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maverick-マーヴェリック-  作者: 流星の瞳
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第4話 First match-初戦 前編-

 市立北鷲谷中学校

 ──鷲谷市の街の中心から北に位置する場所にあるから北鷲谷中学校。なんのひねりもない名前である。

 元々はそこそこの人数が在学する学校だったらしいが、時代の流れには逆らえず、俗に言う少子高齢化の煽りを受けて六年前に街の中心に位置する鷲谷中学校と合併。廃校となった。


 ──そして棗が一週間前、斗真に拉致されていた場所でもある。


 そんなもう使われる予定もなく、かと言ってお金の都合がつかず取り壊されるわけでもないこの学校の校庭で、棗は一人の能力者と対峙していた。


 ──そう、今日は斗真に言われていた蓮との戦いの日である。



 ☆-☆-☆



「ふぅ……」


 棗はゆっくりと息を吐く。そうやって呼吸を整えながら棗はゆっくりと構えた。

 そして数メートル先にいる少女を見る。


「はぁ……だるい。ねぇ、降参してくれない? ぶっちゃけ早く帰りたいんだよね」


 棗とは対照的に気だるげに自分と年齢が変わらなさそうな少女はそう言った。

 風見 桃かざみ もも──そう出会った時にその少女は蓮に紹介されていた。

 どうやら蓮に無理やり連れてこられたらしく(それを言ったら棗もだが)、明らかにやる気がなかった。


「別にそっちが降伏してもいいんですよ?」


 そんな気だるげな口調に対し、棗はそんな軽口を叩く。割と余裕がある様子で。

 ──実は前日の土曜日、斗真に少し特訓されて、能力者の対策を聞いていた。だから、それを実践するいい機会だろうとか軽く考えてたし、負けても死ぬわけではないので楽しんでやろうと思っていた。

 だから軽口はそんな余裕の表れともいえた。

 そんな軽口に対し、桃は『はぁ……』と再びため息をつきながら、右手をゆっくりと挙げた。

 『降参でもするんのかな?』そう、その挙げた手の意図がわからなかった棗は呑気に考える。

 ぶっちゃけその考えはいささか甘いとしか言いようがなかった。

 そして、棗自身もその事を身に染みて感じさせられる事になる。


 桃は棗に降参の合図かと呑気に間違えられた空高く挙げた右手をブンッと大きく振り下ろす。

 棗はその行為の意味がすぐには分からなかった。というよりは考える時間がなかったのだ。

 なぜなら──


 桃がその手を振り下ろした直後、ほとんど間を置かずに棗の体は宙を舞っていたからだ。


『はぁっ!?』


 宙を待った棗の体はそんな声すら上げる暇なく運動場に落下。落下の衝撃に呻きつつ、ゴロゴロと無様に転がる。


「ん……あ……いってぇ……」


 呻き、悪態をつきつつ、棗はゆっくりと立ち上がる。


「これであなたの負けかしら?」

「あいにくだったな……俺はこれくらいで降参しねぇよ」


 先ほどの痛みによってからか口調は普段の荒れたものになっていたが桃は特に気にしなかったのか、はたまた無視したのかそのまま話しかけてくる。

 その声は棗が吹っ飛ばされたせいで距離が出来てしまい少し聞こえにくい。


「ふーん……普通に痛そうだったけど……」

「痛そうもなにもお前がやったんだろうが……さっきはちょっと油断してただけだ。今から本気出すから覚悟しとけ」


 そう言いつつ棗は再び構える。

 その手には西洋の騎士の甲冑の腕だけ持ち出したような篭手が装着されていた。

 この前の月曜日から少し訓練はしており、これくらいはある程度自由にできる。


『ふぅーん、そんな能力なんだ』


 なんて桃は思う。能力者が相手の能力の読みあいをするのは対戦の基本である。

 しかし変わらずその気だるげにだらりとした姿勢は変えない。

 なぜなら桃の予想が正しければ、棗は近接系。遠距離まで攻撃できる桃の能力との相性は悪いからだ。さらに先ほど吹っ飛ばしたので桃と棗の距離は離れており状況はさらに桃が有利になっている。

 もちろん棗もそんなこと既に学んでいる。自分の置かれている状況が不利だということも。だから、桃が相変わらず戦闘する気のなさそうな姿に見えても油断などしなかった。むしろ先ほどの失敗がある分、さらに警戒する。

 そんな棗の心中を知ってか知らずか、再び桃は手を挙げると振り下ろす。

 それが攻撃するのに必要な予備動作なのだろうと、流石に棗にも既に予想できていた。

 しかしその攻撃は一切見えない。そんな見えない攻撃を躱すのは難しいと判断。防御する為にその防具付きの両腕でクロスするように構えた。

 直後に腕に衝撃が走る。棗は力を込めて耐える。

 少し耐えると風が通り抜けたような感触がして衝撃が急に軽くなる。

 少しその衝撃に押され後退していたがなんとか耐えることができていた。


「大したことなさそうだな」

「そう? 動けてないどころかむしろ今の攻撃でさらに下がってるわよ」

「いや……お前の能力がなんとなく予想ついたかもしれない」

「……」


 桃の顔から余裕が消え、真顔になった。

 少なくとも棗にはそのように見えた。

 棗は少し脚に力を込める。ここからが棗にとって反撃開始である。

 現在、棗と桃の距離は約二十メートル離れている。もともとはそこまで二人の距離は離れていなかったが、吹っ飛ばされたせいで結構な距離が出来てしまった。

 それだけの距離が離れても攻撃できる桃と違い、棗の攻撃は基本体術に頼るため、自分の腕と足の長さ=攻撃可能な範囲と言って過言ではない。

 まずはその距離を詰めること。それが棗にとって反撃する為に最重要課題だった。


「……」

「……」


 棗は無言でゆっくりと身体の重心を下げ、さらに脚に力を込めていく。

 対する桃はそんな様子をただ見ている。

 両者一言も話さない。ただ、この空間だけ音がなくなってしまったようだ。

 しかしそんな空気が、空間がどちらももうお遊びな気分ではなく次は本気で行くと言葉にして話す以上に雄弁に物語っていた。


「!」


 棗は一気に飛び出す。

 対する桃もその瞬間腕を一気に振り上げた。


 ──そして再び棗の体は吹っ飛んだ。


『まじかよ! 腕を振り下ろした時が能力の発動条件じゃねぇのかよ!』


 心の中で悪態をつきながら、今度は綺麗に受身をとると、すぐ起き上がり再び一気に走り出す。

 既にどちらも本気である。考えてる暇はない。


 二人の距離、約二十七メートル。


 桃が一気に手を振り下ろす。

 棗はその動作を見るとほとんど反射的に体を横に捻る。

 その瞬間、猛烈な空気の塊が横を吹き抜ける。


『やっぱ、結局はただの風じゃねぇか!』


 そう心で愚痴りつつも棗はそのまま走り続ける。


 二人の距離、約二十メートル。


 『やばい!』そう桃は思った。自分の攻撃を初めてかわされて一気に余裕がなくなる。

 例え能力に気づいても見えない攻撃はかわせないだろう。そんな自信がどこかにあったのは事実だ。そしてその自信が崩されていま余裕がないのもまた事実。

 迫ってくる棗を見ながら左腕を振るいもう一撃繰り出す。

 ──あっさりと回避される。焦る桃にはそのように見える。

 もう距離的にあともう一撃しか出せないだろう。棗は確実に迫ってきている。

 『次こそは決める』桃はそう決意すると少し目を閉じ両腕に魔力を貯め始める。

 次は最大出力でいってやるつもりである。


 二人の距離、約十二メートル。


 『やべぇ……』棗も桃と同じように焦っていた。

 さっき桃の腕から飛ばされた第二波。桃から余裕でかわされたように見られていたが、実のところかなりギリギリである。

 棗が近づけば近づくほど、それだけ攻撃してからこちらに届くまでの時間も短くなる為当たり前である。

 と言っても普段なら些細な差である。一秒も変わらない。しかしその些細な差が戦闘においては少なくともさっきよりかわしにくいと感じさせられる程度には効果があった。

 たぶんあと桃は攻撃できて一回のはずだ。そう予想を立てる。

 しかし既に二人の距離は十メートルを切っている。あの速さの攻撃をその距離でかわす暇などあるだろうか、いやない。

『なら一か八かであらかじめ攻撃を出す直前を予想して飛ぶ』

 そう棗は決意すると走り続ける足にさらに力を入れた。


 二人の距離、約五メートル。


『くらえ!』

 桃の両腕がしなる。瞬間的に二つの風刃が腕から放たれた。

『さっきと違って当たったら切れるかもしれないけど許してね』

 目には見えないけれど、風刃がまっすぐ飛ぶのが桃にはわかる。最低限真っ二つに切断しない程度には抑えたとはいえ、桃の残り魔力を考えるとこれが限界にして最高の一撃だった。


 しかし、その風刃は何かに当たる事はなかった。


「えっ!?」


 思わず驚きの声が漏れた。

 棗は桃が攻撃する前に大きく右に飛んでいたからだ。桃が攻撃を繰り出す直前でもう修正もできない時。そんなギリギリの時間を狙って飛ばれていた。

 実は数ある能力の中でもかなり速い部類に入る桃の風の攻撃。しかしそんな攻撃も攻撃する前にかわされていたら意味がなかった。

 棗はラストスパートと言わんばかりに一気に距離を詰めてくる。

 しかし、桃は動けなかった。否、動けなかった。

 そんな桃に対し棗は勝ったと言わんばかりの表情を浮かべながら能力で武装された手で殴りかかった──


 二人の距離、零メートル。


「……!」

「俺の勝ちでいいよな?」


 棗の拳は桃の顔の目の前で止まっていた。文字通り目の前で。

 桃はそれを見るとへなへなと座り込む。どうやら腰が抜けたらしい。

 棗はそれで勝ちを再確認すると大きくガッツポーズした。


「よっしゃぁ! 勝った!」


 勝った。その事実だけが、棗の今の心を満たす。

 そうやって喜びに数十秒ほど浸ったときだろうか、ふと前日の斗真の言葉を思い出した。


「あっ……そういやまだもうひと仕事あったな」


 誰にも聞こえないくらいにそう呟くと、突然棗は再び走り始める。


 ──斗真と蓮が戦ってるであろう校舎の裏にある裏山へ向かって……



 ──Continued to Part──後編へ続く

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