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maverick-マーヴェリック-  作者: 流星の瞳
2/8

第2話 Proposal-提案-


「──うーん……」

 頭の片隅に残る頭痛を振り払うように頭を振りながら棗はゆっくりと上半身を起こした。

 ゆっくりと周りを見渡すと片隅に机と椅子が積み上げられているのが見えた。反対側には黒板がある。

 空気は少し埃っぽい。

「ここは……どこかの教室?」

「正解。まぁ、正確には廃教室だけどね」

「!?」

 急いで声のした方向を振り向く。

 そこにはあの青年が居た。

 見た瞬間にほとんど条件反射で体が動く。飛び上がるように立ち上がり、すぐにでも逃げれるように身構える。

 緊張からか心臓が激しく動き、体を突き破って出てくるのではという錯覚さえ覚える。

 ある意味、棗のこの対応は当たり前である。なにしろ先程いきなり棗を能力者だと言い当ててきた挙句、逃げたら追いかけてきて気絶させられた。そして気づいたらこんな空間に二人きりである。誰がどう見てもこの目の前の青年が全ての原因であることは言うまでもない。

 じりじりと棗の足が後ろへと下がり始める。


「大丈夫、大丈夫。そんなに怖がらなくても殺したりしないよ。だってぶっちゃけ殺すならもう既に殺せたし。それにただ殺すだけでこんなに手の込んだ事はしないから」


 それに気づいたのか大丈夫、大丈夫と言わんばかりに青年は手を振りながらこう言った。

 誰のせいで一生に一度レベルのこんな怖い目に合ってると……というかサラッと殺すとか生々しい単語が……

 そうやって心の中でツッコミつつも棗は意外にもそうやってツッコめる冷静な自分の精神状態に驚いていた。


「……ふぅ。なら目的はなんですか? 特に俺を殺したいとかじゃないんですよね」


 棗を殺す気がないなら少し勇気を出してこちらから質問させてもらう事にする。

 ここで気になるのはやはりこの青年の目的である。

 わざわざこんな手の込んだことをしたからには何かしらの理由があるのだろう。

 するとその青年は答えた。


「それは棗に提案があってな」

「提案?」


 提案という意外な答えに少し驚く棗。

 しかしその提案の内容は棗の予想を斜め上に超えさらに棗を驚かすものだった。



「あぁ、俺の弟子にならないか? 如月 棗」



 そう青年は、また棗のフルネームをよびながら、今日一緒にお茶でもどう? くらいの気安さで言った。


「は……?」


 棗が能力者と言い当てられた時ほどではないが、一瞬場が凍ったよんな感じがした。緊張や恐怖ではなく、驚きや呆れなどによって。

『いや……何言ってんの? この人……』っていうのが棗の正直な感想である。


「ん? 聞こえなかった? だから俺の弟子になれって言ってんの!! わかる?」

「いや、ちゃんと聞こえてますから……繰り返さなくて大丈夫です」


 ヤバい……展開に付いていけない。というか一見こちらにもあちらにも何のメリットも感じられない。

 あれだろうか? 弟子……というか手下にでもして征服欲でも満たしたいのだろうか?

 なんて棗は再び混乱し始めた頭で考える。


「えっと……なんで弟子にしたいんですか?」


 まぁ、とりあえずこちらを襲うつもりは今の所無いみたいだし疑問は聞いてみるのが一番か……なんて思いつつ棗は質問する。


「いや、だって棗は能力者だろ? なら俺の弟子になるべきだろ。つまりそういう事だ」


 すぐに返答は返ってくる。しかし棗の望んだような理由のある答えになっておらず余計に困惑する。というかこれが答えになっているのかも怪しい。

 そんな事を思ったらもちろんこんな答えでは理解できないだろうと青年も思ったのか青年は言葉を続ける。


「今のは冗談だ。ならこちらから一つ質問いいか? 棗?」


 この際、ずっと呼び捨てで呼ばれているがそれは気にすまい。そう思いながらどんな質問が来てもいいように心構えをしておく。またいきなり能力者であることとか当てられても心臓に悪い。


「棗はさぁ……まだ能力者になってから日が浅いよね? 俺の予想だと長くても三ヵ月以内だと思うんだけど」

「!! ……確かにまだ一ヵ月くらいですけど」

「あっ。やっぱり!!」


 青年は予想が当たったのがわりと嬉しかったのか、この答えを聞くとふっふっふっと笑いながら嬉しそうな顔をする。

 棗からしたら、能力者であることだけでなく能力者になった時期まで言い当てられて、ただただ不気味なだけである。普段なら気持ちのいいと感じるような爽やかな笑顔なのかもしれないがこの状況なので不気味さが際立っていた。


「まぁまぁ、そんなに驚かなくても棗も能力に慣れてきたらわかるよ。で、弟子になるメリットだけど、現在能力者が社会的に置かれてる状況って分かってる?」

「いや、まぁ、それは分かりますけど……社会にバレたらまともな人生が送れなくなりますよね」

「そう、正解!! 能力者は現在、非能力者……つまり一般人からしたら化け物、宇宙人、潜在的犯罪者とかまぁ、散々なレッテルを貼られている」


 能力者に対する社会の風当たりについては棗もよく知っている。というか棗自身がついこの前まで一般人であり、能力者は怖い人、犯罪者くらいの認識だった。なにしろ一日に流れるニュースの犯罪の半分以上は能力者によるものであったからだ。まだ能力者について対して知識もない過去の棗や一般人からしたら潜在的犯罪者などの評価はむしろ当然とも言えた。

 そんな中、青年は話を続ける。


「そこでだ!! 俺はそんな能力者なりたてほやほやのお前に、そんな社会で生き抜く術を教えてやろうってこと。もちろん対能力者用の戦闘の仕方とか立ち回りとかも教えれる。どう? ぶっちゃけかなりいい話だと個人的には思ってるんだけど」


 確かにまだ能力者として右も左も分からないような状態の棗からしたら願ってもいない話ではあった。能力者は未だに謎が多くネットなどで調べても情報がバラバラであり正確な情報が分からないためだ。そんななか、手取り足取り教えてくれると言うのはありがたい。


『ん? けどそれって──』


「確かにいい話だとは思いますけど、そちらにメリットが感じられません。別に無償奉仕してくれるってわけでもないんでしょう?」


 棗はそのままふと思ったことを口にした。ぶっちゃけわざわざ棗を拉致したりと危険を冒している以上そちらにもメリットはあるはずである。


「そりゃあもちろんあるよ? いやさぁ、俺に能力者の友達が一人いるんだけど、仲間は良いぞ、作るべき。って五月蝿いんだよねぇ……実際、仲間っていると色々と便利だと思うし……」

「……えっと……つまりその……仲間になれと……」

「そゆこと」


 棗はこちらのメリットが仲間になること、という再び斜め上の答えに少し驚いた。が、問に対する答えを聞けば聞くほど、次から次に疑問は出てくるので再び質問させてもらう事にする。


「いや……なんで俺なんです? 別にもっと強い人とか頼りになる人もいたんじゃないですか?」

「いや、いない」


 即答だった。

『つまりぼっちですか……』危うく口からそんな台詞が出かけたが、思っただけに必死にとどめておく。

 普通に話せているとはいえ、こちらは拉致された立場なのである。今置かれている立場を忘れてはいけない。

 どうやら青年はまだ続きがあったのか再び口を開く。


「いや、一応ちゃんとした理由はあるんだけどね。強いやつって裏切られると怖いからさ。安心した瞬間に背中からざっくり切られたらそれこそ強いやつだった分、咄嗟に対応できなかったら命取り。その点棗くらいなら──」

「余裕で反撃可能だと……」

「まぁ、そういうこと。もちろんはじめは足でまといにもなるだろうけどそこら辺はこちらだって理解した上で弟子にする訳だし、棗が強くなるころには普通にしっかりした絆もあるだろうからな」


 ほうほう、まぁ、だいたいはそちらが言いたいことも理解した。確かにこちらにはかなりうまい話だと言うことも。

  ──けれど、それでも……そちらの申し出を受けるかどうかというと躊躇してしまう。

 そう棗は悩む。確かにうまい話だけどその話を持ちかけてきた方は、棗を現在拉致してこんな場所に閉じ込めている犯人である。そんな人物の言うことを易々と聞いて良いのか。それにこの青年の言う事は一応理にはかなっている。しかし逆を言えばそれだけである。能力者なりたてだから弟子にして仲間にしたいとということは裏を返せば代わりはいくらでもいるということ。たまたま棗が偶然目をつけられただけである。それにこの青年自身はこっちが裏切ることを想定した話もしていたが、逆に青年がこちらを裏切った場合、こちらには為す術がない。そういろいろ考えてしまうと余計に悩み込んでしまった。


「……で? どう? 弟子……いや仲間になる気はある?」


 青年はこちらに結論を求めてくる。

 この問いに対する返答次第では棗の運命は180度変わってしまうかもしれない。そんな問に対して棗は悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで、考え込んだ結果──



「────はい」



 そう答えた。

 もちろん先程の悩んでいたように、心配事はいくらでもある。しかしそれでも自身が能力者なのに何も理解していない棗に手取り足取り教えてくれるというのは非常にありがたいし、何より少しこの青年を信じてみようかな、そう少しだけど思ってしまった。だからこのように答えた。後悔はしていない。

 その答えを効くと目の前の青年は非常に嬉しそうに顔をほころばせた。


「そうか!! ならこれからよろしくな、如月 棗」


 そう言いながら握手しようと手を伸ばしてくる。


「あぁ、よろしくお願いします。えっと……」

「真境名 斗真まきな とうまだ、よろしく」

「はい、改めてよろしくお願いします!! 斗真さん」


 そう言いながら棗は斗真の手をしっかりと握った。

  少なくともその手のぬくもりは化け物の手と呼ぶにはあまりにも温かった。





  ──棗と斗真。この二人の出会いをキッカケに世界を震撼させるような戦いが起きるのだがそれはまだ先のことである。


ここまで読んでいただきありがとうございます

既にハーメルンである程度書いていたのでまだ投稿します

あとがきはそれをすべて投稿するまでもう無いかな?

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