あざとく見つめて企んで
「ごめんね まだできないの」
ドアの隙間に 声投げる
許しを乞う PM8:00
スイッチ押した 指先を
見つめて 気だるく
息こぼす
要領が悪いの
忘れっぽい
おっちょこちょいで
今日も 遅い
肝心の主食は 炊き忘れ
夕飯 まだ できないよ
それでも やがて 届いてくる
「待ってるよ」
って
貴方の声
文句も言わない 優しいね
貴方はとっても 優しいね
「ごめんね 電話がきちゃったの」
ドアの隙間に 声投げる
許しを乞う PM9:00
できた、と音で 知らせてる
だけどまだ 開けられない
見つめて 苛立ち
息を吐く
要領悪いの
忘れっぽい
今夜の電話も
忘れてた
ほかほかの主食 できたけど
まだ 持っていけないよ
それでも また 届いてくる
「ゆっくりでいいよ」
って
貴方の声
急かしもしない 優しいね
ううん 貴方は 優し過ぎ
だから いいように使われるのよ?
昨日も奢らされたでしょう?
あれ やっていいの
私だけ
あんたたちは 言わないで
電話終えて 蓋開けて
白く上がる湯気が 熱気が
むくれた顔に
容赦なく
「ごめんね 遅くなっちゃって」
ドアの隙間を 開いてく
許しを乞う PM10:00
やっと揃った テーブルの上
見つめて うんざり
息漏らす
貴方の向こうへ
飛ばす 視線
上向きの針 見て
また うんざり
容赦悪いの
ちんたらと
所要時間が
2時間 って
何とかご飯 できたけど
これじゃあもう 夜食でしょ
だけど言うの 貴方は言う
「待つのは嫌いじゃない」
なんて
平気な顔して そんなこと
嘘ばっかり 知ってるよ
行列の店 行きたがらない
待つくらいなら ファミレスでいいって
いつかそう 言ったよね?
なのに 私には
そう言うの?
許してくれる 優しいね
誰にでもそう?
違うよね
わかってる? 貴方
優し過ぎ
だからこんな女に 捕まるのよ?
昨日もこんなだったでしょう?
要領悪いの
忘れっぽい
焼き過ぎ 置き過ぎ
焦がれ過ぎ
スパイス かけ過ぎ
ダシ 忘れ
じゃがいも 硬過ぎ
箸折れた
あの伝説 まだ覚えてる?
砂糖おにぎりに 塩コーヒー
クッキー焼いたら ナンになり
チョコレートで胃もたれとか
漫画だけだと思ってたでしょう?
それでも 許して 付き合って
貴方は優しい
優しいね
微睡む横顔 見つめながら
「ごめんね まだ寝れないの」
って
許しを乞う 今 0:00
優しい微笑み 見せ付けて
立ち去ろうとする私に 伸びた手が
きゅっ と掴んで 引き止めて
「駄目」
ああ
それは駄目なのね
振り向く私は 笑ってしまう
要領悪いのも 不器用なのも
私の方だっていうのに
この時間 今だけは
貴方の方が 頼りない
優しい だけど
甘えん坊
こんなの誰にも 見せないで
「すぐに行くよ」
「待っていて」
許しを乞う私に
むくれる貴方が
「あざとい」
だって
可愛いの
だけど私も 譲らない
眠るのは貴方
私は後よ
洗いたての髪 撫でて
寝顔見つめる 満足に
眠くなるまで こうしてる
この時間が 今が
…好き
要領悪いの
忘れっぽい
その上 我儘
意地っ張り
それでも待ってくれる
許してくれる
歩調合わせてくれるの
知ってるの
貴方は優しい
優しいね
私はあざとい
あざといね
惚れた弱みを ちゃっかりと
惚れさせた責任に すり替えた
無防備な寝顔 独り占め
企んでいるの 微笑みの下
私はずるいね
ずるいよね
貴方は優しい
優し過ぎ
それからちょっぴり
お馬鹿さん
だからいいように 愛されるのよ
「おやすみ」
さぁ おやすみなさい
待つのは嫌いじゃないからね