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第6階層~第7階層 内定者の就職事情と混ざりっ子

涼「あの日の裏側」


 ボクは迷っていた。普段通りの服を着て面接に行くべきか否か。

 同じインキュバスの父さんの血を引き、インキュバスとして生まれたボクは当然ながら男だ。

 けれど着ている服は女の子のそれ。

 昔から可愛い服が好きで、外見のこともあり似合うと騒ぐ姉さん達や母さん達はそんな服ばかりボクにくれた。

 インキュバスやサキュバスは所構わず性欲をさらけ出さないよう、理性や自制心が強い。

 でもその分、性癖や嗜好にはおおらかだから、止め役になるべき父さんもボクの趣味を当たり前のように受け入れて笑っていた。

 今思えば、周りもボクがインキュバスだから、そういう性癖の子なのだと受け止めていたんだろうね。


(いいんだ、ボクは女の子の格好をしていても)


 誰も何も言わないから当時のボクはのめり込み、服まで自分で作るようになった。

 完成した服を家族に見せると誰もが可愛いと言ってくれるから、さらにのめり込んだ。

 そんなボクでも、父さんが経営しているの奴隷専門の風俗店を手伝っている。

 ボクがやることになったのはインキュバスの特性を活かし、女性奴隷の教育を行う事。

 ある程度の歳になると父さんから教えを受け、知り合いだという女性で訓練を何度か積んでから、教育という名の調教を担当するようになった。

 最初は反抗的な人間が多いけど、女の子の格好をしたボクが顔を出すと、ほとんどの人がちょっと安心した表情をした。


『女の子が奴隷教育をしてくれるのなら、少しは安心できるわね』


 でもボクはインキュバスだから、目の前の女性奴隷を抱いていいと分かると色々と漲ってきた。

 そういう行為については色々と教わっていたし、普通のやり方から変わった趣向のやり方まで訓練は積んでいる。

 だからボクは、容赦なくその女性奴隷に押し倒してボクが穿いているスカートを捲って、真実を突きつけてあげた。途端に青ざめた表情になったその女性奴隷を教育していたら、なんだか凄く興奮して歓喜に震えていた。


(凄く、イイッ!)


 ゾクゾクと背中に走る感覚と、奴隷契約でほとんどの自由の利かない女性奴隷を半ば強引に教育するというシチュエーション。

 それが堪らなくボクを刺激して高ぶらせた。

 けれどこの感覚は、お風呂で別の女性奴隷を教育していた時じゃ、何故かあまり感じなかった。

 何故だろうと思いつつ次の女性奴隷を教育していると、さっきの教育の時とは比べ物にならないくらい興奮できた。

 これでようやくボクは気付けた。


(そうか、女の子の格好で教育すればいいんだ)


 そうと分かればもう簡単だった。

 お風呂での教育からは外してもらうように頼んで、服を着たままでの教育をさせてもらう。

 あらゆる知識を仕入れて色々な道具も使わせてもらって、高ぶる気持ちのままに教育する日々を送る。

 そうやって様々な教育をしてきたお陰か、いつの間にか奴隷用の調教スキルを身に着けていた。

 このスキルの援護もあって、前よりも速いペースで教育が進められ、一日辺りの教育する人数も増えた。

 その甲斐もあって父さんからもらえるお金も増えたから、また新しい服を作ってはそれで女性奴隷を教育した。



 ある日、ボクは父さんに呼ばれて普段はあまり入らない事務室へ向かった。

 待っていた父さんから聞かされたのは、ボクの今後の事だった。


『お前はこのまま、うちで働くのか?』


 つい先日に成人になったから、いつでも家を出て独立することができる。

 でも改めて考えてみると、独立してどうしよう。

 ウチと同じような所で教育係をしようかとも考えたけど、それでいいのかとも思えた。

 気持ちは高ぶるし教育してあげるのはとても楽しい。

 けれど、この気持ちはインキュバスとしての本能が働いているからだ。だってそういう種族だし。

 かと言って、いつの間にか習得していた裁縫スキルで服飾関係の仕事に就くも考えものだった。

 ボクは自分が着るような可愛い服を作るのが好きだけど、自分が着もしないような服を作る気はこれっぽっちも無いから。

 それにボクの作る服は可愛いけど独特過ぎて、一般向けはしないって姉さん達に言われたし。

 だからって、このまま家も継がずにズルズルと生きていくのも嫌だ。


『なにか仕事を探してみるよ』

『分かった』


 家の方は姉さんとその旦那さん、義姉さん達がいるから別に問題無い。

 という訳でボクはボクで仕事を探すことにしたけど、いざとなったらウチと同じ店を頼ろうっと。

 調教スキルのあるインキュバスなら、この業界で引く手数多だからね。

 そう思って仕事探しをしているうちに、なんでこんなに就職意欲が低いのか分かってきた。

 インキュバスやサキュバスは、性欲を持て余さなければ生きていけるからだ。

 それに気づいてちょっと虚しくなったその日、友達からある話を聞いた。

 異世界からダンジョンマスターになる人間が来て、昨日から人材を募集しているっていう話を。

 途端にボクの中で、あらゆる服装の記憶が蘇る。

 今日着ているキモノっていう服や、極一部の職業の人が着ていてボクも作ったメイド服、どちらも異世界の知識で作られた服だ。


(ひょっとしたら、新しい服の案が聞けるかも)


 ダンジョンタウンに伝わっている異世界の服って、あんまり種類が多くないからとても気になる。

 あっ、上手くいけば捕まえた冒険者達から地上の衣服の事も聞けるかも!

 おまけにボクには奴隷用の調教スキルがあるから、買ってきたり捕まえたりした奴隷を教育することもできるから、採用される可能性は高いと見ていい。

 上手くいけば、一人か二人ボクがもらえるかも……。おっと、自重しなくちゃ。

 湧き出そうだった性欲を押さえながら応募して、無事に書類選考は突破した。

 そして面接当日の朝、冒頭に戻ってボクは迷っていた。


「いずれバレるんだし、最初からこっちを着て行こうかな。それとも、せめて最初くらいは普通でいくか……」


 普通って、アレ? ボクにとっての普通って普段から来ている女の子向けの服だよね。

 だったら迷うことないよね。持っている中でも一番気合いの入る服を着て行こう。


「ようこそ、どうぞこちらへ」


 案内係のお姉さんに通された部屋には誰もいなくて、ボクが最初だった。

 しかも面接は来た順って言うからボクが一番手になってしまった。

 正直、ここにきて本当にこの格好で良かったのか、なんだか不安になってきた。

 同じく面接を受けに来た人はどんどん増えていくし、緊張感は高まってくるし、今更ながら動機が不純じゃないかって思えてくるし。

 頭の中がぐるぐるしてきて心臓が必要以上に高鳴って視界が捻じ曲がりそうで呼吸が早くなって喉が乾いて。

 もう自分がどういう精神状態なのかも分からない!


「それでは最初の方、どうぞ」


 遂に始まっちゃったよ、どうしようどうしよう。

 とにかく返事をして部屋に入らなきゃ、始まらない!

 意を決して部屋に入ると、そこには確かに人間がいた。

 ボクの格好に何か思うところがあるのか、笑ってはいるけど少し引きつっている。

 目つきは少し怖いけど悪意は感じ取れない。

 促されるまま座ったボクに、応募した理由を尋ねてきた。


「異世界の知識を学びたかったからです」


 緊張感を吹き飛ばす為、声を出して一気に言った。

 そうしたら気分がスッとして気持ちが少し和らいだ。

 これならいけると思って、質問に答えていく。

 自分好みの服を作るためとは言えなかったから、裁縫スキルで異世界の衣服を再現して売り出せると提案した。

 これが思ったよりもダンジョンマスターさんに好印象を与えたのか、関心を示していた。


「面白い意見ですね。ちなみに奴隷に対する教育の仕事を与えられたら、ちゃんとできますか?」

「はい。実家の仕事の関係上、女性奴隷相手ばかりでしたが経験はあります」


 持っているスキルからして、これは聞かれると思っていた。

 男性奴隷相手の教育経験は無いけど、ウチで女性奴隷相手にしていた手段は駄目なのは分かっている。

 そこはちゃんと勉強するつもりだ。

 他にもいくつかの質問に答えて面接は終わり、ボクはウチへ帰った。

 手ごたえはそれなりにあると思う。

 父さんの頼みで二人ほど女性奴隷の教育をして寝ちゃった翌日、書類選考通過を伝えてくれたダークエルフさんがウチに来た。


「リンクスさん、内定おめでとうございます。つきましては明日より勤務して頂きたいので、準備をしたうえで午後にダンジョンギルドへお越しください」

「はい! ありがとうございます!」


 ダンジョン勤めに内定した事を家族に伝えたら、家中大騒ぎになった。

 なにしろダンジョン勤めは大抵の人の憧れだもん。

 おまけに勤め先が異世界人のダンジョンとくれば、騒ぐのも無理はないか。

 するとしばらくは忙しくなるだろうから発散しておけと、お祝いに父さんの知り合いが経営する高級風俗店に連れて行ってもらった。五人くらいを同時に相手して腰砕けにさせたら、父さんの友人は苦笑いしていた。

 さぁ、色々とスッキリしたし、明日からダンジョン勤務を頑張ろう。


 ****


 異世界人の運営するダンジョンに勤務できると知り、嬉しさから思わず泣き崩れてしまいました。

 実の母の血を引いた狼人族の私には、家族がたくさんいます。

 私を除けば父と実の母を含む三人の母、そして弟が一人と妹が十一人の計十六人。

 子供の頃は家族が多くて楽しいと思いましたけど、成長するに従って大家族が大変だと思い知らされました。

 私に一番近い妹二人は四歳年下で、最年少の妹はまだ一歳。

 そんな弟妹達の面倒は、働いている両親に代わって私が見ています。


『姉ちゃん、お腹減った』

『お姉ちゃん、服のここ破れちゃった』

『姉さん、遊んで』

『ご飯は今作っているから。服は後で直すから、ちょっと待って。遊んでもいいけど、ご飯食べられないよ?』


 育ち盛りでやんちゃざかりの年の子が多くて大変だけど、この人数を養うために働いている父達の方がもっと大変だから頑張っています。

 どうにか昼食を食べさせ終えると、一部は昼寝で一部は友達と遊びに行ってしまう。

 やっと一段落してゆっくり片づけをした私は、後のことを妹の一人に任せて仕事に向かいます。

 なにせこの人数ですから、父達の稼ぎだけでは少しお金が足りないんです。

 だから私も何かしらの仕事をしています。

 残念ながら成人前なのでお手伝い程度の扱いになり、賃金も凄く安い。

 けれど何もせずにひもじい思いをするよりはと、牧場で家畜の解体作業を始めます。

 この他にも古着店の商品の修繕作業の内職、荷物配達、清掃作業、畑仕事、厨房での皿洗いや給仕をしています。


『はい、お疲れ様。いつも悪いね』


 なんとか頑張っているけど、お手伝い程度では月に銅貨二、三枚がやっと。

 それでも足りない分は辛うじて補えているから、貧しいけど飢えること無く生活しています。 

 でも、この先はどうなるか分からない。

 なにせ弟妹達はまだまだ育ち盛りで、食費がいくらかかるか分かったものじゃありません。

 働くにはまだ早いし、誰かしらが面倒を見る必要もあります。

 もうすぐ成人を迎える私は、どこに就職すればお金を稼げるだろうかと悩んでいました。


『初任給はそこそこでいい。問題は、その後のお給料です』


 問題なのは初任給じゃなくて昇給。

 少しでも多くの金額を稼がなくちゃ、いずれは家計が崩壊する。

 けれど私より前に働いている人が大勢いるのに、それを押しのけて昇進するのは並大抵のことじゃありません。

 可能性があるとしたらスキルによる活躍ですが、私のスキルは種類は多いけど熟練度が低い。

 普段の生活で習得した料理、裁縫、掃除。仕事で習得した解体、運搬、農耕。そして幼い頃、エリアの警備隊の小隊長をしている実の母の部下から、遊び半分で教わって習得した戦闘向けスキルが五つ。

 遊びに行くたびに誰かしらが教えてくれて、スキルを習得したと分かると負けじと他の人が別の武器の扱いを教えてくれた。これを繰り返していくうちに、いつのまにかこんなに覚えていました。

 でもそういう覚え方をしたせいで、習得はしたけれど熟練度が低い。


(剣術、槍術、拳術、盾術、棒術。数はこんなにあるのに……)


 数だけあっても駄目です。

 熟練度が低くては、ただの器用貧乏でしかありません。

 今手伝っている仕事ならそれなりに経験があるから重宝されるでしょうけど、元々の給料が低いから高額を稼ぐのはほぼ無理です。

 決闘士になって活躍すれば大金を稼げる可能性は高い。

 その代わり命の危険があり、自己責任で戦う必要があります。

 そんな危険な仕事に就いたら、家族は何と言うでしょう。

 しかし他に手段は無い。私が成人になった二ヵ月後、決闘士の募集が始まるからそれに応募しよう。


(できればそれまでに、他に高額のお金を稼げる仕事が見つかるといいのに……)


 無いに等しい淡い希望を抱きながら、私は今日も牧場で牛を解体する。

 骨に残った肉を削ぎとって持って帰ってもいいですかね?

 そんなある日のことでした。

 前日に成人を向かえてささやかながら家族に祝福され、その日は一日休ませてもらいました。

 尤も、親が仕事に行っている間の家事をやろうとした弟妹達が幾度となく危険な目に遭いそうだったので、致し方なく手助けをしましたが。

 翌日。ダンジョンギルドの清掃を手伝う仕事を受け、私はダンジョンギルドへ赴いた。

 ギルド内にはダンジョンマスターとそのお供、それとダンジョンマスターからの依頼を見に来た方達が大勢います。

 私もこの手の依頼で何度か運搬仕事を貰ったので、つい目が行ってしまいます。

 そうしたら、一枚の人材募集の貼り紙が目に入りました。


(しかもこれ、噂の異世界人のダンジョン……)


 町で噂になっている、五百年以上ぶりに現れたという異世界人のダンジョンマスター。

 聞いた話では、黒髪と黒目をした男、目つきが鋭くヤバイ感じ、連れている助手はダークエルフ、安値の数打ち武器をめっちゃ買っていた、骨を大量に集めていた。

 うん、これだけ聞くと何をするか分からない怪しい人です。

 でもこれはチャンスだ。

 異世界人のダンジョンはまだ開かれていない新興だから、誰も部下がいない。

 採用人数が最大四人というところを見るに、これが最初の応募に違いありません。

 ならば、もしも採用されたら異世界人のダンジョンで古参の位置に付ける可能性が高い。

 異世界人のダンジョンは例外なく好成績を残しています。

 そんなダンジョンの古参職員になれれば、いずれは収入が高額になるのは明らか。

 簡単じゃないのは分かっていますけど、決闘士に比べれば命の危険までは無い。


(このチャンスを逃がす手は無い!)


 握っていた箒を壁に立て掛け、応募用紙を取りに受付へ走る。

 後で怒られるかもしれませんが、知ったことじゃありません!

 今の私にとって最優先事項はこのチャンスに賭け、応募用紙を提出することのみ。

 私には熟練度が低くとも、多くのスキルがあります。

 新興のダンジョンなら、一人が複数の職務を兼任することも珍しくないと耳にしたことがあります。

 そうした時に私のようなスキルの多さが役に立つはず。

 熟練度が低くて悩んでいたけれど、これに関してだけは感謝する。

 後は私自身が努力して地位を得られるかが勝負。


(そのためにも、絶対に採用されなくては!)


 強い決意を込めて応募用紙を提出してから数日後、書類審査を通った一報が届いて思わず両手を掲げました。

 可能な限り良い服装をして受けた面接の翌日、落ち着かずに家事をしている最中に先日と同じダークエルフの女性が尋ねてきて、内定したことを伝えられた。


「あっ、あぁぁぁっっ。やった……やった……」


 面接で緊張して色々ぶっちゃけちゃったからどうなるかと思ったけど、噂どおり目つきの悪いダンジョンマスターは気にしなかった。

 私のような者を雇ってくれたご恩は必ず返します。

 このローウィ、全身全霊、粉骨砕身、滅私奉公で頑張ります!


 ****


 またやっちゃった。

 面接から帰る私の足取りは重く、気持ちも沈んじゃっていた。


「うぅぅ……。絶対にまた落ちたよぉ……」


 私の名前はアッテム。魚鱗族っていう、魚の特徴を持った種族なの。

 そんな私の実家の仕事は奴隷商。

 曾お祖父ちゃんはダンジョンマスターだったらしいけど、攻略されちゃってダンジョンマスター権限を剥奪されちゃった。

 救いだったのは借金とかが無かったことと、ある程度は貯蓄があったこと。

 曾お祖父ちゃんはその貯蓄で奴隷商を始めたの。

 ツテを使ってなんとか商売は成り立ったけど、曾お祖父ちゃんはダンジョンマスターに返り咲くのを諦めていなかった。

 親の後を継ぐ以外でダンジョンマスターになる条件は、成人していることと、ダンジョンギルドにダンジョンマスター希望登録をするだけ。

 でもそこから厳しい査定があって、それに通らないと正式登録にはならないの。

 正式登録されたら、後はダンジョンに空きが出るまで順番待ち。

 どんな基準なのかは知らないけど、曾お祖父ちゃんは一度攻略されちゃったから再起は難しいらしくて、お祖父ちゃんに夢を託そうとしたけど、これも駄目だったみたい。

 お母さんも婿入りしたお父さんも、別のお母さん達も駄目だったらしいけど、これはお母さん達にやる気が無かっただけって教えてもらった。


『だってお母さん達にダンジョン運営なんて無理よ』

『奴隷商の運営だって楽じゃないのにね』


 それは分かる。私だって親の背中を見て育ったから、奴隷商が大変なのは知っているもん。

 私が生まれてすぐ死んじゃった曾お祖父ちゃんは、奴隷なんて体罰で厳しく躾ければいいって言っていたらしいけど、それはちょっと違う気がする。


『アッテム、わし等の夢はお前に託すぞ!』


 お祖父ちゃんがそう言ってダンジョン運営のことを教えてくれたけど、私もダンジョンマスターに興味は無いの。

 だって聞いていて気分がいいものじゃないから。

 魔物を鍛える為に殺し合わせるだの、元冒険者の奴隷を買って殺すのに慣れさせるだの、聞いてて気分が悪くなっちゃう。極めつけは、人間はわしらの踏み台で家畜だって言ってたことね。

 人間さんは過去に秩序を乱したから奴隷でしかいられなくなっちゃったけど、本当にそんな認識でいいのかな?

 だからこそ、私はダンジョンタウンで唯一例外として扱われる人間さんが気になった。それが異世界人。

 この異世界人さんはダンジョンマスターになれる資質があってダンジョンタウンに来ているから、査定無しでダンジョンマスターの権限が与えられる例外的な優遇措置があるの。

 しかも異世界人さん全員が結果を残して、大きな経済効果を及ぼしているから、周囲から文句はあまり出ない。

 ダンジョンギルドでも、いつ異世界から来てもいいようにって、必ず一か所はダンジョンを空けてるみたい。

 でも、もう五百年以上も来ていないから、半ば習慣的に残している感じね。


『もう異世界の人間さんは来ないのかな? でもそれだと……』


 異世界から来る人間さんにはダンジョン以外にも重要な役割があるの。それは子孫を残す事。

 私達亜人は何故かは分からないけど、女の子の方が生まれる確率が高い。

 だけど異世界人さんとの間には男の子が生まれやすい。しかも生んだ男の子もまた男の子を生みやすい。

 だから来てくれないと、このダンジョンタウンが女の子だらけになっていずれは滅亡しちゃうわ。

 そんな風に色々と考えている間にお祖父ちゃんは病気で亡くなった。

 ちょっと悲しかったけど、ダンジョンマスターになれって言われなくなってホッとした。

 それから私も成人して、無理に家を継がなくていいって言われたから就職活動をした。でも……。


『うぅぅ……また駄目だった』


 なにせお祖父ちゃんからはダンジョンに関する事しか教わってないし、持っているスキルも家の手伝いのために覚えた三つだけ。

 自分や相手のスキルを調べる解析スキル、虚実を見破る看破スキル、そして奴隷契約の魔法を使える隷属スキル。

 こんなスキル、看破以外は奴隷商以外じゃあまり使わないから就職先が限られちゃう。

 おまけに私自身が照れ屋で内向的だから上手く喋れなくて、書類審査に通っても面接で落ち続けている。

 思い切ってダンジョンギルドの職員や住人管理ギルドの職員、一か八かでダンジョンの職員も応募したけど落ちちゃった。

 しかもこれが四年ちょっと続いた。


『ぐすっ。こうなったら、家を継ぐしか無いかな?』


 幸いスキルは奴隷商向きだし、経営は親から学べばまだ間に合う。

 そう思っていたところへ、ある話を聞いた。

 五百年以上ぶりに異世界人のダンジョンマスターが現れた、しかもこの第五エリアにって。

 話を聞いた瞬間に私は昔を思い出した。

 異世界の人間さんはもう来ないのかなと、亜人の未来を心配しつつ実は異世界の人間さんに興味を持っていた事を。それと少なからずダンジョンに関わりたい気持ちがあったことを。

 でなかったらダンジョンギルドの職員や、ダンジョンの職員に応募したりしないもんね!


『しかも新興になるだろうから、私のスキルも役立つかも』


 私のスキルは三つだけしかないけど、三つともダンジョン運営者なら誰でも確保しておきたいスキルだから、きっと目に止まるはず。

 捕まえた冒険者のスキルを解析で調べて、奴隷にするなら隷属を使って、交渉時には看破を使う。

 うん、私の中では完璧!

 また面接で落ちないかなと考えもしたけど、今更落ちても気にしないもん!

 それからはダンジョンギルドに通い、件の異世界の人間さんがダンジョン職員を募集している貼り紙を待って、貼り出されたその日のうちに応募した。

 無事に書類審査は通ったんだけど……。


「あうぅ……。今までで最高にガチガチのカミカミだったよぉ……」


 気合いを入れるために種族伝統の服まで着て行ったのに、やっぱり緊張して固くなって照れちゃって上手く喋れなかった。

 喋った内容はまともだとは思うけど、あんな喋り方をしたら対人能力が無いって思われても仕方ないか。

 今まで落ちたのも、全部それのせいだし。

 明日、あのダークエルフさんは家には来ないだろうなぁ。

 そう思っていた翌日、奴隷さん達に食事を配り終えた頃にダークエルフさんが内定を伝えに訪ねて来て、私は思わず持っていたお鍋とお玉を落として感極まって失神しちゃった。


 ****


 異世界人のダンジョンマスターなんて五百年以上ぶりの出来事が起きて数日、その異世界人のダンジョンに勤めるための面接を終えた僕は大きく息を吐いた。


「受かっているといいな」


 僕の名前はユーリット。カーバンクルっていう種族の薬剤師で、つい先月に修行先で一人前と認められて独立の許可を得た。

 独立と言っても薬学一筋を学んでいた僕に経営手腕が無いのは分かっているから、自分で薬局をなんて考えていない。

 かと言って実家の薬屋に帰っても、製薬は姉さん達がいるし父さんもまだまだ現役だから、帰っても僕に居場所はあまり無いだろう。


『という訳で就職活動してみます』

『アタシの孫娘を嫁に貰って、ここを継いでくれてもいいんだよ?』


 嫁って言うけど、師匠のお孫さんって今年九歳になったばかりじゃないですか。

 男を確保してここの存続を図りたい気持ちは分かりますけど、さすがに幼すぎです。


『申し訳ありませんが……』

『そうかい。じゃあ継がなくてもいいから嫁に貰ってくれるかい? 曾孫に後を継がせれば良い話じゃからの』


 師匠って腕はいいんだけど、ちょっとしつこいのが玉にキズだと思います。


『では、早速仕事探しに行ってきます。今までお世話になりました』


 こういう時はさっさと去るのが最良の手だ。伊達にこの人の下で修行してきた訳じゃない。

 最後まで嫁にもらってくれんかと言っている師匠に笑顔で手を振りながら、僕は仕事探しのためにギルドへ向かった。

 求人に関する情報は大抵ギルドに集まっている。

 だから僕は真っ先に商人ギルドを兼任している住人管理ギルドの扉を潜った。

 中には商人とその護衛かお供がたくさんいて、求人の貼り紙がある場所には僕と同じく仕事探しの人達が集まっている。


『こんにちは、何か良い仕事はありますか?』

『いんや、大したものはなかとよ。日雇いの手伝いばかりで、正式雇用は拡張現場の飯炊き係だけや』


 声を掛けたギルド職員のハーピーのお姉さんが答えてくれたように、貼ってあるのはそんなのばかりだ。

 料理は苦手だから飯炊き係は無理だし、薬関係の仕事は薬草収穫の手伝いくらいか。

 一応師匠から採取方法も教わって薬草採取をしていたから、採取スキルはある。

 けれど僕が探しているのはこういう仕事じゃなくて、正式雇用の仕事だからパスしよう。

 次はダンジョンギルドへ行ってみようかな。

 あまり関係無さそうに思えるけど、魔物の回復用にってことで割と需要があるんだよね。

 早速向かおうとしたら、声を掛けたハーピーのお姉さんに腕を掴まれた。


『? あの……?』


 なんかお姉さんがハアハアしていて嫌な予感しかしない。


『よく見ればかわええボウヤやないの。ねぇ、お姉さんとエェことせぇへん?』


 やっぱりか!

 カーバンクルは何故か身長があまり伸びなくて、僕の背もあまり高くない。

 昨年成人した時点で伸びも止まっちゃって、これ以上の成長は期待できない。

 おまけに童顔だから、若いうちは見た目より幼く見えるって父さんも言っていた。

 お陰で母さん達とも出会えたって言っているけど、それはそれで母さん達の趣味を疑ってしまうよ。

 そして同じような趣味だと思われるハーピーのお姉さんに僕は迫られています。


『あ、あの、僕は昨年には成人していて、ボウヤって年じゃなくて』

『成人ならなおさら問題なかとよ! さぁ、お姉さんが新しい世界を教えてあげるで!』

『だ、誰か助けてください!』


 この後、同じギルド職員の魔人のお姉さんに助けてもらいました。


『とにかく、ダンジョンギルドへ……』


 若干の疲れを感じながら裏手にあるダンジョンギルドへ行くと、住人管理ギルド以上の人でごった返しています。

 特にたくさんの人が集まっているのが、やっぱり求人関係の貼り紙のある場所だから行ってみよう。 

 大人数が集まるってことは、それだけ良い仕事があるのかな?


『すみません。何か良い仕事でもあるんですか?』

『そうなのよ。ホラ見てこれ』


 同い年くらいのアラクネが指差した貼り紙に書かれていたのは、ダンジョンで働く人を募集するものだった。

 しかもダンジョンマスターは異世界人!?

 そういえば師匠の店で、お客さんの噂話を聞いた事がある。

 異世界人のダンジョンマスターが、このエリアに現れたって。

 これは応募しなくちゃ! 新興だろうから薬を扱う人はいないだろうし、僕には鑑定スキルがあるから捕らえた冒険者の持ち物を鑑定することだってできる。

 なにより、異世界にどんな薬があるのか激しく気になる!

 薬の知識が無いとしても、どんな薬があるか聞くだけでも価値はあるし開発した時の達成感もある。

 だからこそ応募だ。魔物用に回復薬も作るし、必要とあれば毒薬も痺れ薬も眠り薬も、なんだったら媚薬や自白剤も作ります。だからどうか採用されますように!

 そんな思いを込めて提出した応募用紙による書類審査は無事に通過して、ついさっきまで面接を受けていた。

 僕の思いはありったけぶつけたから、後は受かるかどうかを待つだけ。

 とりあえずそれまでは、実家で姉さん達の手伝いでもしていよう。

 翌日、ダークエルフの助手が尋ねて来て内定を伝えるのを、この時の僕はまだ知らなかった。


 ****


 出会いは突然やって来るものだと、私ことエリアスはあの日に体験しました。

 異世界から来た人間のダンジョンマスターが挨拶に来る。

 朝にお母様からそれを聞かされた時、何故かは知りませんが大きな分岐点に立った気がしました。

 その人を最初に見たのは、彼が厨房に案内されている最中の廊下。

 おそらくはお母様の要望に応えて異世界の料理を作るためでしょうが、声からして男の人でしょうか。

 私の容姿を見てどう思われるかが怖くて、彼が通り過ぎるのを待って少しだけ襖を開けました。


(あの方が……異世界人)


 背後からでは顔は見れませんが、ダンジョンタウンでは珍しい黒い髪をしています。

 理由は分かりませんが、それに魅入られるように眺めていると彼が振り向きました。

 何故気付いたのでしょう。彼には索敵スキルでもあるんでしょうか?

 髪と同じ黒い瞳に吸い込まれそうな感覚を覚えていると、ふと彼の鋭い目と私の目が合っているのに気付いて思わず部屋に引っ込んでしまいました。

 あぁ、彼に見られてしまった。この醜悪な姿を。

 通常なら両親のどちらかの種族で生まれるはずなのに、両方の特徴を持って生まれる混種。一万人に一人の確率で私はその混種として生まれてきてしまった。

 普通ならすぐに命を奪われるか、生きていても一生地下牢暮らしなのに、お母様とお父様は親戚に猛反対して私を普通の子として育ててくれています。

 幼い頃に外見の事で苛められて帰ってくると、心底心配そうに出迎えてくれて、怪我をしていたら丁寧に治療をしてくれました。

 二人のお姉様も私を苛めた子を逆にとっちめると言って、何度か喧嘩をして帰ってきたことがあります。その事を私が謝ろうとすると、姉が妹の心配をして何が悪いのと言ってくれました。


『で、でも』

『例え混種でも、あなたは私達の妹なんだから苛めた相手に怒るのは当然よ』

『そうそう。苛めた奴らが悪いんだから』


 この時、私はお礼を言いながら大泣きしたんだとお母様に教えてもらいました。

 これで私への誹謗や中傷が無くなった訳ではありませんが、お母様が付けてくれた付き人のお陰で暴力や石を投げられたりはしなくなりました。

 ですが、陰口が聞こえるとやっぱり辛いです。


「彼も……私の事を嫌うんでしょうか?」


 はっきり言って私は好かれる人数より嫌われる人数の方が圧倒的に多いです。

 お母様の立場のお陰で表立ってどうこうという事はありませんが、混種は忌み嫌われているので仕方ありません。

 それにしても、何故彼のことがこんなに気になるのでしょうか?

 一目惚れ、という訳ではないと思います。だって彼が訪ねて来ると言われた時から、どんな方なのか気になっていましたもの。

 好奇心と言えばそれまででしょうけど、それとは違う気がします。

 なんと例えればよいのでしょうか。運命を感じる?

 ……私はいつから恋愛脳になったのでしょう。


「お母様に話してみましょう」


 私一人で考えていても埒が明かないので、ここは人生経験豊富なお母様に聞いてみた方がいいでしょうね。


「お母様、よろしいでしょうか」

「エリアスか。どうしたのじゃ?」

「先ほど参られた、異世界人の方なのですが」

「どうした。まさかヒーラギに中傷でもされたか!」

「ち、違います!」


 彼に中傷されたのかと言われ、思わず強い口調で否定してしまいました。

 本当に何で彼の事になると、こんな反応をしてしまうのでしょうか? 珍しく大声を出したものですから、お母様も目を見開いています。

 ……彼の名前はヒーラギ様というのですか。


「じゃあ何なのじゃ?」

「その……黒髪の方は珍しいので、気になっただけです」


 咄嗟にそう返してしまいましたけど、ここからどう話しましょうか。

 考えているうちに異世界の料理が三品も運ばれてきました。

 しかもお待ちの間に食べてくださいということは、これは前菜に過ぎないのでしょう。

 並べられた料理は焼き目のついた白い物と潰れた円柱のような揚げ物、それと……卵とトマトの炒め物? なんでしょう、この最後の品は。

 あまり食べる気が湧かないでいると、お母様が箸を伸ばして一口食べ、美味しいと驚きました。

 本当なのかと私も箸を伸ばしてみます。


「……美味しいです」


 思わず口に出してしまいました。

 他の二品もお母様が食べた後に箸を伸ばしましたけど、どちらも美味しいです。

 噛むたびに味が染み出て、しかも心地よい歯ごたえが最高の軟骨という骨を焼いた物。

 硬さと柔らかさを組み合わせ、揚げた事で衣の中に閉じ込められたお肉の汁が最高に美味しい、蓮根で細かく切ったお肉を挟んで揚げた挟み揚げという揚げ物。

 どちらも食べた事が無い料理です。


(これが異世界の料理……。あの人の料理……)


 あまりの美味しさに、ついこの場にいる理由を忘れてしまいました。

 それからしばらくして、ドゥグさんがお鍋を持って来ました。

 さらにヒーラギ様が続いて入って来たのを見て、何故ここにいるのかを思い出しました。

 まさかヒイラギ様の目の前で聞くわけにもいかないので、咄嗟に彼に向けていた視線を外して正面を向きました。

 どうにか心を落ち着けようとしていると、ヒーラギ様の料理の本命が私の前にも置かれました。これはキャベツを丸めた物をスープで煮込んだ物でしょうか?

 見た目は初めての形状ですが、箸で掴んでみると中に何かが入っているのが分かりました。

 先に食べたお母様も、一口食べて先の三品以上に驚いています。どんな味なのか気になって、一口かぶりつきます。


(熱っ!)


 齧った途端にキャベツに含まれていたスープが口の中に入ってきてとても熱い。けどそれ以上に。


(美味しい……)


 中に入っていたのはこれも細かく切ったお肉ですか。

 しかも挟み揚げとは違い、キャベツでお肉の汁を封じるだけでなくスープの旨味と合わさって、互いの味を何倍にも引き上げてくれます。


「お、美味ひいでふ。あふっ」


 熱いのはちょっと苦手ですけど、箸と食欲が止まりません。

 特にキャベツは中からお肉の汁を、外からは煮込んだスープを吸い取り、それに自身の甘みを加えています。このキャベツの味なら、一玉全部食べられます!

 この料理はロウルキャベツというそうですけど、お母様同様に私も気に入りました!


「ところで、そちらの方は?」


 へっ? あうっ!?

 そうです、さっき目は合いましたけど私とヒーラギ様は初対面だから、私が誰なのかを知らなくて当然です。

 お母様に挨拶をするように言われ、慌てて口に物が入ったままなのに挨拶をしてしまいました。


「あふっ、あふっ。え、えひあふでふ」


 あぁぁぁぁぁぁ。初対面でこんな醜態を晒してしまうだなんて。

 彼は食べてからでいいと言ってくれましたけど、絶対に呆れています。


「ししし、失礼しましま、した。エリアウ、と申しまう」


 駄目です! 駄目駄目です! 熱いのに耐えて飲み込んだのに、こんなカミカミの挨拶をするなんて。

 ただでさえ忌み嫌われている混種なのに、こんな醜態まで晒したのでは絶対に軽蔑されました。

 そう思っていたんですが。


「落ち着け。いくらでも待つから、ゆっくり呼吸を整えるんだ」


 震える私の肩に手を当てて優しく声をかけてくれました。

 あ、あれ? 嫌われていない? なんで?

 と、とにかく深呼吸です。ヒーラギさんの言う通り呼吸を整えなくちゃ。

 数回息を吐いては吸ってを繰り返すと、やっと落ち着いてきました。申し訳なく思いながら落ち着いた事を伝えると自己紹介をされたので、私も再度自己紹介をしました。

 ……あれ? 普通に話せている?

 私に嫌悪を抱く人の方が圧倒的に多いから、初対面の相手とは思うように挨拶できなかったのに、どうして?

 戸惑って一瞬視線を向けては外しを繰り返していると、頬の温度が上がってくるのが分かります。私はどうなってしまったんでしょう。


「のぉ、ヒーラギよ。この子を見てどう思う?」


 お母様の問い掛けに私の心はまた揺さぶられました。

 でも同時に、ヒーラギさんの気持ちを聞きたいとも思っています。

 嫌われたと思っていたのに優しくしてくれて、視線も外す事無く私を見てくれている彼の気持ちを。


「お世辞抜きで綺麗な方だと思います」


 ……綺麗? 私が?

 看破スキルは……彼の発言を嘘とは判別していない。

 つまりは本音であって本当にお世辞抜きであって、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

 この瞬間に私の体温は急上昇して、鏡を見ずとも顔が真っ赤になっているのが分かります。


「わわわわわわわわ、私が、きき、綺麗、ででで、です、か?」

「こっちの世界の美的感覚ではどうなのか分かりませんけど、俺的にはそうですね」

「は、はう、はううぅ……うぅぅ」


 今度の発言にも看破スキルは嘘と判別していない。つまりは本音であって、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?

 なんで、どうして? 私は混種なのに? 竜の鱗が肌にあるし九尾の狐の耳と尻尾があるし毛と鱗の色が逆だし!

 混乱の極みになっていた私の思考に、彼のある発言が飛び込んできました。


「先ほどドゥグさんからも聞いたんですが、混種ってなんですか?」


 あっ、そうだった。異世界から来た彼は混種なんて知らないんだった。

 ちょっとだけ冷静になれた頭で、お父様から混種の説明を聞いたヒーラギ様がどんな反応をするのか待っていると。


「どうして、それが忌み嫌われているんですか? 両親の血を受け継いだ、明確な証が形になって現れているのに」


 これを聞いて私の中の何かが壊れました。

 でも決して心が壊れたとか、そういう悪い意味ではありません。

 安心したんです、この人に心の壁なんて張らなくてもいいと気付いて。

 同時に私が両親を恨んでいるのにも気付きました。

 こんな姿で産んでくれなければ、私も普通に生活できていたのにと。あんなに優しく育ててくれた両親に対して、なんという気持ちを持っていたのでしょう。

 けれど彼はそんな私の僅かな邪な心さえも救ってくれました。

 金色の鱗も、赤毛の耳と尻尾も、どちらもお母様とお父様の血が交じり合ったもの。

 どちらか一方ではなく、両方の血を受け継いだ証。

 両親からの愛の形なのに、それを恨んでいたなんて恥ずかしいです。そしてそれを気付かせてくれた彼に最上級の感謝を送りたいです。

 そう思ってヒーラギ様の方を向くと、途端にまた頭に血が上って体温が上がって鼓動が大きくなってきました。

 なんでです! ちょっとお礼を言うだけなのに、何で彼の顔を見ただけで体温が急上昇するのですか!


「エリアスよ、顔が赤いが体調でも悪いのか?」

「ちょっ、ちょっと熱が……部屋に戻っていますね。失礼します」


 お母様の言葉に乗って部屋へ逃げ帰り、座布団に顔を埋めて熱を下げようとしますが熱は下がりません。

 これは何なんでしょうか?

 そう、まるで元からあった何かがヒーラギ様に引き寄せられていて、先ほどのやり取りでさらに引き寄せられたような……。

 ということは恋? それとも運命?

 って、だからいつから私は恋愛脳になったのですか!

 つい八つ当たり気味に座布団を畳に叩きつけました。

 あっ、大変破れちゃった。裁縫道具、裁縫道具。


登場人物スキル


リンクス

インキュバス

スキル:性技、魅了魔法、調教(奴隷)、裁縫

固有スキル:なし


ローウィ

狼人族

スキル:剣術、槍術、盾術、棒術、拳術

    料理、裁縫、掃除、運搬、解体、農耕、採取

固有スキル:なし


アッテム

魚鱗族

スキル:解析、看破、隷属

固有スキル:なし


ユーリット

カーバンクル

スキル:火魔法、水魔法、鑑定、調合、採取

固有スキル:なし


エリアス

九尾の狐と竜人族の混種

スキル:料理、裁縫、看破、整頓

固有スキル:なし

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