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第65階層 疑問の解決って割と呆気ない

涼「チーズはあったからピザっぽいの作ってみたら、なんか争奪戦になった」


 この日の仕事はさり気ない一言から始まった。


「あの、ヒイラギ様。あの合体魔物ですが、フロアリーダーの間に入れますかね?」


 イーリアに言われて初めて気づいた。

 前にパンプキンゴーストが死霊魔法で作ったスカルウルベロスとボーンベアタウロスが、一緒にフロアリーダーの間にいたのは、あの二体がパンプキンゴーストの死霊魔法で生み出した、従魔のような存在だったからだ。

 でも今回の二体は、合体関係にあるだけで別個体だ。

 やばい、すっかり失念して気づかなかった。


「最下層のフロアリーダーの間を空けろ。試してみる」

「承知しました」


 もしも駄目だったら、何かしら手段を考えないと。

 偶然一緒に司令室勤務していた先生も、不安そうな表情をしている。


「ロードンの育成スペースへの移動完了です。いつでも使えます」

「分かった、すぐに試そう」


 結果、駄目でした。


「うぅぅ……。合体魔物に、こんなデメリットがあったなんて……」


 発案者の先生が凄く落ち込んでいる。


「入れないんじゃ仕方ない。合体時のミサイル使用は禁止にして、通常の通路へ配置を」

「まだよ! まだ手はあるわ! 合体、合体して一体になった状態で中に入って、それから分裂すればいいわ!」


 ああ、その方法があるか。

 しかしミサイル禁止にすればいいだけなのに、どうしてそう合体……いや、ミサイルの使用に拘るんだ。

 そりゃあせっかく作ったんだから、使わせたいのは分かるけどさ。

 とりあえず、合体状態でフロアリーダーの間へ入れさせたら、今度は問題無く中へ入れた。

 しかも中で分裂して二体になれたし。


「やった!」

「えぇ……」


 先生が喜ぶ一方で、イーリアは本当に入れたのが信じられず戸惑っている。

 俺だってそうだ。まさかこんな単純な方法で、問題をクリアできるなんて思ってもみなかった。


「とにかく、これで問題は解消されたわけだ。今後、合体魔物をフロアリーダーの間に入れる時は、合体した状態で入れるようにしよう」


 何はともあれ、問題が解決できたのならそれでいい。

 あとはこれで調子に乗った先生が、暴走して変な合体や凝りすぎた合体を考案しないよう、注意しておこう。


「先生、合体魔物を考案するのは構いませんが、どんなのを作るかは教えてくださいね。間違っても勝手に作らないでくださいね。どっちも命令です」

「もっちろん! 凄いの考えるから、期待しててね!」


 期待どころか不安しかない。

 勝手に作らず、確認を取るように命令しておいて正解だったかもしれない。

 できれば先生を信じて命令なんかしたくない。でもこっちに来てからの先生は、目を離すと何をしでかすか分からない。

 だから命令で行動に制限を掛けておく必要がある。

 でないと、何を作ったり教えたりするか分かったものじゃない。


「そうだ先生。香苗と戸倉にも合体魔物の考案をするよう、言っておいてください」


 合体の意味を分かっているあの二人なら、少なくとも先生よりはまともな物が出るはず。

 多分おそらくは。


「分かった。伝えておくね!」


 これでこっちはよし。さて、途中だった仕事に戻るか。

 今朝からパンデミックゾンビ、特に長い月日を過ごして来た二体の様子がおかしい。

 動きが鈍い上に時折痙攣しているように体が跳ね、体の腐敗具合も進んでいる。

 原因が分からない上に戦闘にも影響が出るから、育成スペースへ移動させてある。


「これはゾンビ系の魔物に見られる、進化の兆しに似ていますね」


 イーリアに見てもらったら、そんな事を言われた。

 そういえば、パンデミックゾンビが進化するのは初めてだ。

 これまで上位種のゾンビは全て、何かしらの手段で生み出されたものばかり。

 自然に進化したアンデッドは、ロードンを除けばゴースト系やスケルトン系しかいない。

 理由はゾンビ系は戦闘力が低くて、倒されやすいからだろう。

 いくらパンデミックゾンビとはいえ、感染スキルを除けば普通のゾンビより少し強くくらいだからな。

 それが進化するとなると、どんなのになるのか楽しみだ。


「ゾンビ系だとグールですかね。それかハイゾンビってこともありますね」


 いつの間に来たのかエリアスが話に加わった。


「新種のゾンビですから、意味の分からない魔物へ進化するかもしれませんよ」


 おいこら、意味の分からないってどういう意味だ。

 でも否定はしきれない。


「この様子だと、今日中には進化しますね。どんなのになるでしょう」


 楽しみにしている笑顔を見るのは気分がいいけど、話題がゾンビだから色気が無い。

 というよりも、笑ってする話題じゃない気がする。


「とりあえず、こいつらは進化するまで待機だな。代わりにこいつとこいつを配置しておくか」


 進化するまでの間、代わりのパンデミックゾンビを配置しておく。

 アンデッド系は疲れが無いから、少しばかり労働時間が長くても大丈夫なのがありがたい。


「フェルト、しばらくパンデミックゾンビ達の様子を注視して、進化したら教えてくれ」

「分かりました」


 これはこれで良しとして、ダンジョン内はどうなっているかな?

 おっ、二階層のフロアリーダーの間で戦闘中か。

 戦っているのは、あのアンノウンオーガと壮絶な戦いをして相打ちにした、あのバイソンオーガの息子だ。

 武装化して魔斧槍・魂豪こんごうとなった父親を手に、侵入者を追い詰めている。

 すっかり次世代部隊のリーダー格となったこいつは、魔斧槍・魂豪こんごうの効果で他の魔物よりも筋力と体力が鍛えられ、早くもフロアリーダー級になるまで成長してくれた。

 加えて従魔覚醒の恩恵もあるから、生半可な強さじゃ通用しない。


「おっ、勝ったか」


 結果は勝利とはいえ、相手がなかなか強かった上に連携が上手かったから、少し手間取って負傷した上に疲労している。


「これは交代だな。二階層のフロアリーダーをボイスマーメイドに変更だ」

「承知しました」


 指示を受けたフェルトが育成スペースに指示を出し、次の侵入者が来る前に交代させる。


「ミリーナ、すぐにバイソンオーガの診察を。傷次第じゃユーリットが作った薬を使え」

「分かりました」


 見た目では分からなくとも、内臓や骨を損傷している事は珍しくないからな。


「そういえばユーリット君が、新しい薬を作ったって言ってましたよ」

「それについては昨日報告を受けている。薬というより、薬膳スパイスだな」


 これまでに分かる範囲で「異界寄せ」して、育成スペースに専用の畑まで作って栽培した漢方の薬草。

 徹底的にそれを研究して配合し、作り出したものを鑑定してもらった結果、薬として飲むよりも健康のために食事に使う薬膳スパイスのようになっていた。


「販売すれば売れそうだけど、使った漢方が育成スペース産だから下手に外へ出せないな」


 農場で育てれば済む話かもしれないけど、向こうの敷地にも限りがある。

 現在使っていない畑のスペースは、野菜の栽培ローテーション用として空けておくべき場所だ。

 こっちはどんな野菜でも三ヶ月あれば季節感を無視して育つから、農場を三分割して土地を休ませながら計画的に栽培をしている。

 それを崩すと栽培計画に影響が出そうだから、できればやりたくない。


「ではこれも、外部には出さず?」

「そうする予定だ」


 秘密が増えるのは厄介でしかないけど、皆の健康に繋がるのなら別にいいかと思える。

 体を壊したら仕事どころじゃないからな。


「ちなみにその薬膳スパイスだけど、今日の昼食に使う予定だ」


 今日の昼食当番の戸倉は、使った経験が無いから炒め物の味付けに少量だけ使うって言ってたけど、味はどうなるかな。

 漢方が育成スペース産だから、効果も含めて少し楽しみだ。

 念のため鑑定時に効果について聞いてみたら、体の活力や新陳代謝、免疫力といったものを高める効果があるとのこと。

 配合次第では違う効果も期待できるから、ぜひ研究をしてもらいたいものだ。


「そうですか。では、楽しみにしましょう」

「はい!」


 そうそう、どうせ笑顔を見るならゾンビの話より食べ物の話の方がいい。

 今日も俺の嫁達の笑顔は最高だと、そう思った直後だった。


「「ふあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」


 突如居住部から、休憩中のローウィとアッテムの声が響いてきた。

 ローウィはともかく、あのアッテムが大声を出すなんて何が起きたんだ?

 ちょっと気になったから様子を見に行ってみると、大声を出した二人が昼食を貪り食っていた。

 周りの目も気にせず、肉が大量にある訳でもないのに、あそこまで夢中で食べるローウィは珍しい。

 だけどそれ以上に、夢中で食事をするアッテムは初めて見たかも。


「おい、どうしたんだ?」

「分からない。例の薬膳スパイス入りの肉野菜炒めを食べた途端、叫んでああなった」


 調理した戸倉自身も、どうしてこうなったのか分かっていない。

 これはもう本人達に聞くしかない。


「二人とも、どうしたんだ?」


 声を掛けると二人は食べる手も止めずに説明する。


「こ、これ、食べた途端に、力が、湧いてきたん、です」

「体中に力が溢れて、汗を掻くほど温まるのに気分が良くて、食欲が湧いて止まらないんです!」


 食べる手を止めない様子を見れば、どれだけ夢中になっているかは一目で分かる。

 ただ、どれだけの効果なのか食べてみないと分からない。

 あのアッテムまで夢中にさせるなんて、よほどの効果なんだろう。

 一応言っておくけど、中毒性が無いのは鑑定時に確認済みだ。


「戸倉、一口寄越せ」

「食べさせてあげようか? 口移しで」

「しばくぞ」

「おおう、バイオレンス」


 アホな事を言いつつも、件の肉野菜炒めを一口分盛った小皿と箸を差し出したから、受け取って食べる。

 なんだこれ、一瞬で汗がじんわり浮かぶほど体が温まったのに、気分は爽快で力が漲って食欲が湧いてきた。


「想像以上に凄い効果だな」


 まさかたった一口でこれほど効果があるとは。

 さすがは育成スペース産、侮れない。


「戸倉、これを集に一度の頻度でいい。食事に少量加えるようにしてくれ」

「分かった。皆にも伝えておく」


 中毒性は無いとはいえ、あまり食べ過ぎても良くないからそれくらいでいいだろう。

 どんな薬も、飲み過ぎれば毒になるからな。


「どうする? このままお昼にする?」

「いや、予定時間まではちゃんと仕事するよ」


 できれば今すぐにでも食べたい。

 食欲が湧いたから腹は食事を求めているけど、声に驚いて様子を見に来ただけで、まだ司令室勤務の時間だから我慢しよう。


「分かった。美味しいの作って待ってるから」


 ドヤ顔で親指を立てなくていい。


「期待してるぞ」

「期待された。これはもしや、私にデレた?」

「何言ってんだお前は」


 言動がもうちょっとまともだったら、とっくにデレてたっての。

 そう思いつつ司令室へ戻ると、イーリアが興奮した様子で駆け寄ってきた。


「ヒイラギ様! 進化しました! 先程のパンデミックゾンビ達が進化しましたよ!」

「本当か? それで、どんなのになった?」

「こちらになります」


 魔石盤を操作して、進化した魔物が表示された。




 名称:バーサークパンデミックゾンビ 新種

 名前:なし

 種族:アンデッド(ハイゾンビ)

 スキル:闇耐性 闇魔法 身体能力上昇

 種族スキル:感染




 名称:マッドパンデミックゾンビ 新種

 名前:なし

 種族:アンデッド(ハイゾンビ)

 スキル:擬態(岩) 潜伏 奇襲 闇耐性 闇魔法 俊敏上昇

 種族スキル:感染




 表示された二体の魔物は、どちらも種族はハイゾンビ。

 ただ、名称に新種と出ているから新しいタイプのハイゾンビなんだろう。


「能力もいいし、これはすぐにでも使えそうだな」

「思っていたほど意味不明ではありませんが、戦力としては十分ですね」


 なんでそこまで意味不明を求めるんだ……。


「だけど実戦で上手く戦えるかは別だから、ちゃんと訓練はさせておこう」


 新しい力を手に入れたからこそ、しっかり訓練してそれを使いこなせるようにならないとな。

 どんなに強くなっても、その力をちゃんと使えなきゃ格下相手にだって負けるんだから。


「そういえば、明日の定休日はロウコンさんの所に行くんだったな。連絡はしてあったっけ?」

「はい。私がやっておきました」

「そうか、ありがとな。あとは頼まれていたニガリを持って行かないとな」


 それと、どうせ何か作らされるだろうから作る料理を考えておこう。

 あっ、そうだ。この前、少量だけど生産されているチーズを見つけてピザを作ったから、アレでいこう。

 ピザを知っている香苗達だけじゃなく、知らないエリアス達も一口食べた途端に争奪戦が起きるほどだったし、十分いけるだろう。

 でもそうなると、今度はオバさんがチーズ作りに手を出しそうだな。

 そうしてくれるとチーズが入手しやすくなって、チーズを使った料理が食べやすくなるかもしれない。

 もしもそうなったら全力で応援しよう。


「そういえば、明日訪ねる事を伝えた際、その時に披露宴会場を決めたいと言われました」


 とうとうそこまで話が進んだか。

 どうやら、今度の定休日の用事は長引きそうだ。

 用事の後のエリアスとのデート、する時間あるかな。


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