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第64階層 合体魔物誕生

香苗「ジャンクフードが恋しいぜ……」


 先生の執念で合体魔物の草案を提出した翌日、それを実際に試すため育成スペースへ向かう。

 司令室をアッテムに任せ、育成担当のローウィと発案者の先生には一緒に来てもらう。

 既に実験に使う魔物は召喚してあるから、後は変形魔物を作る要領で合体魔物を作るだけだ。


「今回は実験だから、この二体を合体だけ出来るようにする」


 用意した魔物はハイドロタイガーとサイクロプスパンダ。

 これから俺と先生でこの二体を合体魔物にして、実際に合体を試す。


「じゃあ先生、打ち合わせ通りにやってください」

「分かったわ!」

「……くれぐれも、余計な事はしないでくださいね。やったら明日まで食事抜きです」

「横暴!?」


 だってこう言わないと、絶対に何か余計な事しそうだから。


「うぅ……夢のロケットパンチが……」


 ほらみたことか、余計な事しようとしてたじゃないか。


「よし、始めましょう」


 担当は俺がハイドロタイガーで、先生がサイクロプスパンダだ。

 使役スキルで二体と意思疎通を取り、絶対に動かないよう指示したら胸の辺りを切開し、用意しておいた魔心晶を心臓辺りへ埋め込む。

 そして打ち合わせ通りの合体ができる体をイメージしながら、魔心晶へ魔力を流していく。

 やがて魔心晶に魔力が溜まって二体が光に包まれ、それが消えるとハイドロタイガーゴーレムとサイクロプスパンダゴーレムが立っていた。

 魔石盤で確認しても、名称は変わっていない。

 どうやら変形だろうが合体だろうが名称は変化しないようだ。


「先生、ちゃんと打ち合わせ通りにやりましたか?」

「勿論よ。さすがに食事抜きはキツイからね」


 だったら早速、合体実験をしてみよう。


「それじゃあ、合体開始!」


 俺の合図で二体の魔物が鳴き声を上げ、合体中の隙を突いての攻撃から身を守る障壁を展開しながら合体を開始。

 サイクロプスパンダゴーレムは高く跳躍したら、腰から下が外れて背中にくっ付いてバズーカを背負ったようなり、下半身が外れた場所には接合部が現れる。

 ハイドロタイガーゴーレムは、人間で言う背中の肩甲骨がある辺りがスライドして、そこから接合部が現れる。

 ここで互いが相手の接合部を自分の目で確認し、接近しながら位置の調整をしていく。

 その間に障壁の防御効果を試すため、俺が雷魔法を放ってローウィが木剣で打ち込むけど、どちらも障壁に防がれた。

 障壁の防御を確認できたところで、合体も無事に成功。

 ハイドロタイガーゴーレムが下半身となり、その上にバズーカを背負ったサイクロプスパンダゴーレムの上半身が合体した、その名もパンタイガーゴーレム。

 単純な合体だったとはいえ、本当に成功したよ。


「やったあぁぁぁっ!」


 発案者の先生は成功に大喜びして万歳三唱。

 変なテンションで奇声ラッシュをしながら跳びまわっていて、ちょっと煩い。


「これが合体ですか。なんだか強そうですね」


 初めて合体を見たローウィが、目を輝かせながらパンタイガーゴーレムを見ている。

 そういえば、背中のバズーカを撃つんだ?

 打ち合わせの時、任せてほしいっていう先生の熱心なお願いを尊重して任せたものの、今さらながら不安になってきた。

 まさかとは思うけど、荷電粒子砲とかレールガンとかじゃないよな?


「ちなみに先生、あの背中のバズーカからは何を撃つんですか?」


 変な物じゃありませんように。


「えっとね、ミサイル!」

「……」


 ギリギリか? ミサイルならギリギリ許容範囲内か?


「核……じゃないですよね?」

「当然じゃない! そんな物、作るはずがないでしょ!」

「そうですか、良かった」

「撃ったら空中で割れて、中にある小型ミサイルが雨あられのように降り注ぐくらいで――あ痛っ!?」


 収納袋から素早くハリセンを取り出し、頭を引っ叩く。

 それはそれで作っちゃ駄目だって。


「うう……なんでハリセンなの?」

「草原とか荒野のような開けた場所ならともかく、洞窟型のダンジョン内で拡散ミサイル作ってどうするんですか!」

「……あっ」


 普通のとか追尾型ならギリギリ許容範囲だけど、拡散ミサイルは駄目だって。

 通路で撃ったら侵入者へ命中する前に、壁や天井に当たって誘爆する光景しか浮かばない。

 フロアリーダーの間に配置しても、爆風の余波に巻き込まれかねない。

 しかも一度生み出した以上、今さら変更はできない。


「えっと、どうしようか?」

「……とりあえず、実際にミサイルを使ってみて、どれぐらい余波があるのかを調べましょう」


 育成スペースにいる魔物達を一旦退避させ、畑や水場といったものが無い方向へミサイルを試射させた。

 空中で外側が割れ、中にある小型ミサイルが大地へ降り注ぐ。

 思っていたよりもミサイルが小さいから余波は来ないんだけど、数がやたらと多いから爆音が長く続く。

 やがてそれが終わった時には、落下箇所は草一本無い荒野と化して地面が大きく窪んでいた。

 まあ、あの辺は魔草しか生えてなかったから、放っておけばまた勝手に生えてくるだろう。


「えっと、それで、どうかな?」


 おそるおそるといった感じで先生が尋ねてくる。


「はぁ……。通路ではアウトですけど、フロアリーダーの間ならどうにかなるかと」


 溜め息を吐きながらそう告げると、小さな声でよっしゃと言った。

 いや、よっしゃ、じゃないだろ。


「ただし連射は禁止。それと合体前はこれは使えるんですか?」

「使えないよ。あくまで合体した時の武器だから」


 ならハイドロタイガーゴーレムが巻き込まれる事は無いか。


「分かりました。ローウィ、この二体は常に組ませて鍛えてくれ」

「了解です。それとイータースライムが二体増えました」

「そうか。じゃあ前に進化した奴を、魔物に寄生させるか。それとしばらくイータースライム量産計画は停止だ。こいつが増えすぎても扱いに困るだけだからな」


 何かに寄生すれば凄いけど、個体としての戦闘能力は低く、普通のスライムよりも弱い。

 そんな奴をそのまま鍛えるより、早めに寄生させて何かを捕食させて鍛えた方が、ずっと戦力になる。

 だけど数が増えすぎても寄生先に困るから、ここで一旦量産を止めておこう。


「分かりました」

「頼んだぞ。俺はこの二体に指導をするから、ローウィと先生は自分の仕事に戻っていてくれ」

「承知しました」

「分かったわ」


 二人を仕事に戻して合体魔物の指導に入る。

 合体はあくまで勝負後半、もしくは個々では敵わない時の手段だと伝え、合体が必要無いなら合体せずに戦うように教えて戦闘訓練を開始。

 オーク部隊から数体を借りて、多数相手の訓練をさせる。


「目の前ばかり気にするな、周囲に気を配れ。特に死角には気をつけろ」


 ゴーレムになったとはいえ、自分の意思で動いている以上は気配を感じ取れるのは、変形部隊で確認済みだ。

 実際、訓練を重ねることで気配に敏感になって、死角からの攻撃にも対処できるようになった。


「相手だけじゃなくて、味方の位置にも注意しろ。その上で連携を取って対処するんだ。合体するからと近くにいることに囚われず、状況次第では離れて戦え」


 合体という手段に囚われ、自ら動きを制限しないよう注意しておく。

 他にも分断された時の対処方とか、まだまだ覚えることはたくさんあるから、実戦投入はずっと先になりそうだな。




 ****




 合体魔物の指導を終え、司令室に入って不在中の報告を聞いて仕事に入る。

 その最中に口座を確認したら、なんか凄い額が振り込まれていた。


「これは……あの情報による収入か?」


 振込先はダンジョンギルド、振込内容は情報提供料とあるから、女騎士から得た情報の提供料だろう。

 利益の二割を振り込むっていう契約だったけど、まさかこれだけの額が入るとは思わなかった。


「凄いな、この額……」

「当然です。他所のエリアでも情報が販売されていますから」


 後ろから覗いて驚いている香苗にイーリアが説明する。

 そっか、ダンジョンギルドを通して他のエリア以外にも売っているからか。

 そりゃそうか、他のエリアのダンジョンへ行くかもしれないもんな。

 おそらくはイータースライムに関する情報も、同じく全エリアで売っているんだろう。

 だとすると、ギルドも提供料で相当儲けているだろうから、振り込みがこの金額になったのか。


「なあ、これだけあれば何か大きな買い物ができないか?」

「大きな買い物ですか?」

「貯めるのも大事だけど、たまには使わないとな」


 金はいくらあっても困らないけど、使うために金を貯めたのに使わないでいるのも勿体ないからな。

 腐る物じゃないとはいえ、腐らせていい物でもない。


「やはり土地や家、高価な調度品や奴隷ですかね?」


 奴隷はともかく、高額な買い物で土地や家や調度品が出るのはこっちも同じか。

 他に使い道は無いものかな。

 エリアスへの婚約指輪はもう買っちゃたし、慰安旅行みたいなのに行く時間は無いし、人手も充分に足りているし、とりあず農業組も含めてボーナスは決まりとして……そうだ。


「ちょうどいい機会だし、農具の買い替えと農地の家屋の改装、それと魔力に変換しての居住部改装に当てよう」


 要するに生活状況の改善と職場環境の向上だ。

 無理に高価な物を買わずとも、そういったことへ使えば労働意欲の向上に繋がるだろうし、仕事の効率も上がるだろう。


「いいですね。私、実家と同じ畳敷きの部屋がいいです!」

「それに関しては俺も激しく同意する」


 日本人である以上、フローリングより畳敷き、パンより米の生活が良い。


「よし、早速俺とエリアスの部屋を畳敷きにしよう」

「いっそのこと、居住部全部実家のようにしませんか?」

「待ってください。私達にはああいう生活環境は馴染みが無いので、それはやめてください」


 口を挟むラーナの言う通り、あれはある意味特殊な環境だから、慣れてない異世界組には辛いか。

 だったら俺とエリアスの部屋だけ畳敷きにして、他は部屋の質を上げるだけにしておこう。

 早速そうなるように操作をして、ついでに風呂や台所も強化しておいた。

 そしたら風呂が温泉旅館の大浴場ぐらい大きくなって、台所も厨房のようになった。

 そして遂に、遂に畳敷きの部屋を手に入れた。


「やっぱり畳は正義だ」

「はい」


 同意してくれたエリアスに対し、同じ日本人の香苗達は呆れた表情をしている。


「畳の何がお前をそこまで夢中にさせるんだ……」


 なんだっていいだろう。


「そうだ。ユーリット、悪いが農場へ行って家屋の改装したい箇所がないかを聞いて来てくれないか?」

「分かりました。すぐに行ってきます」


 何故かちょっと嬉しそうに、弾んだ声で返事をして出発した。

 ここ最近、ユーリットは農場へお使いに行く時に嬉しそうにしている。

 何かあるのか知らないけど、仕事に支障は出ていないし、プライベートをあまり詮索するのも野暮だから放っておこう。

 と思っていたら、理由はユーリットが帰ってきた直後に判明した。


「マスター様、聞いてください! 彼女ができました!」


 一人で休憩していると、嬉しそうに帰って来たユーリットからそんな報告が届いた。

 詳しく話を聞くと、相手は小人族という成人でも子供ぐらいの背丈しかない種族。

 農場へ行く途中の書店に勤めていて、前からいいなと思い、そこへ立ち寄った時は会話もしたことがあって仲は良好だったらしい。

 それで農場へお使いに行かせる時、嬉しそうにしていたのか。

 今日もそこへ立ち寄った際に向こうから告白され、それを受けたそうだ。


「おめでとう。祝福するよ」

「ありがとうございます。いや、まさか向こうから告白してくるとは思わず、驚きました」


 自分が向けていた想いを相手も持っていたんだから、驚くのも仕方ないか。

 それにしても、成人でも子供くらいの背丈しかない種族か。

 前に男連中で飲みに行った時、自分より小柄か、せいぜい同じくらいの背丈の可愛い子を紹介してほしいって言われたっけ。

 そういう意味でも小柄な小人族を選んだのは、なんともユーリットらしい。

 その微笑ましさに免じて、実はこっそり寄り道していたことは不問にしよう。


「そういう訳で、今度の定休日に初デートへ行くんですが、行き先について何かアドバイスを貰えますか?」


 行き先のアドバイスね……。


「参考になるか? 俺とエリアス達の場合、向こうの方が詳しいから任せちゃってるぞ」


 情けない話だけど、俺よりもこっち出身のエリアス達の方がどこに何があるかを知っている。

 一応色々と調べてはいるものの、どうしても俺の方が案内されてしまうことが多い。

 こればっかりは地元出身には叶わないと、もうすでに諦めている。


「あの、なんか、ごめんなさい」

「気にしなくていい。こればっかは異世界出身の弱みだ」


 だからって何も言わないのは情けないし、頼ってくれたユーリットに悪いから、それっぽいアドバイスを送っておこう。

 といっても、相手の事を考えて行き先を調べること、行きたそうな場所を押さえておくこと、それに合わせたルートを考えることくらいだ。


「要は下調べをしっかりしておけって事だ」

「何事においても基本中の基本ですね」

「そういうこと。あと、相手を褒めるのは絶対に忘れるな。着てきた服装とか、付けてきたアクセサリー、後は髪形を変えてたらそれもだな。それが良い、じゃなくて似合うって言うんだぞ。でないと服やアクセサリーだけが良いのだと思われるからな」


 めかしこんできた相手を褒めるのは当然の事だけど、褒め方を間違えると相手に不快に思われる。

 これは俺の実体験じゃないけど、農場にいるバリウラスがそれで一度酷い目にあったらしい。

 どんな目に遭ったのかは、本人の名誉のために聞かずにおいた。

 そんな感じでいくつかアドバイスをして、最後にもう一度おめでとうと伝えると、喜びながら去って行った。

 あっ、農場組の意見聞くの忘れた。

 まあ後でいいか、良い気分なのに仕事の話をするのは野暮だし。


「主様、ユーリット君がやたらと嬉しそうなんですが、何があったのか知ってますか?」

「ああ、実はな」


 特に隠す事じゃないから、皆へユーリットに彼女ができた事を伝えたら、男連中が騒ぎ出した。


「羨ましいっすよ、このこの!」

「僕の知識が必要な時は言ってね。普通のからマニアックなのまで教えてあげるから」

「アビーラさん、痛いからあまり強く背中叩かないでください。リンクス君も、今日から付き合うことになったからまだ早いって」


 肘で小突くアビーラはともかく、香苗に教わって作ったお嬢様学校風の制服姿でそういう事を言うリンクスに、なんか先生が妄想を膨らませて悶えている。

 とりあえずエリアスが微笑みながらハリセンを手渡してくれたから、引っ叩いて現実へ引き戻しておいた。


「ねえ柊君。今は主人と奴隷とはいえ、どうして元副担任の頭をそうバシバシ叩けるの?」

「叩かれたくなければ、もっと分別を持った言動をしてください。あと、ちょっと楽しくなってきたからです」

「ねえちょっと! なんか聞き捨てならない事を聞いたよ!?」


 だってこっちに来てから先生、イジられキャラが定着しつつあるし。


「くぅっ! 俺だっていい相手見つけてみせるっすよ!」

「僕も探したいけど、現状のまま侵入者奴隷と遊ぶのも楽しいんですよね」


 確かアビーラは同じドワーフかコボルト、リンクスは種族を問わず色気のあるお姉さんがお望みだったな。

 種族を求めるのと外見を求めるの、どこを重視するかはその人次第という訳か。

 俺の場合は……なんというかエリアスに引きつけられた感じだから、そういう風には考えていなかった。

 理屈とかそういうの関係無く、とにかくエリアスがよかった。ただそれだけだ。


「ユーリット、頑張れよ」

「はい! せっかく見つけた相手、絶対に逃しません!」


 それはなによりだ。

 どうか仲良くやっていけることを願っているぞ。


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