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第74階層 色々あったら今日の運勢を調べてみたくなる

涼「今日って仏滅じゃないだろうな?」


 今日はダンジョンギルドにて、半年に一度のスキル確認を受ける。

 前日までに農業組を含む、他のメンバー全員の確認を済ませており、今日確認をする俺とミリーナが最後だ。

 スキル確認が義務化されてからちゃんと半年に一度確認をしているけど、新たに習得したのは俺の魔力操作スキル、ミリーナの診察スキル、農業組の農耕担当をしているネーナと奴隷三人が採取スキルを、それぞれ習得しているぐらい。

 後は当時【未】だったのが完全に習得できたのと、日々の仕事や趣味なんかで熟練度が上がったくらいだ。


「やっぱり、そう簡単に増えるものじゃないか」


 普段からやっている事を変えるか、何か新しい事を始めれば新しいスキルを覚えるかもしれないけど、スキル習得に拘り過ぎて無用なスキルを習得しても意味が無い。

 下手をすればうちに応募してきた頃のローウィのように、種類は多くとも熟練度が低いものばかりになりかねない。


「ご主人様は何か、新たに習得したいスキルでもあるのですか?」

「いや、別に。習得したらしたで、どう熟練度を上げていくか考えるだけさ」


 俺としては数じゃなくて、熟練度を重視したい。

 どんなスキルでも、上手に使いこなしてこそだからな。


「ミリーナは何か、新しく覚えたいスキルがあるのか?」

「そうですね。できればユーリットさんに、お薬の調合を教わって調合スキルを覚えたいです。診察して自分でお薬を調合できれば、ユーリットさんの手を煩わせずに済みますし」


 なるほど、それは言えている。

 ひょっとしたら他にもそういう意見があるかもしれないから、帰ったら皆に聞いてみよう。


「分かった、帰ったらユーリットに相談してみよう」

「ありがとうございます!」


 早速帰ってすぐに相談すると、明日から教えてもらえることになった。

 そのまま覚えたいスキルがないか皆へ聞いてみると、フェルトから鍛冶スキルと彫刻スキルを、イーリアとアッテムから算術スキルを覚えたいという意見が出た。

 どれもうちには必要なものだから許可を出し、フェルトはアビーラの下で鍛冶を学び、イーリアとアッテムにはできるだけ計算に関わる仕事を割り振った。


「なんか仕事を奪われた気分です」


 主に計算仕事を頼んでいたラーナから若干の不満は出たけど、どうにか宥めて納得してもらう。


「マスターヒイラギは、新たに覚えたいスキルは無いのですか?」

「使役スキルと固有スキルに加えて、従魔覚醒なんてチートスキル持っておいて、これ以上望むスキルは無いよ」


 改めて口にすると、どうしてこうなったって気分だよ。

 初めて調べた時には既に使役スキルと固有スキルがあって、気づけば従魔覚醒なんてチートスキルも習得していた。

 あの悪魔スーツが俺がこっちだと言っていたのは、こういうのを見抜いていたからか?

 いや、あの時は従魔覚醒どころか従魔強化も習得していなかった。

 だとするとやっぱこう、存在としての本質的なものを見抜いていたのか?


「あの、マスターヒイラギ。急に考え込んで、どうしました?」

「ああ悪い。大した事じゃないんだ、気にしないでくれ」

「はあ?」


 また悪い癖が出たよ。どうしてこう、どうでもいい事で考え込むのか。


「悩みがあるのでしたら、遠慮なく言ってくださいね。私もその……妻の一人ですから」


 嫁にして以来、やたらとラーナは自身が妻だと口にしては恥じらいでいる。

 意外とクーデレなのかと戸倉が言っていたけど、どういう言葉の略なのかよく分からない。


「分かった、その時は頼む。今のは本当に大した事じゃないし、どうでもいい事だから気にするな」

「そうですか。ならいいんですけど」


 そう言って引いてくれたものの、ちょっと機嫌を損ねかけているみたいだから、今度デートに誘って何かプレゼントしておこう。


「旦那、こんな武器作ったんすけど、見てほしいっす!」


 鍛冶場にいたアビーラが何か新しい武器を持って来た。

 この前みたいにネタに走った実用性の無い武器だったら、容赦なく没にしてやろう。


「前回のことを反省して、今回は実用性を考えて作ったっす!」


 手渡してきたのはハンマー系武器のメイス。

 これまで見た物に比べて柄が少し長く、全体的に太いのを除けば特に変わった点は無い。

 太いからちょっと持ちにくいけど、体が大きいバイソンオーガとかなら手も大きいから問題無く持てそうだ。


「それで、これはどういう武器なんだ?」


 まさか大柄な奴が使えるようにしただけ、という訳じゃないだろう。


「柄の底にある突起を押すと先端の部分が外れて、柄の中に仕込んである鎖で振り回せるようになってるんっす」


 仕込み杖ならぬ、仕込みメイスか。

 面白いし実用性もあるじゃないか。

 試しに押してみるとメイスの先端が柄から外れて、柄の中から鎖が出てきた。


「なるほどな、鎖を仕込むために柄が通常より太くて長いのか」

「そうっす! 内側を空洞にする分、強度に影響が出ないようにするのに苦労したっす!」


 なるほどね。

 近距離ならそのまま殴って、離れたら先端を外して鎖で振り回して……あれ?


「なあ、これ一度外したらどうやって戻すんだ?」

「そりゃあ、鎖を柄の中に入れて外した先端を接続するっす」

「戦闘後はそれでいいけど、戦闘中に戻すが必要があったらどうする? ちまちま鎖を中に入れて先端を接続している暇を、相手がくれるか?」

「……あっ!?」


 質問に対してアビーラはそう反応した後、気まずそうに無言になって俯いた。


「武器としての実用性は充分にある。だけど使い勝手について、要検討だな」

「そうっすね。戦闘中に引っ込める方法を、何か考えないと駄目っすね」


 返したメイスを手に、明らかに落ち込んだ様子でアビーラは出て行った。

 頑張れ、前回のネタに走っただけのアレよりは、ずっと良い武器だったんだから。

 そう心の中で呟きながら、もうすぐ交代する司令室での勤務に励む。

 交代を終えたら育成スペースへ向かい、ここ最近疎かにしていた魔物との交流をすることにした。

 会話相手はオークの進化系、オークソルジャー。


「そうか、嫁さんと喧嘩しちゃったのか」

『そうなんですよ。悪いのは俺だって分かっちゃいるんですけど、なんか謝り辛くて』


 俯いて気まずそうにしている姿は、厳しい訓練を重ねて多くの侵入者達を葬ってきた猛者とは思えない。

 エリアスとの結婚式の直後辺りから、こいつを始めとしたオーク達もようやく進化した。

 俺としてはやっとかって気分だったけど、イーリア達に言わせればこれでも早い方らしい。

 進化形態は似たような武器を持たせて戦わせていたせいか、ほとんどがこいつと同じオークソルジャーへ進化。

 他には別の魔物から魔法を教わり、魔法を使えるようになった数体がオークメイジへ、ゴブリンモンクの訓練に交じっていた数体がオークファイターへ進化した。


『情けない事を言うな、腐らせるぞ貴様』

『ひいぃぃぃぃっ!? やめてくださいよ、腐滅の旦那』


 元々が魔物だったからか、何故か腐滅にも魔物の言葉が通じている。


「とにかく早めに謝っておけ。意地を張っていても、嫁さんは許してくれないぞ」

『そうですよね。意地を張っていても仕方ないですよね』

『創造主の言う通りだ。土下座してでも謝って、己の非を認めるのだな』


 頷いたオークソルジャーは頬を叩いて気合いを入れ、嫁さんの下へと向かった。


「上手く仲直りできるといいな」

『そうですね』


 通りすがりに話を聞いていたパンプキンレプナントが同意し、新たな話相手として最近の事を喋り出す。

 直後、どこからか許しを請うような声と何かを引っ叩く音が聞こえた。

 上手くいかなかったのか、それとも平手打ち一発ぐらいで許してもらえたのか、後でちょっと聞いてみよう。

 そう思っていた矢先、二体のゴブリンナイトがこっちへ駆け寄って来た。


『こちらにいらっしゃいましたか、主君。急ぎご報告したい件がございます』


 急ぎだなんて、何かあったのか?

 片膝を着いて頭を下げた二体は、その姿勢のまま告げた。


『我らの同胞が、遂に王の頂きに達しました』


 王の頂き? あっ、まさかゴブリンキングに進化したのか!?


「キングか? ゴブリンキングに進化したのか!?」

『その通りでございます』

『ですが、中にはキングのようでキングとは些か違う進化をした者もおりまして』


 キングのようでキングとは違う進化?

 そっちの方は意味が分からない。

 ゴブリンキングがゴブリンの最終進化系なのは、魔物の進化に関する資料にもあるし、ゲームとかの中でも定番だった。

 むしろ、それ以外の最終進化系が存在するのかという感じだ。


『とにかく、見てくれませんか?』


 その方が早いな。

 手元に魔石盤は無いけど、本人から聞けば種族くらいは分かるはず。

 そんな軽い気持ちで案内されて見に行くと、多くのゴブリンに囲まれた、他より二回りは大きなゴブリンが五体いた。

 ただ、種類が三種類ぐらいいる。

 頭に王冠とかを乗せている訳じゃないから、どれがキングでどれがキングでないのか分からない。


「おい、お前達」

『これは主君、わざわざ来て頂きありがとうございます』


 声を掛けると全てのゴブリンがこっちを向いて跪く。

 ゴブリンばかりとはいえ、ちょっと壮観な光景だ。


『主君の鍛錬のお陰で、私とこちらがゴブリンキングへと至りました』

「それは良かった。ところで、そっちのお前達は何に進化したんだ?」

『はっ! 私とこ奴はゴブリンカイザーとなったようです』


 カイザー!? なんで皇帝なんだ!?

 キングと意味合いは違うけど地位的には変わらないのに、どうしてそういう名前になる。


『俺はゴブリンジェネシスです』


 ジェネシス……ってどういう意味だ?

 生憎俺は数学こそ得意だったけど、英語に関しては普通だ。

 そもそもジェネシスが英語なのかどうかも分からない。

 とにかく少しでも情報をと思って進化前の形態を聞くと、キングになったのがどちらもゴブリンナイト、カイザーになったのはゴブリンガーディアンとゴブリンパラディン、そしてゴブリンジェネシスになったのはゴブリンエースだったらしい。


『主君よ、我らは王となりましたが、変わらぬ忠誠を誓います』

『我らは、ゴブリン達のまとめ役とでも思って下されれば結構です』


 王や皇帝から忠誠を誓われるって、何か変な気分だけどそういうものだから仕方がない。

 これもまたダンジョンマスターの宿命なんだろうと自分に言い聞かせ、彼らと会話して交流を深めた。

 そうしているうちに休憩が終わったから司令室に戻り、その場にいた全員にゴブリンキング達のことを報告すると、一様に驚きの反応を見せた。


「ゴゴゴゴ、ゴブリンキング、ですかっ!?」

「直接召喚するとなるとランク七でないと呼び出せない、強力な魔物が……」


 イーリアとアッテムが驚くのも無理はない。

 普通にゴブリンを進化させてキングまで育てるのは、それだけ大変なことだ。


「冒険者仲間に聞いた事があります。ゴブリンキングと戦う時は、数千の部隊と戦うつもりでいろって」


 地上におけるゴブリンキングの最大の脅威は、多くのゴブリンを従えて統率することにあるとフェルトは語る。


「しかも、カイザーに、ジェネシスと、聞いたことも無い進化を、しているのも、いるんですよね?」

「どちらも新種認定されていますね。さらにキングと同様、相手の動きを悪くする威圧スキルを習得しています」


 魔石盤で情報を調べてくれたイーリアから、新種認定と進化時に新たなスキルを習得したことが判明。

 だけど知りたいのは、キングじゃなくてカイザーやジェネシスになった理由だ。


「カイザーは皇帝、ジェネシスは確か発端とか起源って意味ね」


 さすがは先生、その手のネタにはお強い様子で。


「ということは、ゴブリンジェネシスはゴブリンの起源たるゴブリンって事ですかね?」

「私達、で言うところの、先祖返り、でしょうか?」


 先祖返り……起源……なるほど、全てのゴブリンの祖となった、ゴブリンの始まりとなったゴブリン。

 王や皇帝とは別の意味で、ゴブリンにとって崇められる存在であり、王や皇帝と同列に扱うに相応しいな。


「だとすると、本来の意味には無いけど始祖って言った方が分かりやすいかしら」


 確かにそっちの方が分かりやすい。

 しかし何をどうやったら、そんな魔物に進化したのやら。

 進化前のゴブリンエースの時には、投擲以外これといって特別な訓練はしていないはず。

 何か共通点がないかと魔石盤で調べても、威圧スキル以外のスキルは他のゴブリンエース達も習得している。


(まさか、物を投げて攻撃するのが原始的な手法だってことで、原始回帰的にジェネシスに進化したんじゃないよな)


 ふと頭に過ぎった予想を、そんなアホなと頭の片隅へと押し込み、この件については今後カイザーやジェネシスが出た時に検証していくことにした。

 これで一段落かと思いきや、そうは問屋が卸してくれない。

 ちょっとした世間話のように始まったイーリアの話が、大問題の火種になりかねないものだったからだ。


「そういえばヒイラギ様、先ほど外出した際にギルドの友人と遭遇して聞いたのですが、近頃第二エリアで物価が下がっているそうです」


 物価が下がっているって、別に悪い事じゃない気がする。

 買う側からすれば安い方が助かるし、それだけ物が安定して供給されているって証拠だからな。


「普通に考えれば気にすることでは無いのでしょうが、同時に第二エリア内における賃金が低下しているとの話もあるんです」


 物価だけでなく、賃金も低下している?

 その現象をニュースで聞いた覚えがあるけど、なんていったっけ。

 思い出せずにいたら、先生が呟いた。


「あら、こっちでもデフレってあったのね」


 そうだそうだ、デフレだデフレ。


「サトウさん、デフレってなんですか?」

「分かりやすく言うと、物価とお給料が低下し続けることによる経済的悪循環ね」

「悪循環、なんです、か?」


 切っ掛けが何かは分からないけど、給料が下がれば物を買わなくなる。

 だけど店側は物が売れないと困るから、仕方なく物価を下げる。

 そういう事なんだろう。


「悪循環よ。だって物価が下げたらお店の利益が減るから、雇っている人へのお給料も減っちゃうでしょ?」


 あっ、そうか。言われてみればそうだ。

 雇っている側なのに、その事に気づかないとは情けない。


「でもそうなると、余計に消費が減る。買ってもらいたいから値段を下げる、またお給料が減る。こうやって悪循環に陥るのがデフレーション、略してデフレね」


 たいへんよく分かりました。

 しかしそういう流れがあると、給料を払えないから、又は今の給与を保証するためという理由でリストラが起こりそうだ。

 リストラに至るのは単に会社の業績不良だけじゃなくて、そういう社会経済的理由もあるのか。


「それにしても先生、化学担当なのにやけに詳しいですね。ニュースか何かで勉強したんですか?」

「……柊君も、バブル経済の崩壊は知っているよね?」

「ええ、それぐらいなら知っています」

「先生のお父さんとお祖父ちゃんがね、それで酷い目に遭って危うく一家離散しかけたの。それでよく言って聞かせられたの、世の中のお金の流れには気をつけろって」


 遠い目をする先生に、掛ける言葉が見つからない。

 あまり良い思い出じゃなさそうだし、これに関しては触れない方がいいだろう。


「イーリア、過去にそういう事はあったか?」


 空気を変えるために尋ねると、分からないと返された。


「ちょっと調べてみてくれないか? 第二エリアだけで済むならいいけど、他のエリアにまで広がるなら対策を立てる必要がある」


 経済的悪循環だというのなら農業組に影響するし、他の副収入にも影響が出ないとも限らない。

 ダンジョンギルドの買い取り価格にも影響しかねないから、調べられるのなら調べておくべきだ。


「承知しました。ダンジョンギルドではそういった情報はあまり無いので、住人管理ギルドの商業部に当たってみます」

「頼む」


 対策については先生か、あるいはオバさんにでも聞いて考えるしかない。

 できれば、この火種がダンジョンタウン全体を包む大火災にならないことを祈る。


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