4 雪鬼の誓い
「雪鬼の誓い」
鈍く光る銀色の刃は、
悉くを刈り取っていった。
何も持たないはずの私の元に
唯一残っていた二文字の力さえも。
身体の感覚が弱い。
力が、入らない。
腕をあげることも、
足を前に出すことも、
目を動かすだけのことであっても、
酷く億劫になってしまった。
操り糸を失った人形みたいに
長い間転がっていると、
床に這っていた身体が
何かの声を拾った。
それは亡者の声であった。
抵抗することを放棄した身体は、
その全てを受け入れた。
止まっていた血が流れることを思い出した。
心の臓が鼓動する。
叫び声に突き動かされ、
身体が細かく痙攣していた。
力が、肉体の力が戻った。
精神の力は均衡を崩したままだが、
別に構わない。
仮初の力に、今は身を委ねてみよう。
近くに在ったナイフを手に取り、
のびた髪をバサリと切り落とす。
「私」はきちんと死んだ。
しかし、新しく産み落とされた。
そして、転がっていた木片を二つ使って、
十字の楔を生みだした。
産み落とされた私の命は、
その全てを、彼等の弔いの為に。
私は、身体にも同じように、
十字を刻みつけた。
自身の存在を、
痛みで縛りつけた。