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第62階層 重要報告をしておこう

ロウコン「ヒイラギにもらった油揚げとやらが妙に口に合う」


 女騎士を捕まえてその仲間を倒した翌日、俺はイーリアとミリーナを伴ってダンジョンギルドを訪ねた。


「どうぞこちらへ」


 受付でハンディルのおっちゃんと会う約束を伝えたら、奥にあるギルド長室へ案内された。

 中には既にリコリスさんを伴ったオバさんもいて、お茶を飲みながら俺の到着を待っていたようだ。


「お待たせして申し訳ありません」

「いや、構わんぞ」

「どうぞお座りください。大事な話とやらを聞きましょう」


 この二人には、大事な話があるから時間をくれとしか伝えていない。

 促されて椅子に座ったら、収納袋から女騎士達に関する報告書を資料用に取り出して、昨日の件を伝えた。


「なんと! 件の冒険者達の関係者を捕えたじゃと!」


 オバさんは興奮して立ち上がり、ハンディルのおっさんはポカンとしている。あっ、リコリスさんもだ。


「こちらをご覧ください。倒した奴らの外見的特徴と、回収した武器や防具についてまとめた物です」


 報告書をひったくるように奪ったオバさんは、真剣な目で読み進めていく。

 隣から覗いているハンディルのおっさんも、時折頷いている。


「なるほど。確かにこの二人、以前に報告のあった人物と似ていますな」

「ヒイラギよ。捕えたリーダーの女騎士は、今どうしておるのじゃ?」

「情報を引き出すため、仲間の一人に尋問させています」


 女騎士にとっては尋問じゃなくて拷問かもしれないけどな。


「何か聞き出せたか?」

「今は何も。聞き出せたら、その情報は全てギルドに売る予定です」


 売る予定だと言ったら、向こうの目つきが変わった


「売値はおいくらにするつもりですか?」


 ふっかけてもいいけど、それは今後に遺恨を残す可能性がある。

 できればギルドとは悪い関係になりたくないから、それは避けたい。

 だからこうさせてもらおう。


「そちらにお任せします。情報を直に見て、どれだけの価値があるか適正に判断してください」

「ほう?」


 意外だったのか、目つきから鋭さが消えた。


「いいのですか?」

「そこはギルドを信用します。安価だったら、その程度の情報だったと」


 ここまで言われて信用を裏切るような事は無いだろう。

 ハンディルのおっさんは真面目だから、適正な審査をしてくれると思う。

 それにギルドとしての信用問題になれば、今後のダンジョンギルドの運営にも響くからな。

 だからこそ、適正な値段で買い取ってくれるだろう。


「承知しました。ちなみにその情報は開示しても?」

「構いません。売り値は任せますけど、売り上げで得た利益の二割を提供料として、俺の口座へ入れてくれますか?」


 情報も立派な売り物だ。

 だからこそ提供料を求めるけど、取り分は過剰にせず控えめにしておこう。


「二割ですね。承知しました、情報を得られたら契約をしましょう」

「分かりました」


 これでギルドの方は大丈夫として、オバさんの方はどうだろう?


「ふむふむ……」


 頷きながら報告書を捲って読み進めていくオバさん。

 どうかな? 自分なりにまとまっていると思うけど、ひょっとして読みにくかったかな。


「ヒイラギよ」

「はい」


 読み終えたオバさんに話しかけられ、自然と背筋が伸びる。


「よくやってくれたのじゃ。エリアマスターとして、礼を言うぞ」


 何を言われるかと思ったら、お礼を言われた。

 ちょっと緊張してた俺の心構えって一体……。

 まあいいや、悪い方向に転がる様子は無さそうだし。


「しかし、まさかお主が捕えるとはの」

「運が良かったんですよ。「魔封の指輪」が無ければ、危なかったですし」

「ほう? あれを手に入れておったのか」

「ええ。それに封じておいた魔法が、とても役に立ちました」


 「ダークネスフィールド」はともかく、「ベリアライズ」での変貌には驚いたけど。

 ちなみにその辺りの事は、ちゃんと報告書には記載している。

 ただし、どの魔物がどんな風に変化したとか、戦闘そのものの内容は伏せておいた。

 いくら身内になる人とはいえ、そう何でもかんでも見せる訳にはいかないからな。

 けれど、女騎士の扱いについては少し話がある。


「そうそう、ロウコンさん。一つお願いするかもしれない事があります」

「なんじゃ?」

「捕らえた女騎士が尋問で口を割らなかったら、そちらに尋問をお任せしたいんです」


 この要求にオバさんは首を傾げる。


「何故じゃ? 情報を引き出せば、かなりの儲けが出るし名声も上がるぞ?」


 普通はそう考えるだろう。

 でもリンクスは、尋問のプロじゃない。

 あくまで尋問が出来そうな人材ってだけだ。

 拷問じゃない、そう決して拷問じゃない。

 だって行き着く先は快楽で悦楽で死なない昇天だろうから。


「その道に精通している訳ではないので、聞きだせない可能性があるので」

「なるほど。どうしても情報を引き出せないのなら、利益を分けてでも情報を引き出したいと」


 その方が有益なのは、オバさんの方が分かっているはず。

 今欲しいのは金じゃなくて、女騎士が持っている情報なんだから。


「よかろう。その時は協力するのじゃ」


 よし、協力を得られたぞ。

 オバさんの配下なら、きっと上手く聞きだしてくれるはずだ。

 その時の女騎士がどうなっているかは、一抹の不安があるけど。


「ありがとうございます。それとそうなった時、提供料の収入は利益の二割を折半した、一割ずつということでどうでしょうか」

「それで構わんぞ」


 金の問題もこれでクリアだ。後は……。


「ですがその場合、渡した女騎士はこちらに返してもらえますか?」

「構わんよ。さすがにそれまで寄越せなど、器の小さいことは言わん」


 ありがとうございます。

 これでイータースライムに捕食させて、戦力強化を図る計画が実行できる。


「お話はこれで終わりですか?」


 いやいや、実はまだあるんです。

 とても大事なお話がね。


「もう一件。重大なお話があります」


 そう告げると、二人は表情を引き締め直した。


「実はですね……」


 俺が伝えたのはイータースライムの件。

 希少なこの魔物へ進化する確率を、これまでのほぼゼロから四割にする方法を発見した。

 この情報は伝える価値が有るはずだ。

 そしてその予想は的中した。


「本当かっ!?」

「ヒイラギ殿、その情報を是非とも売ってくだされ!」


 オバさんは椅子を倒して立ち上がり、ハンディルのおっちゃんは情報を売ってくれと身を乗り出す。

 オバさんの後ろに控えているリコリスさんも、目を見開いて驚いている。

 その姿に隣のイーリアが驚き、後ろからはミリーナの戸惑う声が聞こえた。


「売るのは構いませんが……そんなに欲しいんですか?」

「「欲しい!」」


 欲しがるのは予想していたけど、喰いつき方が予想以上だ。


「売るのは構いませんが、いくらで買ってくれますか?」


 反応が予想以上だから尋ねてみた。

 俺の予想では白金貨二、三枚ぐらいかな?


「確率四割ですからな……。白金貨三十枚でどうでしょう!」

「えっ、そんなに!?」


 予想の十倍じゃないか。

 イーリアとミリーナからも、驚きの声が小さく漏れた。


「それだけイータースライムには価値があるのじゃ。我は白金貨五十枚でも欲しい!」


 まあ、個体としての能力はさほど高くないけど、食べられた後が凄いもんな。

 食べた対象に寄生して、三回までなら捕食対象を吸収して成長するし。


「それで……売っていただけますか? それとも、もう少し上積みを?」

「いえ、白金貨三十枚で十分です」


 金はあっても困らない。

 でもあまり強請ってギルドとの関係を悪くしたくない。

 今後ともいい付き合いをするのなら、引き所は弁えておかないと。


「ではすぐに契約書を!」


 バタバタと机に向かったハンディルのおっちゃんは、もの凄い勢いで契約書を作って差し出した。

 凄い早業だ、さすがはギルド長。

 とりあえず内容に目を通すと、この情報で得た利益の三割を口座へ振り込むとある。


「いいんですか? 三割も」

「得られる収益を考えれば、三割出しても大儲けですから」


 それもそうか。

 俺から買った値段よりも高く売るんだから、利益の三割を出しても額としては凄い事になりそうだ。

 他の内容にも不備はないから了承し、この場で契約して資料を取り出す。


「こちらが資料になります」

「ハンディルよ! 後で売値の額を払うから、我にも見せてくれ!」


 契約した以上は勝手に見れないオバさんが我が儘を言いだした。


「では……こちらの支払いに関する念書に署名と指印を」

「するする、するのじゃ!」


 机から念書を取り出して差し出すと、オバさんも凄い勢いで署名と指印をする。

 それが済んだら二人は資料を手に取り、一言一句見逃さないとばかりに内容を読んでいく。

 オバさんが購入すると決めたからか、後ろからリコリスさんも覗き見ている。


「ううむ。魔草を摂取しないことで、進化率が上がるとは……」

「俺達が考えた仮説としては、魔草に含まれる魔力を摂取しない分を他から摂取しようとして、吸収能力が強化されたからじゃないかと」


 植物にあえて水をやらず、根を強くして品質を向上させるのと似たような感じだ。

 前にそういうのをテレビで見たと、戸倉が言っていた。

 ちなみにこれを受けて植物へ水をやらずに育てる手法を、農場の隅で実験的に試している。


「この際、理由はどうでもいい。実際に進化した、これが重要なんじゃ」

「その通りです。理由など、後でいくらでも調べられます」


 それもそうか。

 今は理由や過程よりも、結論が優先だよな。

 興奮冷めやらぬ二人はその後も資料を読み続け、それが終わると最後に良い情報をありがとうと感謝され、配布の準備や金の用立てのために慌ただしく部屋を出て行き、それに伴って俺達もダンジョンギルドを出た。

 イータースライムの情報が想像以上だったけど、結果的に大きな収入源を得られて良かった。

 さてと、次は……。


「このまま農場へ行こうか」

「「はい」」


 元々今日は農場へ行く予定は無く、今度の定休日に視察へ行く予定だった。

 せっかくの外出だから、今度の定休日に予定していた農場の視察を前倒しで行う。

 ところが予定を調整しているラーナから、どうせ外出するのなら前倒しで視察してはどうかと言われた。

 ラーナ曰く、「マスターヒイラギが休日に仕事をしないようにするためです」とのことだ。

 前に倒れて以来、休日にしっかり休めるようラーナによって予定が調整されている。

 つい、世話焼きな嫁みたいだと呟いたら、真っ赤になって逃げられた。

 いつフラグが立ったんだろう?


「売り上げは順調らしいですが、何かあるのですか?」


 奴隷ということで後ろを歩くミリーナから尋ねられた。


「いや? 単純に様子を見に行くだけだ。何か問題を抱えていたら、話は聞くけど」

「……それだけですか?」

「それだけだ。別におかしくないだろう? 管理者が自分の土地と店、雇用者の様子を見に行っても」

「……まあ、そうですね」


 また何か用事があると思っていたのか?

 確かに用事がある事の方が圧倒的に多いから、そう思われても仕方ないか。

 という訳で顔を出したら、店の方はローウィの妹達とバリウラスがやっていて、事務室兼控え室に他の農業組が集まっていた。


「急に来て悪かったな」

「驚きましたよ。抜き打ちの査察で私の至らなさを露呈させて、クビにするつもりなのかと思いました」


 エルミはどうやったら、もう少し前向きになってくれるんだろうか。


「えっとぉ、お茶はあるんですけど、お茶請けはさっき私が全部食べちゃったんで無いんですぅ……」

「ちょっとヴィクトマさん! 昨日買ったばかりじゃないですか!」


 相変わらず、ヴィクトマはよく食べているのか。

 それでいて腰回りは変わらないのに、何故か胸がデカくなってる。

 同じ個所が控えめなイーリアが、さっきから揺れる度に睨むぐらいに。


「ほならウチの木の桃でも食べはりますか? いい感じに育っとるとよ?」

「ああ、もらおうか」


 そう返すとネーナは自分が入っている木の枝を操り、実が付いている枝を近くまで伸ばして三つ収穫。

 ご丁寧に皮まで剥いてくれた。


「どうぞ」

「サンキュ」


 うん、美味い。

 この桃を売るだけでも、それなりに利益が出そうな気がする。


「で、体調とかは問題無いか?」

「はい。充分な休憩と睡眠、それと食事もいただいているので」

「平気……」


 ガルべスとエミィの顔色は悪くないし、嘘ということは無さそうだ。


「それならいいんだ。ところで、何か言いたい事とかはあるか? この機会だから言ってくれて構わないぞ」


 給料の値上げだとしても、売り上げが順調だから考えてもいい。

 人員補充も同じくやっていい。

 他にありそうなのは……販売方法の拡大についてかな。


「ほな、ウチから一つ質問や」

「なんだ?」

「いつ式挙げるん?」


 式? ああ、そういう事か。


「ちょっとダンジョンの方で大事を抱えたから、もう少し先になりそうだ。でも、そう遠くないうちに挙げようと思ってる」


 話は進んでいたんだけど、あの女騎士の件で少し遅れる可能性が高い。

 プライベートと仕事、それぞれに関する事案を並行してやれるほど、俺は器用じゃない。


「大事って、そっちこそ大丈夫なんですか?」

「大丈夫。ちょっと大物っぽいのを捕まえて、情報を引き出すのに難儀しているだけだから」


 今朝リンクスから聞いた話だと、強情でなかなか話そうとしないらしい。

 でもそういう人を堕とすのが楽しいって、男だけど小悪魔って表現が合っている笑顔をしてたっけ。

 あと、先生に聞いた手法を試すとか言っていた。

 先生は良くも悪くもそういう方面に何故か詳しいから、女騎士が壊れないか少し不安だ。


「そうですかぁ。教会時代のツテでぇ、自白強要の効果がある道具でも借りてきましょうかぁ? 対象者が精神崩壊しちゃいますけどぉ」


 怖っ!

 というより、なんでそんなのを教会時代のツテで入手できるんだ。


「いや、いい。後でそいつは利用するから、精神崩壊は困る」


 イータースライムが寄生したあいつに捕食させた時、影響が出る可能性を捨てきれない。

 大事な戦力にするつもりだから、万が一は避けておきたい。


「分かりましたぁ。それならぁ、気持ちがハイになって永遠にヒャッハーしちゃいそうになる自白剤とかぁ、相手の深層心理を覗ける代わりに一生盲目になる眼鏡とかぁ、そういうのはどうですかぁ?」

「誰がそんな物使うか!」


 恐ろしいよ!

 教会時代に一体どんな所とどんな繋がりがあったんだよ!


「ですよねぇ。全部呪いの品ですしぃ」

「そんな物を勧めるな!」


 なんだか知ってはいけない教会の裏側を垣間見た気がする。

 あっ、そうだ。呪いと言えば。


「そうだ、ヴィクトマには用事があったんだ」


 急ぐ物でもなかったから、すっかり忘れてた。


「なんですかぁ?」

「この二つの武器の呪いを解いてくれ」


 収納袋から取り出して見せたのは、魔物を武装化して作った二つの武器。

 呪いが掛かっているのは、使った魔物がアンデッドだからだ。


「はぁい。どれどれぇ?」


 鑑定スキルで確認しているのかな?

 俺はもうダンジョンで調べてきたから、どんな呪いかは分かっている。




 名称:骨蛇腹剣

 属性:無属性

 品質:低品質

 製作者:サトウ・シズク

 効果:なし

 注意:この剣には呪いがかかっています。

    持っている間、三十分毎に骨密度が一割低下




 名称:腐敗機関銃

 属性:無属性

 品質:中品質

 製作者:トクラ・アオイ

 効果:放った弾丸に当たった物を腐敗させる

 注意:この銃には呪いがかかっています。

    何度も使うと射撃行為に対する依存症になります



    

 制作者から分かるように、今回の武器は戸倉と先生が作った。

 いざやろうという時にやってみたいと申し出たから、物は試しとやらせてみた。

 その結果がこれだ。

 鞭みたいな剣はともかく、なんで機関銃を作った機関銃を。

 一応二人に、こんな武器を作った理由を聞いてみた。


『こういうネタ武器は必須でしょ!』

『柊君と同じ腐らせる系。これでお揃い。うふっ』


 なんて事を言っていた。

 もうハリセンで頭を叩く気すら失せて、ただひたすら呆れた。

 そしてなんと言っても呪いの内容。

 何が悲しくて、武器を使うたびに骨粗鬆症か射撃依存症を心配しなくちゃならないんだ。

 とりあえず即座に収納袋に入れておいたから、呪いの影響は今のところ無い。


「えっとぉ、かなり独特な呪いですねぇ」

「どうでもいいから、早く解呪してくれ」

「はぁい」


 ヴィクトマの手によって解呪が行われ、二つの武器から呪いは消えた。

 これで今日の予定は終わり、農場からダンジョンへと帰る。

 道中も特に変わった事は無く、真っ直ぐ帰ったらそのまま仕事へ。

 留守を任せていたラーナとアビーラに礼を言って、留守中の報告を聞いた。

 これといって大きな出来事も無く、女騎士からの情報も何も無し。

 まあ、そう何度も問題が起きたら困る。


「ところでローウィは育成スペースか? 解呪した武器を渡したいんだけど」

「先程ここでの勤務を交代したので、今は部屋じゃないですか?」

「そうか。悪いけど、もう少しこっちを頼む」

「分かりました」


 もうしばらく司令室をアビーラに任せ、ローウィの部屋へ向かう。

 居住部は今朝に拡張を済ませ、各自の部屋の扉には名前付きの札が掛けられている。

 各々が思い思いの札を掛ける中、、ローウィの部屋の札はどこで売っていたのかマンガ肉型だ。


「おいローウィ、今大丈夫か?」

「はい」


 ノックをしながら呼び掛けると、返事が聞こえてローウィが出てきた。


「なんでしょうか、主様」

「例の武器の解呪をしてもらった。これで魔物達に使わせられるぞ」


 二つの武器を差し出すと、目を輝かせて手に取る。


「ありがとうございます。じゃあ、早速育成スペースで試してみましょう!」


 今度は育成スペースへ移動。

 魔物に使わせる前に自分で試すと言い、おりゃーと気合いを入れて骨蛇腹剣を振るう。

 見事に扱えていない。

 鞭のようで鞭でない独特の軌道に扱いが上手くいかず、まるで下手な曲芸でも見ているような動きで、挙句の果てに自分に当たりそうになって転んだ。


「なんのこれしき!」


 続いて腐敗機関銃を手にして、ゴブリンに用意させた的を目掛けて撃った。

 見事に全弾外れ。

 主な原因は反動を抑えられないのと、発砲音に驚いて銃口がズレたから。

 使った本人は落ち込んでいるけど、いきなり扱えるとは思ってなかったから、俺としては予想通りだ。


「武器としては良い物なんでしょうが、扱いについては訓練を積まないと無理ですね」

「分かった。焦らずじっくり頼む」


 どんな理由であれ、使えそうなら使わないと勿体ないからな。


「承知しました。では休憩後、どの魔物に向いているかを検討します」

「頼む」


 さてと、司令室業務に入るか。

 司令室に戻ってアビーラと交代して、ダンジョン内の様子を確認しながらコアを操作して、今月の給与振り込みと税金支払いの手続き進める。

 後でこれらを基に今月の収支報告も作るから、しっかりやっておかないとな。


「ご主人様、侵入者を二名捕獲しましたが、対応はいつも通りで?」

「ああ。それで頼む」

「涼。これ、さっき倒した冒険者が持っていた装備の鑑定書と、能力を解析した結果な」

「ありがとう」


 どれどれ?

 収納袋は予備も含めて結構な数があるから、これ以上手元に置いても扱いに困る。他に何か利用方法がないか、皆と話してみるか。

 装備品は悪くはないけど、確保してあるのに比べると数段落ちるから売っちゃおう。 


「装備品は全部売却して構わないけど、その前にアビーラにも見せて、加工したい物があるか聞いてくれ」

「分かった」


 最近のアビーラは侵入者が持っていた装備品を回収し、それを加工して強化する事に凝っている。

 それらの武器は魔物達に配り、ダンジョンでの戦闘で活用させてもらっている。

 前に魔剣・腐滅を加工したいと言ってきたこともあったけど、その時は。


『やれるものならやってみろ! その前に貴様を腐らせてくれるわ!』


 と言われてビビって諦めた。

 呪いを解除するかどうかの時も、似たようなことを言ってたっけ。


「マスター、戻りました」


 眠そうな表情のリンクスが、あくびをしながら入ってきた。


「お疲れリンクス。そっちはどんな感じだ?」

「イイ声で鳴いてくれるし反応もいいんですが、もう一歩のところで堕ちませんね」


 そうか。

 前に先生が言ってたけど、女騎士って気が強いのか?


「ただ、ちょっと趣向を変えてみたら手応えがあったので、明日からはそっちで攻めてみます。今日はもう、これ以上やったら壊れちゃいそうなんで」


 おいおい、本当に一体どんな事やってんだよ。

 まあ、手応えがあったのなら一歩前進か。


「そうか。まあ、無理しない程度に頑張れ」

「分かりました。じゃあ、少し仮眠をとってきますね。今夜は夜勤なので」

「ああ。しっかり休んでこい」


 さてと、じゃあこっちも負けないよう仕事に励みますか。

 無理はしない範囲で、ほどほどにな。


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