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第88階層 値段がつけられないお土産

涼「気さくなのはともかく、ノーライフキングだから近寄りがたい」


 ダンジョンタウンの開拓者で、本当の意味で唯一無二のダンジョンマスター、小野田さんとの会話は思ったよりも盛り上がった。

 というのも、小野田さんはここにあるダンジョンコアでダンジョンタウン全体の情報に、ダンジョンマスター達の運営具合も知ることができるそうだ。

 ここにはザラーヌさんがいるし、他所の情報を漏らさないという決まりを作った張本人だけに、詳細についての話題は無し。

 だけど、色々と面白い事をやらかしているな、とは言われた。


「いやあ、こうして似たような時代から来た同郷の者と喋れるのは楽しいな。忘れかけていた向こうでの日々を、思い出してきたよ」


 骸骨だから表情は無いけど、声色で楽しんでいるのが分かる。


「さてと、楽しい時間だがそろそろ区切りをつけないとな。息子さんもおねむのようだし」


 おねむと言われて横を見ると、ゼルグは口を半開きにしてぐっすり寝ていた。

 なんだかここへ来た用事よりも、小野田さんとの会話の時間の方が圧倒的に多かったな。


「長々とお邪魔しました」

「いやいや、こちらこそお構いできなくてすまない」


 帰りは来た時と同じで浮遊板に乗って上へ昇っていく。

 全員が浮遊板に乗り、小野田さんと魔物達に見送られて帰ろうとしたら、その寸前で小野田さんが待ったを掛け、紐で肋骨に結んでいる複数の収納袋を一つ外して差し出してきた。

 なんつう所に結んでいるんですか、あなたは。


「大した物ではないが、お土産だ。是非、読んでくれ」


 読んでくれ、ということは本か?

 受け取った収納袋の中には何冊もの本があり、その中から適当に一冊を取り出す。

 ボロボロになっている上に出来の悪い紙で強引に作ったのか、見た目は悪い。

 でも表紙には異世界ダンジョン生活日記と、凄く興味をそそられる題名がこっちの言葉で書かれている。


「どこが大した物じゃないんですか!」

「うろ覚えの知識で作った不出来な紙を無駄にしたくないのと、ちょっとした暇つぶしで書いた物だから、大した物じゃないさ」


 そんな事はないだろう。

 内容次第では、ダンジョンタウンで語られている歴史がひっくり返る可能性がある。

 それを分かっているからか、エリアスは口を開けたまま固まっているし、ザラーヌさんも目を見開いて固まっている。

 値段がつけられないとか、学術的に貴重な物っていうのはこういうのを指すんだろうな。


「でも、どうしてこれを俺に?」

「君と話をして、私が過ごしてきた日々を誰かに知ってほしいと思ったのだよ。本当に大したことは書いてないが、私が何を思ってどう過ごしてきたかを知ってくれ」


 つまりダンジョンタウンの住人達じゃなくて、俺個人に知ってもらいたいのか。

 まあ内容がなんであれ、こんなものを無暗に広げる訳にはいかないよな。


「分かりました。大事に読みます」

「そこまで大事にする代物じゃないさ。いらなくなったら、捨てるなり燃やすなり好きにしたまえ」

「「「いやいやいや!」」」


 思わずエリアスとザラーヌさんと声が合ってしまった。

 だってこんな貴重な物を捨てるとか燃やすなんて、勿体ないって。


「ではな。私はこれからもここで、君達の行く末とダンジョン運営を面白おかしく見続けていくよ」


 最後の最後でちょっと台無しになったと思いつつ、日記入りの収納袋を大事に持って浮遊板での移動を開始する。

 空を飛べる魔物に見送られながら、来た時と同じ手順で部屋に戻ると一気に疲れた。

 時間にすれば大したことないのかもしれないけど、内容が濃すぎだって。

 ダンジョンタウンの秘密、亜人誕生の秘密、それらを成し遂げた真のダンジョンマスターの存在、そしてその人は遠い昔に転移してきた日本からの異世界人。

 しかもお土産が直筆の日記ときた。


「ところで、どうしてザラーヌさんはあの場所と小野田さんのことを、ご存知なんですか?」

「あの場所とあの方の存在は、歴代のダンジョンキングによって受け継がれてきたのよ。先代のキングから受け継いだ時は、相当驚いたわ」


 だからあのスーツ男も、ゼルグが生まれたらダンジョンキングを尋ねろって言ったのか。

 元ダンジョンキングとしてあの場所のことを、そして小野田さんの存在を知っていたから。


「おそらくはゼルグ君のような子が生まれた時に備えて、誰かしらに伝えておきたかったんでしょうね」


 暴走の事を考えてそうしたってことか。

 でも俺は、もう一つ理由があると思う。


「それから、誰かしらに自分の存在を覚えていてほしかったんじゃないかな?」


 あの人は寂しいって理由で亜人達を生み出した。

 ダンジョン運営で人間を多く殺めてながらも、孤独には耐えられなかった。

 それなのにわざわざダンジョンタウンを作ってまで、自分一人残して亜人達をそこへ移住させた理由は、受け取った日記の中にあるんだろう。

 でも結局、孤独になるのが嫌だった。

 だからあの魔道具を自分の下に置いて、自分の存在をダンジョンキングにだけ伝わるようにして、誰かしらが存在を覚えているようにしたんじゃないかな。


「そして今回の俺との会話で、自分が過ごして来た日々の気持ちも覚えていてもらいたくなった。という所でしょう」


 でなかったら、わざわざ日記を託すなんてことはしないだろう。


「存在を覚えていて欲しかった、か。永遠に生きる道を選んだあの方には、とても大事なことなんでしょうね」


 ザラーヌさんの意見に賛成だ。

 その辺の詳しい心情も日記に書いてあれば、是非読んでみたい。


「じゃあ俺達はそろそろ……」

「ああ、そうね。エリアとの境までは馬車を手配してあるから、それに乗って行くといいわ」


 好意は嬉しいけど、馬車の振動って何気に尻と腰に響くんだよな。

 そうだ、そんな振動から現実逃避するために馬車の中で日記を読もう。

 うん、ナイスアイディア!



 ****



 最後にザラーヌさんと握手をして別れ、馬車に揺られること数分。

 馬車に酔って凄く気持ちが悪くなった。

 揺れる馬車の中で日記を読むなんて、酔えと言っているようなものじゃないか。

 気づいた時にはもう結構キツくて、すぐさま日記を閉じて横になった。


「大丈夫ですか?」

「……今はまだ、なんとか」


 後々どうなるか分からないから、早く到着してほしいと思いながら馬車に揺られる。

 そうしてようやく到着した頃には、もう吐き気は結構ギリギリだった。

 いや本当に、もう数分乗っていたら確実にリバースしていた。


「お待たせしました。第五エリアとの境に到着……どうしました?」

「なんでもありません、ちょっと気分が悪いだけです」


 休んでいってもいいとは言われたけど、自業自得だから断って馬車から降りる。

 ああ、なんか地面に立てるのが嬉しい。

 揺れていないって素晴らしい。


「よし、少しだけ回復した。帰ろう、エリアス」

「はい。ですがゆっくり行きましょう。まだ足元が、少しフラついてますよ」

「そうしてもらえると助かる」


 はい、そうです。強がっています。馬車から降りてすぐに回復するはずがありません。

 嫁の前でいいカッコをしたかっただけです。


「それでは、失礼します」

「ご案内、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ」


 案内をしてくれた猫人族の女性と挨拶を交わし、手続きをして第五エリアへ戻る。

 やばい、マジで足取りがフラフラだ。


「あなた、夕食はどうされますか?」


 夕食か……。

 正直言うと馬車酔いで食欲無いんだよな。


「気分がイマイチだからいい。その代わり、夜食用におにぎりを作っておいてくれ。夜勤の時に食べるから」

「かしこまりました。卵スープも作っておくので、温めて食べてください」


 温かい卵スープか、いいなあ。

 本当なら味噌汁って言いたいところだけど、まだオバさんが味噌を完成させていないから無理だ。

 それに胃がちょっと辛い時は、卵スープぐらいがちょうどいい。

 さすがは自慢の嫁だ、良い気遣いに頭が下がる。


「よろしく頼む」


 そうして馬車酔いが醒めないまま帰宅したものの、顔色が良くないと心配された。

 大丈夫だと伝えているところで、留守中の報告に来たイーリアがゼルグの両手の紋様が消えていることに気づく。

 理由を尋ねられても契約で喋れないから、ザラーヌさんがダンジョンキングにだけ伝わる秘密の手段で消してくれたと伝えておいた。

 どうしてそんな事をしたのか聞かれても、答えられないとしか言いようがない。


「悪いが詳細は言えない。本当に秘密の手段で、契約魔法を交わしたほどなんだ。言えるのは、そうしないとならない理由があったからということくらいだ」


 消さないと暴走を起こしてダンジョンタウンが崩壊、だなんてとても言えない。


「そうですか。分かりました、これ以上は聞きません。では、留守中の報告をしてもよろしいでしょうか?」

「よろしく頼む」


 エリアスとゼルグは部屋に返し、長々と行われる報告の山。

 だけど大きな異常は起きておらず、せいぜい強めの侵入者が合体魔物やパンプキンレプナントにより倒され、そいつの仲間数人が売却用の牢屋へ送られたぐらいだ。

 解析で調べたらスキルは高いし回収した装備品も相当な物だから、これは高く売れそうだ。


「ちなみにお目当ての女冒険者が死亡したので、リンクス君があのようにいじけています」


 部屋の片隅で膝を抱えてキノコでも生やしそうな空気を出しているのは、そういう理由だったのか。

 ユーリットが頑張って慰めようとしているけど、全く反応が無い。

 ここはラビアさん帰ってきたら、彼女に慰めてもらえるよう頼んでみよう。


「それとこちらは、昨日入手した品と冒険者を売却した際の明細です。本日入手した物の見積もりは、こちらになります」


 はいはい、どれどれ……。

 うん、今日の収入は昨日出した見積もりとほぼ同じか。

 明日の収入になりそうな額も、こんなものだろう。


「分かった。いつも通り、グラフとかには?」

「アッテムさんが記入済みです。後ほど確認をお願いします。それと……その……こちらを」


 なんか申し訳なさそうに差し出された数枚の書類。

 そういう風にされると、見るのが怖いんだが。


「どれどれ……。……これを提出したのは先生だな」

「はい」


 書類そのものは問題無い。

 どうやらこれは新しい魔物の案のようで、こういった物があれば出すようには言っていた。

 でも先生のだっていうのはすぐに分かる。

 だって題名が、私の考える最強のアンデッド魔物案、だから。

 どうか内容はまともな物であることを祈りながら、内容を確認するため書類を捲る。


「……あれ? 意外とまともだ」

「そうなんですか? 題名からして、なんだか恐ろしい気がして見ていないのですが」


 題名に関しては同意する。

 でも内容は本当にまともなんだ。

 何故かやたら骨を組み合わせて作る、かつてのスカルウルベロスやボーンベアタウロスのような魔物を押しているのは気になるけど、その点以外はよく考えられている。

 あらゆる魔物の骨を組み合わせ、まるでゲームのラスボスのような外見が図説入りで書かれている。

 ていうか先生、絵上手いな。

 本当に化学教師か、あの人は。

 久々に先生に対して感心しながら書類を読み進めていくと、最後に書かれていた後書きのような一文で気分が台無しになった。



 向こうにいた頃にハマっていた、ファンタジー系ラノベに出てきたモンスターを参考にしたよ。



 最後の最後に締まらないな、あの人は……。

 まあ、ハリセンするほどじゃないからスルーしておくか。


「それで、どうなんですか? その魔物の案は」

「採用に値する案件だ。後で保管してある魔物の骨のリストを調べておこう」


 発想の基はともかく、内容はしっかりしているから採用。

 強さが想定通りならフロアリーダー級として扱えそうだし、できるだけ早めに実現したい。

 でも今日はもう休みたいから、早くても明日だな。

 何の骨を、というよりもどれぐらいの量を保管してあるかが重要だな。

 夜勤中に調べておいて、足りなければ発案者の先生をと話し合おう。


「ただいま戻りました。あら? リンクス君どうしたの?」


 おっと、ラビアさんが仕事から持って来たか。

 早速リンクスを慰めてもらうよう頼んでおこう。

 帰宅早々に悪いと思いつつ頼んで慰めもらうと、割とあっさり復活した。

 さり気なく胸に顔を埋めているのを、ちょっとだけ羨ましいとは思っていないからな、思っていないからな!


「ダンジョンに関する報告は、これくらいですかね」

「ネーナとローウィの体調は?」

「問題ありません。ローウィさんが動きたいと文句を言っているくらいですね」


 妊婦組は問題無しと。

 ローウィが動きたいと騒ぐ点に関しては、腹にいる子供を盾に動きを止めよう。

 せっかくの子供を流産する気かと。

 何度も訪ねて来るほど母親に出産を心配されている事もあり、そう言えばローウィは必ず大人しくなる。

 他には何も無いかな?


「農業組からの連絡は?」

「届いていませんので、特に緊急性の用事は無いのだと思います」


 それは何よりだ。

 これで報告は全てのようで、解放された俺は夕食は無しで夜勤まで休むと告げて自室へ。

 部屋の中にいたエリアスからゼルグを受け取り、眠るまでの少しの間だけ面倒を見てエリアスには休んでもらう。

 そうしてゼルグの面倒を見た後は、夜勤に備えて眠りにつく。

 小野田さんの日記を読んだのは、夜勤中に魔物の骨を調べた後になってからだった。

 エリアスが作ってくれたおにぎりと卵スープを食べながら読むそれには、いくつもの予想外のことが書かれていた。


(あの人がアンデッドになったのって、自分が生み出した亜人達の未来を見続けたいからなのか)


 日記には亜人達の未来が心配で心配で仕方なく、生み出した者の責務だと自分に言い訳してアンデッドになったとある。


(しかもダンジョンタウンを作ったのが、亜人達の親離れのためって……)


 寂しさから亜人を生み出し、順調に繁殖をして相当な人数に増えた頃。

 既に死霊魔法で自分をアンデッド化していた小野田さんは、いつまでも自分を頼る亜人達を自立させるため、ダンジョンタウンを作ると決めたようだ。

 わざわざ通貨を作ったり法律の骨格を作ったりと、うろ覚えの知識で思考錯誤した経緯が書かれている。

 ただ、あの子達だけに任せて大丈夫か、経済の循環は上手くいくか、そういった心配する気持ちと寂しい気持ちも結構書いてある。


(ダンジョンタウンにあるコアは、全て小野田さんのコアから生み出されているのか)


 ダンジョンに必須のコアは、各エリアのダンジョンギルドに預けた魔道具を通して小野田さんが生み出しているらしい。

 ギルドには新しいダンジョンを作るに相応しい時期が来たら、自動でコアを生み出す道具と伝えていたようだけど、実際は小野田さんが陰ながらコントロールしていたのか。

 あまりたくさん作り過ぎて地上が混乱しないよう、配慮したんだそうな。


(なんだかんだで、見守ってくれているんだな)


 自分の生み出した亜人の子孫達にほとんどを任せた割に、こういうところではしっかり世話を焼いている。

 実際に話してみて良い人だったし、どうか俺の子孫達もこれまで通りに見守っていてほしい。

 そのためにも、どこに出しても恥ずかしくない子を育てないとな。


(というか、この日記の半分が寂しさからの愚痴を書いているような……)


 ……うん、細かい事は気にしないでおこう。

 さあ、続きだ続き。


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