまい」


「馬鹿者! 一国の国主を配下になどできるか。やつが益々増長するだけである」


「なれば丹波の国主の座を一時解いてくだされ。さすれば配下入りに秀吉も違和感を感じますまい」


「むむ… …光秀、貴様なんという男よ。それほどまでに自己犠牲を強いるとは… …天晴なり」


「まだであります。もう一つやらねばならぬことが残ってます。穴山殿の真偽を確かめるため、お館様に一芝居打ってもらいたいのであります」


「芝居… …じゃと」


「はい、某しを皆の前で罵倒くだされ。もし穴山殿が逆賊であったならば、某しがお館様に二心が芽生えたと察し向こうから近づいてくるはずでありましょう」



 光秀は宴の席における計略を信長に進言した。信長は初めは首を横に振り反対の意を示したが、光秀の決意は固く「一案として考慮する」とその場を収めた。

 しかし派兵決断の時は刻々と迫っている。信長はいたたまれぬ思いながらも、光秀の計略に賛同。先の演出に至ったのである。


つづく


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