表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/48

姫路城内の裏計略①

秀吉の野望を叶える石田三成と黒田孝高(官兵衛)が表舞台に参上。その時信長は… …

天海は織田家の一武将に過ぎなかった秀吉が国持ち大名に上り詰めた出世物語を一通り語り終えたところで一息入れ、深海の差し出した白湯に口を付けた。


これを見た養華院は、天海のしばしの休憩を阿吽の呼吸により話を引き継いだ。



「信長様は、分かっておいでだったのですよ」



養華院はつぶやいた。それはとても優しい口調だったが、同時に意味深長な内容も含ませていた。



「何がですか?」

と深海は首を傾げた。



「秀吉の治領を浅井長政が亡き後の北近江としたのは、信長様と重治の策略だったのです。岐阜からほど近い北近江ならば秀吉の動向を常に把握できますし、悪知恵も謀略も労しにくいというもの。全ては動きを封じる為の処置です。そして石田三成の知能の高さや人物観察能力などは、黒田孝高の例でも容易に推測できました。秀吉一人であれば重治だけでも抑えつけられますが、ここに三成も加わってしまうと、さすがに監視しにくいというもの。普段であれば怖いもの知らずの信長様であろうとも、彼らを遠く離れた播磨の国へ派遣させるのは危険極まりないと感じたのでしょう。この当時の織田家は周囲全てを敵に囲まれていた状況でしたからね。諍いの種は未然に防ぐのが寛容だったのです。そして信長様は黒田孝高という人物にも一目置きました。正直なところ知略、策略の面では重治にも光秀にも遠く足元にも及びませぬし、さらに加えると三成よりも格下でしょう。しかし度胸と行動力、先見性においてはその者達と同等、場合によってはそれ以上の器と感じ取ったのです。秀吉とは関わらせたくはなかったでしょうね」


「しかし養華院殿、結論からすると黒田孝高は秀吉の部下になっております。それほど警戒なさっていたにも関わらず信長公が二人を引き合わせなければならなかった理由とは何だったのでしょうか」


「そうですね、信長様にとって特別引き合わせなければならなかった理由はありませんよ。問題は光秀にあったのです。黒田孝高の要請により姫路城へは光秀の派遣を決めていた信長様でしたが、派遣直前に光秀殿が病に倒れてしまいました。まぁ無理もありません。彼は義昭公が上洛の意志を固めてから約十年近く外交と戦に明け暮れ、一刻たりとも休んだことがなかったのですからね。病は長期間に及びましたが、命に関わるような病気ではありませんでした。しかし彼よりも重い負担が掛かっていた人物が近くに居たのです。光秀の奥方が同時期に病に倒れ、そのまま還らぬ人になりました。光秀にとっては自分が死ぬよりも辛かったことでしょう。病が治った後も直ぐに立ち直ることができませんでした。天正四年は光秀にとって、本当の意味で厄年になったのです。信長様もこのような状態の光秀に新たな任務を与える訳にはいかず、結果的に秀吉が中国攻めの総大将として姫路城に迎えられることになったのです」


「それは意外な話ですね。信長公といったら任務遂行できない者は、非道にも捨て去る印象が強いのですが… …。明らかに危険を感じる秀吉と黒田を引き合わせることになっても、家臣の心中を案ずるとは、思っていた人物像とは齟齬を感じます」


「深海殿、信長様は家族の問題に関しては人一倍敏感な方だったのですよ。そう、あれは安土城が完成した後、家臣団やそれに付き添う足軽の者達が安土城下の町に移住した時のことです。初めは男衆だけの単身赴任でしたが、その状況を目にした信長様はどうされたと思いますか?」


「はてさて、信長公のやられることなので想像つきませぬ」


「安土城の築城指揮官だった丹羽長秀に激怒したのです。『夫婦を別居させるとは何事か! 足軽の家族も連れてこい』と、ね。そしてすぐに足軽の家族に至るまでの安土城下への移住が開始されました。信長様は夫婦が離れて暮らすことが許せなかったのです。なにせ普段から家臣の夫婦間に問題が起こると、自ら仲裁に乗り出すほどお優しい方でしたから。ただそんなお節介な信長様の行動で安土城下には二つの利点が生まれたのです。ひとつはいきり立った男たちによる諍い事がなくなったこと、もう一つは子供の声も響き渡るようになり、明るく賑やかな町になったことです。もし家族共々の移住がなければ犯罪が横行し、町の発展もなかったでしょうね」



その後、養華院はまるで目の前に安土の城下が広がっているかのような遠い目をし、当時の安土の街並みをにこやかに回想した。それは安土城を知らない深海にもその情景が伝わってくるほど鮮明に、そして音や臭いさえも再現されてくるようだった。それほど養華院の安土に対する想いはの深さは強く、さらに愛着さえ感じられるようだった。



「ただ… …」



突如養華院は眉間にしわを寄せむつかしい顔になった。



つづく


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ